電子契約だけになった方がいい。2度とハンコを使わせるな。
新型コロナウイルスの感染拡大防止対策として、全国に緊急事態宣言が発令されたことを受け、多くの企業で突然リモートワークの実施を開始したのですが、多くの場合十分な準備がないまま敢行。そのため業務遂行のため、外出自粛にもかかわらず出社しなければならない人が少なくありません。
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リモートワークを妨げる第一の要因として考えられるのは、依然として根強い日本の「ハンコ(捺印)」文化にあります。竹本IT担当大臣が、「ハンコのデジタル化について民は民で話し合ってもらうしかない」と発言し、大きな波紋を呼んだのは最近のこと。
この発言に触発されたこともあり、IT企業やスタートアップを中心に、契約の電子化を推進する推進する動きが出てきました。
日本では遅々として進まなかった契約の電子化が、このコロナ禍で進もうとしています。ハンコから電子契約に変わると、世の中がどう変わるかを今回のテーマにしたいと思います。
日本における契約の歴史
契約というものは契約自由の原則により、本来口頭、書面など締結方法はいかなるものであろうとも成立するもの。
日本の伝統的商習慣では口約束による契約が主流でしたが、そこは信用重視のお国柄、長い間大きなトラブルもありませんでした。しかし国際社会ではそうはいきません。契約書がなければ海外企業と取引できませんし、万一トラブルが起こった時には裁判に負けてしまうのです。
そこで訴訟が起きてしまった場合の裁判の証拠として、あるいは税法をはじめとする各種法令の要請から、署名または捺印のある書面(契約書)で契約当事者双方が合意し、これを少なくとも税法の求める期間、双方で保管することが必須要件となりました。今もこの契約方法が日本のマジョリティといえます。
紙の契約書のデメリット
紙の契約書のデメリットを確認してみましょう。
●デメリット1.印紙が必要になる
公的に有効な契約書には印紙税が課されます。契約金額が1万円を超える場合、契約金額に応じて税額が決められ、必要な額の印紙を購入し書面に貼るつけることで、税金を収める仕組み。印紙税額の例を挙げてみましょう。
- 1万円超10万円以下:200円
- 10万円超50万円以下:400円
- 50万円超100万円以下:1,000円
- 100万円超500万円以下:2,000円
- 500万円超1千万円以下:1万円
契約書の種類にもよりますが、概ね50億円までは細かく税額が定めらています。たとえば、1千万円の不動産を購入する場合、契約書を交わすだけで1万円の印紙税が必要です。
●デメリット2.郵送に手間がかかる
紙の契約書を郵送する場合には手作業が発生します。特に手間なのが契約書の送付です。別途送り状や宛名シールを作成する、あるいは封筒に宛名を書く、さらに郵送ならそれをポストに投函し、宅配便なら業者を呼んで受け渡す必要も。そのための人件費や時間を考えると、このコストはバカになりません。
●デメリット3.締結までに時間がかかる
届いた契約書に捺印し相手に送り返すまでには、どんなに早くても1週間はかかるものですが、契約書のやりとりが遅くなれば相手の気が変わって、契約内容の変更が依頼されたり、最悪の場合はキャンセルの申し入れがある可能性はゼロではありません。
契約書を探すのに時間がかかる
紙の契約書の整理整頓も大仕事です。保管場所が必要になり、契約書が増えれば、問い合わせがあって探すのも困難なことも。さらには契約書が紛失しているのに気がつかなかったり、誤って廃棄してしまったりということもあり得ます。
電子契約の定義
紙の契約書ではなく、迅速で安全、さらにはリーズナブルな契約締結を求める企業が増えてきたことを背景に、2000年以降では法的に電子署名法や電子帳簿保存法などが整備され、技術的には電子署名やタイムスタンプ、クラウドストレージなどの技術の開発が進んできました。
電子署名とタイムスタンプを付与した電子ファイルを、インターネット経由でとりかわすことに合意し、電子ファイルのままサーバやクラウド上でに長期保管する契約形態を、電子契約と呼びます。
電子契約のメリット
従来の紙の契約書のデメリットを解消できることが、電子契約にするメリットと言えます。詳しくみてみましょう。
●メリット1.印紙税不要、郵送費、保管スペースの削減
印紙税法により課税対象とされる文書に、電子ファイルは該当しません。つまり電子契約で取り交わされる電子ファイルには、印紙税がかからないため、電子契約の採用をする企業には、大幅な節税効果が期待できるのです。
さらに郵送費や通常契約書は7年間の保存が必要となりますが、電子契約の場合は、倉庫等物理的な保管スペースが不要なので、コスト削減効果がとても大きいといえます。
●メリット2.契約業務効率向上
契約業務の電子化により、紙の契約書で必要だった印刷、押印、郵送などの紙を取り扱う作業が大幅に削減できるので、契約業務が格段にスピードアップするため、相手が心変わりする暇がありません。
●メリット3.コンプライアンス強化の実現
今まで企業が行う膨大な種類の契約すべてについて、ヌケやモレなく、適切なタイミングで取り交わされていることを確認することは至難の技でした。
電子契約の採用で、契約文書をPC上で簡単に検索・閲覧・共有できるので、契約進捗管理、契約文書管理、そして証憑管理に関するコンプライアンスの強化ができるのです。
電子契約の普及率
一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)の2020年調査(約5,000名対象)によれば、すでに電子契約を業務のいずれかで導入済みであるのは4割以上、新たに導入検討中の企業を含めると7割に到達、特に情報通信業界で従業員数5,000名以上の企業では、それが8割近くまで達していました。やはりコロナ禍による影響が大きいことが否めません。
今後電子化したい契約書ベスト5は次の通り:
- 取引本契約書(44.4%)
- システム開発委託契約書(ソフトウェア開発委託契約書)(37/3%)
- ライセンス契約書 (36.5%)
- 業務委託契約書(請負契約書、準委任契約書)(35.3%)
- リース契約書 (32.4%)
同調査では電子契約の課題についても調査しています。もっとも大きな課題と挙げられていたことは、社内あるいは取引先で、電子契約サービスのシステムを新たに導入する手間がかかること、導入メリットを説明するのが難しいということでした。
まだハンコと紙文化が根強い理由
ITRのIT投資動向調査2020によれば、新規導入可能性の1位が電子契約・契約管理。電子契約サービス市場は急成長していいます。2017年度の同市場の売上金額は21億5,000万円、前年度比79.2%増でしたが、さらに2018年度では前年度比71.2%とさらに拡大しました。2017-2022年度の年平均成長率は、40.2%との予測されます。
しかし社内文書の電子化状況を見ると、紙の文書を利用している割合は、契約書51%、稟議決裁文書49%、見積書、発注書、検収書で47%と、まだまだ電子化が進んでいないことは明らかです。特に契約書では、企業規模が小さくなるにつれて、紙文書での契約フローが根強く残っているため、契約サービス導入の余地は大きいと考えられます。
多くの企業で、ハンコと紙を廃止したいというニーズがあるのですが、契約書には相手があるものなので、一企業の業務改善で解決する話ではありません。特に大企業から業務が委託される中小企業では、委託元が電子契約サービスを使わない限り、電子化に踏み切ることは不可能といえるです。つまりサプライチェーンの上流の企業や組織が率先して電子契約を導入しないことには、取引先も含む大きな業務改善や、電子契約サービス市場の拡大にはならないということ。
しかし前述のJIPDECの調査では、大企業における電子契約の導入の意向が強いとありましたので、コロナ感染予防の様々な施策が走る今が、電子契約をブレイクさせるチャンスであることには違いありません。
デジタル化の完成形:エストニアの場合
欧米では日常的な請求書や提案書のやりとりは、もはやペーパーレスが当たり前。B2Bの契約書はデジタル化され、そこに電子署名とタイムスタンプを押した電子契約が標準となっています。
さらに、国家ぐるみでペーパーレスを実現したのがエストニアです。その国土の総面積はほぼ九州ほどで、人口は約130万人の小国。古くから他国による支配を受け、1991年にようやく旧ソ連から独立しました。
少ない人口で国を発展させようという機運から、エストニアでは独立後の早い段階で、電子政府を目指すことになりました。たとえ周辺の強国に国土を占領されたとしても、電子政府としての体制が生き残れば、国家として存続できるとの熟考の結果です。
エストニア政府では、基盤となるICTインフラを作り上げ、全ての行政サービスを電子化する方針を立て、2000年代になると、本格的な電子政府体制をスタート。現在エストニアの国民は全員がIDカードを保有しています。何と日本のマイナンバーカード制度は、エストニアのIDカードがお手本だったというから驚きです。
エストニアのIDカードには、個人情報が全て記録されています。そして身分証明証としてのみならず、免許証、健康保険証としても使えます。選挙の投票、会社の設立など、デジタルの行政サービスは500を超えており、民間サービスも含めると2500以上になります。
税の計算から申告、支払いまでもネット上で簡単に済むので、エストニアには、公認会計士・税理士という職業はもはや不要のようです。
電子契約サービスの著名なツール
国内外でよく知られているツールを2つ紹介したいと思います。
クラウドサイン(弁護士ドットコム)
実に国内の業界シェア8割超を誇るのが、弁護士ドットコムが運営するクラウド電子契約サービスのクラウドサインです。同サービスは2015年にリリース。まだ日本では法整備も進んでいない時代から、電子契約のパイオニアとして君臨し、2018年クラウドの普及により、大きく成長しました。
契約書作成から締結、データ保存まで Web 上で行えるという機能面で、競合他社と大きく変わらないですが、弁護士業界とリーガルテックに特化しているというブランディング、無論法律に詳しい点も大きく評価されています。
DocuSign (DocuSign)
国内外で広く使われているのが、米DocuSignです。ネットがあるところだったら、いつでもどこでも署名ができ、DocuSignのクラウド上で保存できます。文書への署名のみが必要な場合は、無料のドキュサインプランが利用可能。188ヶ国43言語での署名が可能で、世界で2億人を超えるユーザが利用中です。
世界標準のセキュリティを満たしているため、海外でビジネス展開をする企業に適しています。
これからもリモートワークが主流に
アフターコロナでも、我々の生活が以前の姿に戻るとは考えにくいです。今後はリモートワークを主流とした業務プロセスへの変更を発表している大手企業が増えています。そうであれば日本の中小企業も、堂々と右へ倣えができるというものです。
稟議書にハンコをつくためだけの目的で、会社に出社するのをもうやめにしませんか。
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