年功序列が終わる時代で思うこと。- 令和ビジネスパーソンの選択肢 –

年功序列が終わる時代で思うこと。- 令和ビジネスパーソンの選択肢 –

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よく知られた話ですが、欧米では年収額は年齢には関係ありません。一例をあげてみましょう。米Facebook従業員年収の中央値は22万8,651ドル(約2,500万円)。中堅の日本企業では社長の年収も、それ以下のことが少なくないのが現状。

米サンフランシスコでは年収1,400万円でも低所得とみなされるそうです。物価が違うので額面だけでの比較を単純にはできませんが、日本の世帯平均年収は550万円。

米シリコンバレーの特に先端技術のエンジニアでは、マネジメントでなくても4,000万円以上の年収を得ている人がごろごろいます。

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少子高齢化の中人材採用は年々厳しくなっていますが、技術革新のスピードアップは止まることを知らず、生き残るためにはともかくスキルある人材確保が大前提。

従来日本では優秀な新卒を採用しても、一般の新卒と比べて待遇が格段に違うことは、まずありませんでしたし、先輩や上司より給料が高い新卒もおらず、それを誰も不思議に思いませんでした。そんな年功序列型の給与体系が根強く日本が、今グローバルレベルでの人材獲得競争に、全く太刀打ちできなくなっているのです。

世界は日本の現状をどうみているのか

世界は日本の現状をどうみているのか

アジアのホワイトカラーのかつての憧れは、安全で食べ物も美味しい日本で、高待遇の日本企業で働くことでしたが、今では日本がアジアで最も年収が低い国になりつつあり、「日本では儲からない」と日本で働くことを望まない、アジアンエリートが多いのです。

少し古いデータですが、グローバルコンサルティングファームの米Mercerが世界129ヶ国と中国19都市で実施され、グローバルトップを含む32,000社以上/1,300万人以上のトップポジションから一般層までの全職員の報酬情報を収集、提供する総報酬サーベイ(Total Remuneration Survey=TRS) を基に、2007-17年のシステム開発マネージャーの報酬を分析してみたところ、2007年を100とすると、2017年の年収は日本は99と微減。一方ベトナムは145、中国の上海では176でした。

別の資料も見てみましょう。2017年における日本の1人あたりGDP(国内総生産)は、3万8,000ドル(約430万円)でしたが、マカオでは7万7000ドルと日本の2倍以上という結果。1人あたりのGDPはその国の平均賃金と考えられますから、マカオではつまり平均的なビジネスマンが、800万円以上の年収を稼いでいるわけです。

香港の1人当たりGDPは4万6,000ドル、シンガポールの1人あたりGDPは5万7,000ドルといずれも日本より多く、中国でさえも、上海や深圳などのホワイトカラー層の収入は、マカオや香港、シンガポールに近づきつつあります。

これではアジアの優秀な人材が、もはや日本を目指さなくなってしまっても仕方ありません。

大手IT企業が動いた

大手IT企業が動いた

インダストリー4.0では新興国にも遅れをとった日本が、AIやRPAなどの先端技術で今後他国より前に出るには、優秀なエンジニア人材の確保が必須なのは言わずもがな。しかし従来の給与体系では手塩にかけて育てた人材も三年経つと、ハイリターンの外資系企業に転職してしまうという負のスパイラルが。その背景には国内企業のみならず、どの国でも優秀な人材を国籍にこだわらず急募しているので、ITエキスパートにとって世界的な売り手市場が続いているのです。

若者の海外離れと日本ではいわれていますが、もっと面白そうな仕事内容で、かつ給料が格段にアップするなら、海外で働くことだって構わない若手エンジニアも実は増えているのです。欧米のIT企業が、誰もがワクワクできる仕事と報酬額を提示すれば、飛びつく若手は少なくありません。

現状に危機感を強めた日本企業では、優秀な若手人材の海外流出を阻むべく、横並びの年功序列型を脱却し、市場価値を反映しようとする動きが横並びに起こり、若手を基準とした市場価値に見合った評価を導入し、研究者や技術者の報酬を増やす取り組みが始まっているのです。ついにその時がやってきました。

NEC

NECでは2019年10月から社外の評価を反映した、若手研究者の報酬額を決める制度を導入しました。つまり学生時代に知名度のある学会で、論文発表などの実績があれば、新卒でも1,000万円を超える報酬を支給するというものです。ちなみに同社に2018年4月に入社した、博士号を持つ新卒の初年度月収は28万9,000円で、年2回の賞与を加えて年収は500万円未満。

実はNECには以前から優れた研究者を管理職に抜てきし、年収に上限を設けない制度がありました。それによりピンの研究者に対して、役員並みの年収で2,000万〜3,000万円程度を支払う例もありましたが、20~30歳代の若手は対象外だったのです。今回の新制度では年齢を問わず、能力や実績を考慮して決めることになりました。

海外の研究者は世界中の研究所を転々とすることをよしとする傾向があるため、NECでは海外勤務の研究員に対しては、現地水準に合わせた柔軟な給与体系にしているのですが、日本も人事制度を変え、今後は海外の若手も呼び込みたい考えです。

富士通

富士通では2020年度までに、AI人材をグループ全体で現状の7割増の2,500人規模に増やす計画があります。その計画に従い、2018年にカナダのバンクーバーに設立したAI子会社では、優れた人材に日本の役員並みの年収数千万円を保証する制度を設立し、人員を200人程度にまで増やす予定です。

この制度の詳細はこれから明らかになりますが、十分な実績を残せば、若手でも3,000万~4,000万円の年収が得られるものであると考えられ、市場価値が極めて高い人材の場合は、役員レベルの処遇も想定しているとのこと。

これは米シリコンバレー化しなければ、人材確保が難しい状況までなっている表れなのでしょうか。

年収横並びからの脱却

IT人材の獲得には、中途採用の相場を中心に高騰し続けているのですが、前述した2社以外でも中途採用を続けながら、年功序列制度を脱却すべく、新卒人材をも報酬面で厚遇して育てる方針を明確に打ち出しています。

ソニーでは2019年度から、先端技術に強い新卒社員の年間給与を、最大2割増しにしましたし、NTTデータは2018年からピン人材を狙って、年収2,000万〜3,000万円以上をコミットする制度を始めました。LINEでも優れた若手技術者には、年俸1,000万〜2,000万円を出しています。

このように従来では想定すらできなかったことが、日本で起こっているのですが、GAFAに代表される海外のプラットフォーマーとは、待遇にいまだ格段の開きがあることは否めません。

え、あのくら寿司も?

え、あのくら寿司も?

回転ずしチェーン大手くら寿司の幹部候補生採用である、「エグゼクティブ新卒採用」が外食業界で話題となっています。

2020年春の新卒採用において、入社1年目から年収1,000万円の幹部候補生を募集するというものです。26歳以下(就業経験者、卒業後に1年以上ブランクがある場合は対象外)という年齢制限に加え、TOEIC800点以上、簿記3級以上といった応募資格が設けられおり、最大で10人採用する計画。

外食業界において、新卒で年収1,000万円の提示は、他に例がありません。会社四季報の業界地図2019年版によると業界別40歳モデル平均年収で、外食は491万円と64業界中57位。首位のコンサルティング(1,316万円)や2位の総合商社(1,232万円)と比べると、1/2以下です。

エヌピーディー・ジャパンCRESTの調査によると、国内での回転寿司の市場規模は2015年に6,000億円を超え、2018年は6,756億円。頭打ちともいえる状況が出来上がった今、各社が勝ち残りに向け新規事業開発にしのぎを削る中、くら寿司が最も注力するのが海外展開なのです。

しかし海外展開のためのマンパワーが十分ではなかったので、近年は中途採用で海外での経営の中核を担う人材を募集してきましたが、依然として人材不足は続いていました。そこで業務経験はゼロでも、新卒の中に海外展開を任せられる人材がいるのではないかと考え、今回の施策を行うことになったのです。

またくら寿司の有価証券報告書によれば、1,252人いる従業員の平均年収は450万円程度(平均年齢30.4歳、2018年10月末現在)ということなので、エグゼクティブ採用枠で採用されるた新卒は、業務経験のない1年目から、従業員の平均年収の2倍超の収入を得ることになります。

くら寿司は2020年春に約230名の新卒を採用する計画ですが、今回募集するエグゼクティブ採用の10名は特別枠としてこれには含まれません。この10名は入社して最初の2年間は店舗研修に加え、商品部や購買部など本社の主要各部門でOJTを受けます。そのあと約1年では海外研修に参加し、研修後は適性に合った部署に配属され、部長職相当の業務を担うことになります。

1年目は1,000万円が支払われますが、2年目以降に期待に見合う実績がでなければ、年収が下がることになり、会社のみならず学生にとってもハイリスクハイリターンな取り組みといえるでしょう。この取り組みの結果により、IT業界以外での新卒エリート採用の今後の方向性が決まるのかもしれませんね。

年功序列が崩れると

年功序列が崩れると

第2次世界大戦の敗戦で、男性が多く戦死してしまいました。働き手欠乏状態から抜け出すために、経営者自らが若い人を企業戦士に育て上げていったのです。そして時代はまもなく高度経済成長に入り、日本が急速に立ち直ることができたのは周知の事実。

世界経済の雄の仲間入りした後の日本の大企業には、毎日何をしに会社にくるのか疑われる人がいても、決して解雇されませんでしたし、どこから見ても致命的に能力不足で、責務を果たせていない管理者も多くいました。彼らは年齢が高いことで年功序列に守られ、その能力と成果に全く関係なく高い給料を得られたのです。

年功序列から成果主義になれば、そういったぬるま湯に使っていた人々は、会社にいられなくなり、能力がありモチベーションのある人だけが残ると考えられます。しかし成果が待遇に直結してしまうため、チームや部署全体の実績よりも、自分自身の成果を強調するスタンドプレーヤーが増えることは危険なのです。上司、同僚に対して敬意を払えず、自分だけがよければそれで良いという考え方をする従業員が増える、チームワークが乱れて、ひいては企業全体のパフォーマンスが悪化することも考えられます。

日本企業のTo-DO

日本企業のTo-DO

どのような方法で必要な人材を確保するのが、日本企業にはベストなのでしょうか。欧米のサル真似で、いきなり成果主義に変更するのには問題があります。しかも採用される側にとっては、むしろお金だけの問題ではなさそうです。

海外企業では常識的なリモート勤務やサテライトオフィス勤務、あるいはフレックス導入、通年での新卒採用、キャリアプランの明確化などの用意は既にありますが、まずは働きやすい環境の提供から始めるべきですね。近年は働き方改革推進のために活用できる、国の支援策や助成金制度もあるので、その活用も良いと思います。

そして年功序列制度のメリットは残しつつ、成果主義を導入するという難しい命題をクリアできれば、人材確保の王道が見えるのではないでしょうか。

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