メンバーシップ型からジョブ型雇用に移行しても、本当にデメリットはない?
ジョブ型雇用をメインにすることは、日本企業には難しいと考えられてきましたが、新型コロナウィルス感染拡大防止のため、二度の緊急事態宣言発令を余儀なくされた日本では、雇用体制の速やかな見直しを余儀なくされているのです。
またAIなどの先端技術やDXを具現化させるための要員を、大企業中心に急ピッチで育成する必要が生じていますが、従来の雇用方法では競合他社に遅れをとってしまうため、新卒一括採用だけでなく、ジョブ型雇用に踏み出している企業が急激に増えてきました。
しかしながらジョブ型雇用を展開しきれない日本企業が多いのも事実。今後の雇用がどうあるべきなのか、今企業が検討すべきことについて確認したいと思います。
目次
メンバーシップ型雇用(日本型雇用)とは
メンバーシップ型雇用の定義の確認から始めましょう。新卒一括採用型の雇用システムがメンバーシップ型雇用。新卒採用の多くが総合職として雇用され、労働契約は会社に依存します。
一つの分野の知見やスキルを持つスペシャリストの育成するのではなく、転勤や社内のベースとなる部署(例えば営業、財務経理、人事総務、経営企画など)を異動を繰り返しながら、会社を支えるジェネラリスト人材として育成されるのが基本です。ですから職に就く(就職)というより、就社という位置付けの方がはまる気がします。
こうした企業と従業員の長期的な関係が日本で確立したのは、1954年~1970年の高度経済成長期といえるでしょう。敗戦からの復興が始まった1950年代は三種の神器(白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫)」などが家庭に普及し、1960年代は、1964年の東京オリンピック開催のタイミングで新幹線や高速道路、地下鉄、ホテルなどのインフラ整備ラッシュといったこれらの経済成長は、東洋の奇跡とも呼ばれました。
この高度成長を支えるポイントは労働力。急速な経済成長を遂げるための戦略こそが、各企業が一度に大量の人材を採用し長期的に育成するシステムだったのです。当時のメンバーシップ型雇用による働き方とは、企業の指示通りの業務内容で、勤務地も企業の意向通りで辞令に逆らう社員はほぼゼロ。職場はどこも男性中心で、女性は補助的な業務だけを割り当てられ、結婚したら退職して、専業主婦になるのが一般的でした。また残業時間も非常に長く、徹夜仕事だって頻繁にこなしました。
しかし戦後の復興からバブル期に至るまで、継続して成長した日本経済を支えたのがメンバーシップ型雇用だったのです。
従業員のメリット
メンバーシップ型雇用であれば、在職の年数が長くなり、年齢相応の社内業務の知識を持ち、よっぽどの失敗をしない限り、一生涯勤め上げることができます。社内の業務プロセスや仕事の仕方が熟知していれば、同期と同時期ではなくても、いつか昇進もできることが、メンバーシップ型雇用のメリットでした。言葉をかえたら年功序列、終身雇用がお約束だったのです。
しかも日本では企業ごとに労働組合を持っていることが多いので、労働組合が従業員を手厚く守ってくれる。労働契約に期間を定める労働基準法第14条では、「期間の定めのない雇用」という記述がありますが、これは無期雇用を意味しています。懲戒免職になる場合は別ですが、企業が簡単に従業員を解雇できないという法律があるのです。
メンバーシップ型雇用が企業に与えるメリット
次にメンバーシップ型雇用が、企業にどのようなメリットをもたらすのかをみてみましょう
長期的かつ計画的に人材を育成
まずは数年おきに部署を変え、多様な経験をさせ、社内業務に必要なスキルを身につけさせて、時間をかけて会社好みの幹部を育てることができる点でしょう。これは終身雇用が原則だから為せること。
人材の柔軟な異動・配置ができる
メンバーシップ型雇用では、業務命令によるジョブローテーションが当然です。企業の方針変更や、新規プロジェクトの立ち上げなど、従業員を柔軟に配置でき、組織を状況に応じて組織を臨機応変に変えることができるのです。
忠誠心がある社員の育成
会社が従業員の将来を約束すれば、会社に尽くす社員が多くなるもの。昭和には私生活を省みず、家族より長い時間を会社で過ごし、会社と仕事に自らの人生を捧げようとする、「モーレツ社員」が多く存在しましたが、頑張っただけ給料があがるという仕組みがあったからこその産物だったと言えますし、新卒から同じ会社で働くことで、所属企業に愛着がわくのも当然の結果ですね。
デメリットは
今はメンバーシップ型雇用が時代に合わなくなってきたと言われることが多いですが、企業にとってメンバーシップ型雇用を続けることで被るデメリットはなんでしょうか。
人件費が増加
年功序列では従業員が年齢を重ねるほど、勤続年数が長くなるほど、人件費が高額になります。だからといって抑えるのも簡単ではありません。従業員を一度採用すれば、人件費が増えるのはメンバーシップ雇用の特徴です。イケイケどんどんだった、高度経済成長時代なら、大きな問題にはなりませんでしたが、不況になったとき、この人件費の増加が企業存続を揺るがす問題になりかねません。
従業員を簡単に退職させられない
正社員(無期雇用)は簡単に退職させることができません。従業員の雇用は労働基準法などに守られているのです。
余談:欧米の新卒が就職する方法
欧米や中国の企業では、一つの会社を勤め上げる人はマイノリティで、転職するのが常識なので、日本のように新卒者を定期採用することはまずありません。それに卒業後にすぐ就職する人もいれば、大学院に進学する人も日本より多く、あるいは資格を取得してから就職する人も少なくないのです。
新卒一括採用システムといった就職手段を持たない海外の学生は、企業インターンシップに参加し、後に正社員ポジションを勝ち取る、大学の卒業に必要な単位取得後、短期集中で就職活動を行う、または卒業後にアルバイトしながら時間をかけて就職先を見つけるなど、人によって様々です。
欧米企業では、社内のポジションに空きが出た場合、まずは社内公募、その後外部に向けた求人募集を行います。求人にはあまり業務経験のない「エントリ」レベルに限るのものが例外的にありますが、ほとんどは新卒、中途の区別はなく、新卒者のみに限った就職枠はないと考えるのが一般的。
海外で新卒採用された場合でも、日本の新卒採用に用意される特別な研修などはなく、即戦力が求められます。また海外では「大学でITを学んだら、就職もIT関係」というように学んだ内容が職業に直結するのが原則なので、日本のように、法学部を卒業して銀行に就職できることなどまずありません。欧米では新卒であっても、ジョブ型雇用が一般的なのは当然といえるでしょう。
ジョブ型雇用とは
採用と大学教育の未来に関する産学協議会(経団連と国公私立大学の代表者で構成)が、2019年4月に発表した企業の採用や処遇についての提言で、新卒一括採用にジョブ型雇用を取り入れていく意向を明らかにしました。
ジョブ型雇用とは、特定した職務特定した採用のことで、その職務を全うできる人を募集する方法です。中途入社ではこのジョブ型雇用が一般的ですね。ジョブ型雇用では募集する側も、具体的な職務内容や目的、目標、責任、権限範囲、社内外の関係先、そしてその職務を行うために必要となる専門性(知識、スキル、経験、資格)などを明確にする必要があります。また職務に人を合わせる採用なので、スキル、結果で評価されるので、年齢、性別、学歴、性別は重視されるべきものではありません。
日本企業の現状
すでに言及した通り、日本企業でジョブ型雇用の導入は難しいといわれてきましたが、このコロナ禍で、上司より先に帰らないのがよいとか、会社に長くいれば評価されるといった、曖昧で不条理な評価ができなくなり、従業員の評価は成果物(仕事の成果)で行わざるを得なくなったというわけ。しかも新型コロナウィルスで大きなダメージがあった企業では終身雇用の維持も難しくなってきたので、成果がみられない従業員の対応も、ジョブ型雇用シフトで変えようとしている企業も。
またすでに言及した通り、AI、IoT、ブロックチェーン、ロボット、ドローン、5G、ビッグデータなど、先端技術に関わるITエンジニアやデータサイエンティスト、マーケティングなどの専門職が日本では明らかに不足しています。それを急ピッチで補うには、新卒採用をじっくり育てる時間はないので、社会経験が皆無の新卒でもすでに何らかの専門性を持つ人材には、一般的な中途採用なみ、あるいはそれ以上の待遇を提示しています。スペシャリスト人材の雇用には、ジョブ型雇用を導入するしかありません。
メンバーシップ型雇用は本当にダメなのか
確かに現状ではジョブ型雇用へ移行することが望ましいといえるのかもしれませんが、全ての企業にとってジョブ型雇用が合致するとも言えなせん、短期間でがらっと変えるのは無理な企業の方が、日本は多いはずです。例えば採用に際してはこれまで以上に専門的な能力や経験を評価するための知見が企業側に必要となりますので、人事と業務部門のより密接な連携なくして、ジョブ型雇用への切り替えが成功するとは思えません。
雇用される側でも、今まで新卒に求められたスキルセットとは異なるものが必要になるため、学校教育の在り方にも変化が必要になります。今後は、ジョブ型雇用の良さを、伝統的なメンバーシップ型雇用と組み合わせた、日本独自の新しいメンバーシップ型雇用の在り方を追求する時代になっていくのかもしれません。
日本の新しいメンバーシップ型雇用はどうか
新しいメンバーシップ型雇用とは、どのようなものが良いでしょうか。例えば、日本企業の御家芸とも言える「チームワーク力」を活かす方法はどうでしょうか。チームワークは雇用スタイルを問わずビジネスにおいて大切なものですが、ジョブ型雇用は転職が多いために、チームワークを活かすベースを作りにくいと言えます。
メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用、それぞれの良さを把握し、自社はどのような組織にしていくのか、従業員はどのような組織で働きたいのかを考えることではないでしょうか。独自の人事戦略を模索することができる企業は、他社との差別化ができると考えられます。
ジョブ型雇用の次はタスク型雇用が来るらしい
アメリカでは仕事が発生するごとに人材を雇用する「タスク型雇用」の動きが進んでいます。日本で考えれば、システム開発分野でハマりそうですね。
また役職や肩書など上下関係が存在しない「ホラクラシー型組織」という組織形態など新たな働き方も生まれています。
日本企業の雇用のトレンドにも、ますます変化が起きてきそうですね。