DXに乗り遅れた企業はただ死ぬだけ、の世の中になった。
デジタル技術の急激な進化により、画期的な新製品やサービス、そしてビジネスモデルが誕生し、日常生活にも変化を与えています。デジタル化によって社会や経済に対する世界観が大きく変わる中で、企業にはどのような適応が求められるのでしょうか。
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コロナ禍の影響で、DXの取り組みがスピードアップすると考えられています。企業にとって正しいDX施策について、今回は考えてみたいと思います。
目次
DXのおさらい
デジタルトランスフォーメーション(DX=Digital Transformation)の言葉の定義を明確に理解できていますか。
DXとは、ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させるという概念。つまり市場環境のデジタル化に対応するために、企業が行うべき全ての経済活動と、それを構成するビジネスモデル、加えて企業文化までも変革していく施策のことです。
2004年に発表されたDXの概念
スウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が、2004年に初めてDXの概念を提唱。以下でDX研究の方法論を述べた彼の論文でから、DXの特徴について書かれた文章を、Wikipediaの記事から引用してみましょう:
- DXにより、情報技術と現実が徐々に融合して結びついていく変化が起こる。
- デジタルオブジェクトが物理的現実の基本的な素材になる。例えば、設計されたオブジェクトが、人間が自分の環境や行動の変化についてネットワークを介して知らせる能力を持つ。
- 固有の課題として、今日の情報システム研究者が、より本質的な情報技術研究のためのアプローチ、方法、技術を開発する必要がある。
しかしこの説明だけでは、具体的に企業はDX推進のために何をしたらいいのか、??ですね。
日本で定義された、企業にとってのDX
2018年12月にデジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)が経済産業省から発表されましたが、その中でのDXの定義は次の通りです。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
DXとは企業文化まで変えて、取り組むべきであることを示していますが、DXを実現できても、企業の業績が悪くなったら意味がありません。企業にとって利益の追求はマスト項目でですから、安定した収益を得られるような業務プロセスを、DXで開発することもDXの定義に加えるとより明確になりますね。
Why DX?
DXが注目されるようになった理由は、GAFAなど新興勢力が、既存産業を破壊しえる存在となり、あらゆる産業が破滅の危機に晒されていることが挙げられます。また経営者の立場では、競合他社と位置付けることが今までありえなかった異業種からの企業が、デジタル技術を活用して脅威となることが頻繁に起こってきたのです。
しかしそれを逆の立場で考えたら、DX推進の成功で競合に市場競争で勝利できたり、異業種へ参入し新規市場でパイオニアになるなど、無限の可能性があります。
2025年の崖問題
マイクロソフト社の調査によれば、2021年までに日本のGDPが、DXの導入で約11兆円増え、年間成長率が0,4%増加すると推測され、GDPに占める割合が2017年には約8%に過ぎなかった、モバイル、IoT、AIなどの技術を活用した製品やサービスが、2021年までに6倍以上の約50%まで到達すると予測されていました。しかしながらその恩恵を得るためには、直ちに解決すべき課題が日本にはあったのです。
2018年5月に経済産業省が「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」を設立。この研究会では現状のITシステムに関する課題の整理した上で対応策の検討を行い、その後同年9月に「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」が発表されました。これが多くの企業に衝撃を与えたのです。
各企業の保有する既存システムに関して、具体的な数値を上げながら、次のように言及されています:
- 8割の企業で老朽化した既存の基幹システム(レガシーシステム)を抱えている。既存システムの存在がDXを推進する上での足かせになる
- 2025年までにシステムの刷新を行わないと、次のことが起きる:
- 市場の変化に合ったビジネスモデルへ移行できないので、デジタル競争の敗け組になる
- システムの維持管理費が高額化し、業務基盤そのものの維持・継承が困難になる
- レガシーシステムの保守ができる人間が年々少なくなるので、システムトラブルやデータ滅失などのリスクが高くなる
このDXレポートでは、このレガシーシステムに固執したままでは、2025年に多大な経済損失が発生の危険性を伝え、それと同時にDXの重要性を示しました。このレポートがきっかけとなり、多くの企業では、デジタル技術を活用した事業改革や、イノベーションへの取り組みを開始することになったのです。
DXの本質
ありがちなのは、AIやIoTなど先端技術の活用や、その技術で新規サービスを構築することだけが、DXだと勘違いすること。DXの推進のために、CDO(Chief Digital Officer=最高デジタル責任者)やデジタル専任組織を設置しても、専門部署や責任者にDXの推進を丸投げしていては、DXの本質から外れる可能性が大です。
DXの本質とは技術革新に止まることではありません。デジタル技術というツールを活用して、企業全体を再構築することです。成功するDX推進のポイントは、次の4つと言えるでしょう:
- 社内全体での意識改革:DXで何ができるのかを具体的に示すことで、全社をDX推進に巻き込む
- 既存システムの課題分析:DXで実現したいことを精査し、既存システムだけでは何が足りないのかを認識する
- スムーズな情報共有:部署、部門同士の横の連携と、システム管理の現場と経営陣との上下の連携による、意識のすり合わせ
- DX評価指標で現状の把握:経済産業省のDX推進指標などを活用し、自社を分析しアクションプランを作成する
DXを推進した成功例
実際にDX化したことで、利益を生み出した企業を紹介します。
1. 家庭教師のトライ
約30年にわたって蓄積された指導方法や、充実のサポート体制を完備した個別指導スタイルを特徴とする、家庭教師のトライ。今ではアルプスの少女ハイジが出てくる、TV CMでもお馴染みですね。
家庭教師が実際に授業をするという従来のスタイルでは、生活スタイルが多様化した現代では対応不十分となり、また学習スピードが皆違う生徒一人一人のサポートが十分に行えないという課題が生まれていました。
そこで生徒自身がPC・スマホ・タブレットを通じて、受けたい授業を時間や場所を問わずに利用できる映像学習サービスTry ITを開発したのです。このサービスでは、映像で学習するだけでなく、映像を視聴中にスマホをシェイクすると、直接教師に質問がライブで出来るという仕組みも搭載。
Try ITのリリース後、公式会員の登録者数は100万人を突破し、全国200以上の自治体・行政機関・学校等に学習支援事業も行っています。また映像授業を専門とする塾の設立など、新たなビジネスが生まれるきっかけもできました。
2. Shake Shank
米ニューヨーク発祥のハンバーガショップであるShake Shackは、お洒落なファストフードレストランとして、世界的に知られています。日本には2015年より進出し、2020年3月の店舗数は、東京都内中心に13です。
Shake Shackでは、従来よりも簡単にフードやドリンクを注文でき、これまでに培ったブランド力やサービス品質を維持できるデジタルツールが必要でした。
まず注文からカウンターに商品を取りに行くまで、店内のあらゆる段階での顧客体験(Customer Experience=CX)の分析を行い、その結果から注文時の待ち時間短縮が実現でき、顧客のストレスや混乱を排除するシステム設計の構築に役立ちました。加えてキオスク端末を開発し、サービスクオリティや売り上げを損なわずに店頭での注文を合理化。
継続的な分析と定期的な改善の実施で、スムーズな注文プロセスの提供に加え、レコメンド機能によるクロスセルやアップセルの機会を生み出し、さらに顧客の意向に合わせたサービス提供を可能にしました。モデルケースとして導入した店舗では、顧客単価が15%増加しただけでなく、人件費の削減にも成功。すごい成果ですよね。
アフターコロナ時代に
全国的な緊急事態宣言が終了した今、アフターコロナに向けて企業はまず何をすべきなのでしょうか。いつ新型コロナウイルスのワクチンが世の中に出回るか、世界経済のV字回復はいつ起こるのかなど、今確信が持てることはほとんどありませんが、DX推進に邁進しなければ、アフターコロナでは生き残れないと危機感を抱く人が多い企業は、乗り切っていけると考えられます。
例えば情報システム部門では、世の中に何が起こっても、事業を継続するためのシステムを、直ちに備えておかなければならないという考えを持つべきです。
ニューノーマルとも言われているように、アフターコロナでも、従来の生活やビジネスモデルに100%戻ることはありえないと考えられます。加えてコロナ感染の第2波、第3波だけでなく、今後起こり得る未知のリスクにも対応できる、生活様式やビジネスが求められるのです。今度こそDX推進を「成功」させるしか、企業存続の道はありません。
コロナ禍が後押ししたDXの動きの1つとして、社会人ほとんどが経験したのが働き方のDXでしょう。政府からの要請によるリモートワークの実施に加え、日本では100%ペーパーレスは無理といわれてた契約書や請求書の電子化や、印鑑(押印)に変わる認証サービス(eSignature)の導入に着手する企業が、IT企業のみならず製造業でも増えています。
多くの企業では、アフターコロナでもリモートワークは定着が前提となるため、リモートワークのためのネットワークセキュリティの強化や、パフォーマンス向上の措置を進めています。
オンライン会議も定着するはず。対面のミーティングと異なるミーティングスキルの会得のため、オンライン学習制度の導入や、リモートワーク対応でのメンタルヘルスサービスも必要になりますね。DX推進には終わりがありません。
もう後戻りはしない
アフターコロナにおいて、企業に最初に求められるのは、世界的な景気後退への対応でしょう。
そのためこれから先は、物理から仮想、モノからサービス、所有から共有、生産・消費から循環・再生など、コロナ禍では多種多様な分野でのパラダイムシフトが加速します。
気をつけるべきなのは、アフターコロナにコロナ感染が流行する以前に行ってきた事業を、全く同じビジネスモデルで、同じ業務プロセスによって遂行しようとしないことです。
つまり以前のアナログプロセスに戻ってしまうようなことがないように。そしてアフターコロナでは着実にDXを進め、成功させることです。
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