みずほ銀行とソフトバンクの提携|金融だけじゃない、どうしてもくっつきたかった理由

みずほ銀行とソフトバンクの提携|金融だけじゃない、どうしてもくっつきたかった理由

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一昔前なら考えにくかった異業種提携が、今では様々な業種間で生まれています。通信業と金融業もその例外ではありません。

2020年6月、ソフトバンクとみずほフィナンシャルグループ(みずほ FG)は、レンディング分野、スマホ証券分野および決済代行分野といった、次世代金融事業における戦略的提携を行うことで同意しました。今回はこの提携強化により2社が目指すものと、この提携が成功するかどうかについて確認してみたいと思います。

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両社の提携関係は、実は2016年から始まっていた

両社の提携関係は、実は2016年から始まっていた

ソフトバンクとみずほ FGのグループ会社のみずほ証券は、2016年6月にスマホ証券会社であるOne Tap BUYへそれぞれ出資し、この度の連携強化発表と同時期に、ONE Tap BUYが両社の共同経営体制での合弁会社になることが発表されています。

また2016年11月に、AI スコア・レンディングのJ.ScoreをみずほFGのみずほ銀行と、ソフトバンクが共同設立。ちなみに同社の登録商標であるAIスコア・レンディングとは、顧客の信用力や可能性をAIでスコア化し、金利や極度額などの条件の参考値を提示する、個人向け消費性金融サービス(融資サービス)のこと。

双方の事情

日本が誇るメガバンク3行のリーダー格のはずだったみずほFGですが、2019年3月期の決算では、基幹システムの刷新や海外債権の処理などで6,954億円の損失を計上し、いつの間にか3番手に甘んじています。それどころか「メガバンクから脱落するのでは」まで言われてしまったみずほFGでは、CEO自ら2019年度からの5か年経営計画の実行と、次世代金融への転換の実現を目指すことを発表。

その後異業種提携を積極的に進めながら、オンラインサービス開発にも取り組み、スマホ決済サービスのJ-Coin Payのリリースを発表しましたが、テストシステムが不正アクセス被害に遭い、1万8,000件のデータが流出したことで出鼻を挫かれてしまいました。

やはりここはITの雄と握らなければと考えて、ソフトバンクを提携先に選んだかは不明ですが、少なくとも自社融資の大型顧客である、ソフトバンクが相手だったのは自然といえば自然。

投資事業の小会社である、ソフトバンク・ビジョン・ファンドで、多くのスタートアップに大型投資を行ってきたソフトバンクは、シェアオフィスWeWorkの大損失に始まり、格安ホテルチェーンOYOの中国市場での失墜などで、今後1.8兆円の損失が想定されています。

しかしPayPayの追い上げが成功していることもあり、フィンテック事業での挽回を狙っているのは明らかで、そのために自社のメインバンクであるみずほ銀行→みずほFGとの提携は必要不可欠だったのではないでしょうか。

今回の提携強化でのポイント

今回の提携強化でのポイント

すでに連携・協業関係がある中で、今回の提携強化を行う理由は何でしょうか。協業関係が開始された2016年と比べると、世の中はさらにデジタル化が進み、老若男女年問わず多くの人がスマートフォンを活用し、時間や場所に縛られないスマートライフがを志向する動きが強まったことに起因します。

さらにコロナ禍でリモートワークや対面でのサービス提供が困難になる中、金融事業でもスマートフォンなどを活用した、現行以上に利便性の高いオンラインサービスがますます求められているのです。

ソフトバンクとみずほFCの提携事業第1弾として、2020年度中にレンディング分野と証券分野での協業強化が発表されています。20-30代の顧客層を広げたいみずほFCと、金融に軸足をもっと広げたいソフトバンクの意向がマッチした結果といえるでしょう。

レンディング分野

レンディングでは前述のJ.Scoreのビジネス強化を図ります。具体的な施策としては、登録者が約3,000万人を突破したソフトバンクグループのPayPayの協業により、2020年内にPayPayの利用者が、PayPayの画面上からJ.Score のAIスコア・レンディングサービスを利用できるようになるというもの。これを通じてレンディング利用者層のさらなる拡大を図り、多様化する資金ニーズへの対応を強化するのが狙いです。

また2019年12 月にJ.Scoreでは、日本IT団体連盟が2018年から設置する情報銀行推進委員会の情報銀行P認定(P認定とはそのサービスが開始できる状態にあることを意味する)を取得していますので、AIスコア・レンディングサービスと合わせ、個人顧客が情報を自分で管理できる、情報銀行ビジネスへの参入することにより、個人顧客へよりセキュアなシステムを提供と、各顧客に適したAIスコアリワードの提供を目指します。

J.Scoreではまた、インド中心に3億人のアプリ登録者を抱える金融サービス事業者で、PayPayの技術提供も行う印Paytmの研究開発部門であるPaytmLabs Inc. の技術協力を得て、AIスコア・レンディングサービスの提供機能を高度化を狙います。

証券分野

1,000円から3タップで株式売買ができるOne Tap BUY。2020年4月からPayPayのミニアプリで、PayPayボーナスを用いた疑似運用体験サービスであるボーナス運用の提供を開始しました。この連携でPayPayユーザーに、投資にも興味を持ってもらうことが狙いです。

すでに言及した通り、One Tap BUYをソフトバンクとみずほ証券の共同経営体制へと移行することで、両社グループのリソースやノウハウ、顧客基盤が有効活用できるようになります。

One Tap BUYのこれまでの株式売買サービスに加えて、投資信託による積み立て投資サービスなどのサービスの拡充、サービス機能の強化と基盤拡大を図り、PayPayと連携強化では、ユーザーの生活に根ざした、身近でわかりやすく、利便性のよい資産運用サービスを今後徐々に拡張し、貯蓄から資産形成(投資)へのプロセスの確立を目指します。

決済代行分野

決済代行分野

提携事業第2フェーズの目玉となり得る決済代行分野では、どんな計画なのでしょうか。現金主義が通常であった日本でも、スマートフォンの普及やデジタル社会への移行が進み、加えて新型コロナウィルスパンデミックにより決済手段が多様化し、特にキャッシュレス決済の割合が急激に増えてきました。

この度の提携強化では、ソフトバンクグループである SB ペイメントサービス(SBPS)の豊富なオンライン決済代行機能を、みずほFCグループに提供します。加盟店(リアル店舗)のEC進出ニーズや、法人顧客の EC 決済ニーズや多様化する決済手段に対応し、販売の機会獲得増加を目指して、共同で検討を進めていく計画です。

また、SBPS が保有する AI 不正検知ノウハウと、みずほグループが持つ決済・金融データを活用した AI 不正検知ソリューションとを組み合わせた、安全で簡単な認証サービスの新たな展開を検討するとともに、双方が保有するオンラインおよび、リアル領域の事業基盤やノウハウを生かした新たなソリューションの開発にも今後注力していくと考えられます。

ライバルの動向は

ライバルの動向は

次に他のメガバンクでは、どのような取り組みをしているのかも確認してみましょう。

三井住友F+SBIホールディングス

2020年1月に三井住友フィナンシャルグループ(三井住友F)SBIホールディングス(SBI) が、ブロックチェーン分野での協業を発表し、デジタル分野での関係構築を始めていましたが、2020年4月にはスマートフォン金融などデジタル分野を中心に、幅広く提携することが発表されました。

その内訳では三井住友FがSBIグループのスマホ証券企業である、SBIネオモバイル証券の株式20%を取得することに加え、SBIが今後設定予定のデジタル企業向け新ファンドにも、三井住友Fが出資するというもの。

また、SBI証券子会社のSBIマネープラザと、三井住友Fの子会社であるSMBC日興証券が提携し、共同で地方銀行などへ、対面での証券ビジネス提供と、SMBC日興のSBIマネープラザへの出資が今後検討されます。さらにSBI証券とSMBC日興の、証券システムの内製化と共通化の検討にも入るとのこと。

MUFG + KDDI

三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のグループ会社であったカブドットコム証券に、2019年2月にKDDIが資本参加したことで、業界は大いに湧きました。インターネット金融サービスの強化を図ってきたモバイル通信大手のKDDIと、フィンテック領域でイニシアチブを取りたいMUFG・カブドットコム証券の戦略が、その後まもなくデジタル金融企業のauカブコム証券として生まれ変わったのです。

auカブコム証券の最大の特長としては、バックシステムからフロントシステムまで、システムが完全内製化(自社開発・運用)ということが挙げられます。そのためきめ細かいサービスの提供と、高い経営効率性を実現できるというもの。

メガバンクのグループ会社でありながら、メガ通信キャリアのグループ会社であることが二番目の特長といえます。MUFGのグループ会社、KDDIのグループ会社2つの顔を使い分けることで、グループ各社とのさまざまな連携が可能であり、「かゆいところに手が届く」サービス展開に期待が持てるのです。

番外編:MUFG+Grab

2020年2月MUFGでは、シンガポールの配車大手Grabに最大7億600万ドル(約780億円)出資することを発表しました。MUFG最大の武器である金融に対する知識やノウハウと、Grabが保有する先進技術やデータ活用手法との融合により、Grabの利用者に対して、次世代金融事業の提供を行うという、グローバル規模の計画です。MUFGにとって、今回の提携が新たな金融ビジネスモデルへの挑戦となり、国内では次世代デジタル金融事業の早期実現を目指します。

以前からMUFGでは、タイのアユタヤ銀行やインドネシアのバンクダナモンなどへ戦略的出資を行うことで、東南アジアでのビジネス基盤を整えつつありました。Grabとの提携により、パートナー銀行とのシナジー効果と事業拡大に勢いがつくと期待しています。

当面Grabが日本でライドシェア事業を行うことがありませんが、MUFGとの提携により東南アジアで銀行口座を持たない人に金融サービスを提供する(金融包摂)ビジョンが具体化する日が近づくことはGrabのビジネス拡大にとってメリットと考えられます。またGrabのAIアルゴリズムとMUFGの金融知見との組み合わせで、AIラボの開設を共同で行うことが検討中とのこと。

みずほFGとソフトバンク連携は成功するのか

みずほFGとソフトバンク連携は成功するのか

次世代金融事業で成功するには、既存の概念を払拭することが最優先だと考えられます。ですから異業種との連携により、新しい道が開けることが少なくないので、みずほFGとソフトバンクの選択は間違った戦略ではありません。またみずほFGの傘下にはメガバンクの中で、唯一大手消費者金融がないので、他行のような消費者金融店舗などの固定費負担がありませんから、有利といえるでしょう。

しかし既存のJ.Score、One Tap BUYはある程度の知名度はありますが、安定した利益はでていません。すぐに結果が出るとは思えませんがアドバンテージもあるので、更なる提携や、機能の充実などで、生き残り策を確立していけるのではないでしょうか。

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