スモールマスへ市場がシフトしていることを常に意識しているか
スモールマス市場が注目されています。スモールとマスという二つの言葉、字面を見ると相反する言葉の組み合わせに見えますが、実は今の時代に売れるキーワードが、スモールマスなのです。
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目次
スモールマスとは
一定の規模が見込める市場を再定義しようというところから、スモールマスの考えが始まりました。SNSの普及やビッグデータ解析などの先端技術の進歩で、消費者の年齢層や性別、所得水準などによる、多岐にわたる好みや嗜好に合わせた商品開発が可能になってきたことも、スモールマス市場の成長を後押ししています。
企業の尽力が市場が創造したという従来型手法と異なり、コミュニティのファン同士のちょっとした会話から、スモールマスの新しいネタは生まれてくるのです。
消費者のライフスタイルの多様化が進んだために、マス(的)市場がなくなったと言っても言い過ぎではありません。今や10%以上のシェアを持つブランドを見つけることなど、特にコンシューマー向け商品ではほとんど困難です。その一方で多くのスモールマス市場が生まれています。
デジタル上の口コミやつぶやきなどをヒントに、デジタルに特化したプロモーションをいくつも仕掛けること。つまりネット経由の情報配信と、ネット上の商品露出といったマーケティングプロモーションをダブルで行うことが、スモールマス市場での主な手法なのです。
洗剤やトイレタリー製品で日本ナンバーワン、カネボウ化粧品を傘下に持つ化粧品ではナンバー2の花王が、2015年ごろから「スモールマス」を自社のプロモーションに使い始めましたが、今では用語が一人歩きし、他業界にも広まってきました。
以前のコスメ市場はコンサバだった
日本のヘアケア製品やコスメ市場は花王など大手メーカーの製品で占められた、典型的なマスマーケティング市場で、実績のない新参者がコンビニやドラッグストアの陳列スペースを獲得することはほとんど不可能でした。
化粧品ではその傾向がさらに強く、資生堂などの独占市場でしたので、小規模の新興メーカーの商品は売場にも並べてもらえず、品質がどんなに素晴らしくとも、苦戦を強いられたのです。
業界の様子が変わってきた
インターネットが広まり、今では宣伝の方法が大きく変わりました。新聞や雑誌に大きな広告を出す時代から、ネット上で小さく始められるデジタル広告の台頭で、小さいメーカーも大きな武器を得たのです。
消費者の購買スタイルの変化も見逃せません。以前は大手メーカーの化粧品を使う(購入できる)ことが一種のブランドで、プチプラの商品が蔑まれていましたが、人より先に良いものを見つけて、使うことが楽しいと思う人が増えました。
そして市場ではこだわり商品を選ぶ人が増え、スモールマスブランドに人気が高まったのです。自分の好み通りの商品が欲しいとか、自分だけに特別なきめ細かい対応をしてほしいといった、消費者の細かくて多様な要望に、マスブランドでは到底太刀打ちできなくなっていきました。
花王の調査からヘアケア市場において、マスブランド商品の比率が2010年に70%以上だったのに対して、2018年には50%まで縮小したことが明らかになったことからも、スモールマス商品へのシフトは明らか。
多少値段が高くても、自分が好きなようにカスタマイズできる通販ブランドや、少量生産のマイナーブランドなどが、スモールマス市場の代表選手といえます。今や若い女性がトレンドを作るといわれていますので、彼女らに自社商品のシンパになってもらうのが、商品が売れる鍵となるための対応が各メーカーの急務なのです。
オペラの口紅
多くの小規模メーカーは、まだインターネットがない時代から通信販売の仕組みを作り、細かいニーズにも真摯に応え、コツコツと顧客開拓をしてリピートしてもらうビジネスプロセスを確立してきました。当時は顧客の数だけ商品があるようなビジネス展開では、維持するだけでも大変でしたが、その経験がスモールマス市場では強力な武器になっていることはいうまでもありません。
口紅で最近人気があるのがイミュのオペラ。実はオペラの口紅は、大正時代に生まれた歴史ある息の長いブランドなのです。マス広告をしていないので、デジタルに弱い中高年層齢層にはあまり知られていませんが、ネットショップの充実度はもちろんのこと、街中でも取り扱っているお店が多いので買いやすく、値段も手頃なので、今や若者には知られたブランドといえるでしょう。
イミュの躍進ぶりは口紅だけではありません。マスカラ、アイライナーといったコスメ系の商品も。Dejavuはドラッグストアで買えるマスカラとしては、ちょっぴりお高いですが、熱狂的なファンの口コミにサポートされ、ブレークスルーしたそのユニークなラインアップは、年中売り切れ品薄状態です。
新興企業にとってチャンスの宝庫
顧客ターゲットを明確にして、販売するものを絞り込む時代が到来しました。一つ一つのスモールマス市場規模は小さくとも、商品の数だけ市場の数は増え続けるので、一つの企業が複数のスモールマス市場で売上を上げるビジネスが成り立つのです。
世の中がより細分化し、多品種少量生産体制が現実となった今では、大手メーカー独占状態だった業界で、小規模な企業にもチャンス到来といえます。
現在はコスメ市場のみならず飲料や菓子、ビールやワインなどさまざまな業界でスモールマス市場が広がってきたので、大手企業もマスマーケティングと並行して、スモールマス市場にも注力する必要が。
スモールマスはデジタルに閉じた世界?
スモールマスの背景にはコミュニティがあり、そのコミュニティを見つける際にデジタルは大きく役立ちますが、デジタルに閉じたものではありません。そのコミュニティ自体はインターネットなどデジタル上だけに存在するだけでなく、リアルなものも無視できないのです。
マスマーケティングでは得意技である、紙媒体広告だけではもはや消費者の購買意欲は動きませんが、「タピオカって美味しい」、「ナノケアのヘアドライヤーは髪を痛めない」といった、友達同士の何気ない情報共有から新しい商品がブレークスルーする現象は、デジタル時代以前からもありました。これはコミュニティに着目するスモールマスの取り組みにも通じるのです。
マスマーケティングの雄たちも頑張る
すでにお話した通り大手メーカーも、スモールマス市場の成長を静観している場合ではなくなり、マス市場対応商品とともに、スモールマス市場への取り組みが積極的になりいました。
ECを起点にエンゲージを高める花王
花王ではEssential(エッセンシャル)、メリット、Segreta(セグレタ)、ASIENCE(アジエンス)という4ブランドを主軸とする戦略で、ヘアケア市場のジャイアントとして長年君臨してきました。
しかし2000年代からマス市場が縮小し、その代わり1,000円以上の高価格帯のシャンプーのシェアが急速に高くなったのです。もともとスモールマスの生みの親ともいえる同社では、早くからスモールマス向けのブランド展開にも注力していました。
2018年にリリースされたGUHL LABORATORY(グール ラボラトリー)は、Instagramを活用し、商品価値を高めていくという方法でプロモーションを行なっています。GUHLはナチュラルであることを大切にしているブランドのため、Instagramのコンテンツでは、木製の家具や食器を背景に置いたり、オーガニックな食事を投稿したりと、ヘアケア商品とは結びつかないものを多用しています。この世界観に共感してくれるユーザーとのつながりを作り、それを確固たるものにすることで、結果的に新たなファンを獲得することができるのです。
今まではドラッグストアなどリアルな店頭が消費者とのメイン接点でしたが、今後はInstagramやFacebookなどが、リアル店頭に匹敵する存在になりつつあります。マス市場と違うアプローチが必要なことから、花王ではデジタルを起点に、消費者といかにエンゲージメントを築いていけるかが勝負ととらえ、最終的にはGUHLをスモールマス市場におけるジャイアントに育てることを目指すのです。
日本コカ・コーラの挑戦
2019年8月に日本コカ・コーラでは、I-ne(アイエヌイー)が同年7月に設立した合同会社である、Endian(エンディアン)への本格出資を発表しました。
I-neには特定の層に支持されるスモールマスマーケティングのノウハウがあり、これまでシャンプーのBOTANISTや、缶入り清涼飲料水のCHILL OUTをプロデュースしてきました。このうちCHILL OUTは「次世代リラクゼーションドリンク」のサブタイトルの元、主に若い世代やビジネスパーソン向けの市場を開拓してきましたが、EndianがこのCHILL OUTの販売を、このたびI-neから引き継いだのです。
日本コカ・コーラでは、これまでに綾鷹やアクエリアスなど、マス市場の清涼飲料水ブランドを確立してきました。しかしITの発達やコミュニケーションの多様化に伴い、小売業界でもよりきめ細かな市場創出が求められるようになったため、早急な対策が必要となったのですが、必要とはいえ、大所帯の意識改革やマーケティング体制を、自力で変えるには時間がかかりすぎるのが現実。そこで日本・コカコーラでは出資という形で、新たな武器を迅速に手に入れることにしたわけです。
今回のEndianへの出資の目的は、スモールマス市場での事業展開であり、「消費者のトレンドの半歩先を読み、迅速なスピードで製品を市場に展開することで、新しいプロダクトカテゴリーを創出すること」を挙げています。
EndianではI-neのはかりしれないアイデアと、⽇本コカ·コーラの商品企画・開発、運営ノウハウ、販売、マーケティングの経験とリソースを活かし、飲料の事業領域における新たなイノベーションを起こしていくことにフォーカスします。早速10月にはCHILL OUTのフレーバーをAIが開発したものにリニューアルし、コアなファンの間では話題沸騰です。
スモールマス市場の今後
子供の頃からインターネットやSNSを使いこなす、ポストミレミアム世代に位置づけられるZ世代。彼らは自分が気に入ればブランドは気にせず、一世紀前のアナログなものを発見することにも食指が動くといった、自分だけの商品を追求する傾向が強いのですが、今後このZ世代が消費の主役となるわけですので、有名大手メーカーが君臨するマス市場をゆるがすスモールマス市場の拡大はますます進みそうです。
前述したとおり大手企業もスモールマス市場を狙いに来ていますので、今後スモールマス市場はもちろん、それよりももっと狭い市場(XSマス市場?)を狙うことも視野に入れていけない企業は、生き残れないかもしれませんね。
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