AI先生がやって来る!|教育業界の改革前夜

AI先生がやって来る!|教育業界の改革前夜

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高校や大学受験の際、塾や予備校のお世話になった人は多いですよね。予備校といえば100人は収容可能な大教室で、講師がマイク片手に授業を行うことが通常でした。しかもカリスマ講師の講義だと、立ち見も当たり前の状態で、質問するのも至難の技だったことを思い出します。

しかし予備校にもAIの風が吹き始めています。AI先生が登場したのです。今回は学習産業でAIがどのようや役割を担うのかを考えてみたいと思います。

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予備校のビジネスモデルにも転機が

予備校のビジネスモデルにも転機が

集団授業で多くの塾生を呼び込むことが、成功するビジネスモデルであった予備校ですが、それを見直す必要が生じたのです。

カリスマ講師の高齢化問題

集団授業を続けていくための最も大きな崖は、カリスマ講師の高齢化。若手カリスマ講師と言われた人も、20年教えていれば中高年になります。人間ですから耳が遠くなったり、物忘れがひどくなることもあるでしょう。

講師が高齢を理由に引退してしまったら、それを埋める人材が必要となりますが、慢性的な人手不足は予備校も例外ではなく、優秀な若手の確保は年々難しさを増しているのです。集団授業はカリスマ講師ありきですから、講師不足では潤沢な集客ができなくなるといえます。

少子化の影響は深刻

2019年の大学進学率は53.7%となり、2000年から14ポイント上がりました。しかしながら18歳人口はこの19年の間に2割強減少しています。浪人生も3割減り、難関大学の志望者を主な顧客とする予備校はどこも打撃を受けました。例えば老舗予備校のひとつである、代々木ゼミナールでは、2015年に27ヶ所あった校舎のうち、20ヶ所を閉鎖せざるを得なくなったのです。

経済産業省の特定サービス産業実態調査によると、高校生以上向けの塾や予備校の市場規模は2018年、約2,500億円。2009年と比べると200億円強増加していますが、それは共働き世帯の増加で、子ども1人あたり教育費が増えていることに起因しています。しかもその増加分のほとんどが個別指導型の塾や予備校からのもので、集団授業型の大規模予備校では、受講者数を半分近く減らしているのが実情なのです。

AIは何を教えるのか

AIは何を教えるのか

さてAI先生の授業はどのようなものでしょうか。授業を行うのは、タブレットの中にいるAI先生。生徒は一斉に同じ授業を受けているわけではなく、一人一人内容が異なる、自分専用のオーダーメイドの学習を進めます。つまりタブレットに挿したヘッドセットから聞こえてくるAI先生の講義は、自分のためだけに用意された内容なのです。

膨大なデータから学習をパーソナライズすることが、AIの得意領域。AI先生が生徒の得意、不得意、つまずき、集中度、忘却度などの膨大なデータを分析しながら、それぞれの生徒に最適な教材を提示します。

ひとつイメージしてみてください。従来の2次方程式の講義では、全員が同じ2次方程式の講義を受けた後に、また全員が同じ演習問題を解きました。

その中には既に2次方程式はわかるので、もっと高度なことを学びたい生徒もいましたし、実は1次方程式もよくわからず、2次方程式の講義を受けても、講師が何を行っているかさっぱりという生徒もいたはず。

つまり今までの学習プロセスでは、履修していれば授業はどんどん前に進んでいくので、過去にどこかつまずいた箇所があると、それを理解を前提とした講義になると、例外なく行き詰まってしまったのです。経験ありますよね。

AI先生は様々な学習データを分析してくれるので、効率的に基礎学力を習得できるように、一人ひとりにあった学習カリキュラムで講義が進みます。同じ時間を共有するクラスメートでも、2次方程式を学習している生徒もいれば、1次方程式を学習している生徒がいてもよいのです。

動画講義を指示される生徒と、演習問題だけを行うように指示される生徒もいるので、講義内容のみならず使用するマテリアルも様々。そして生徒の学習が進めばその都度、カリキュラムは更新され続けられます。

生徒一人ひとりに先生がいて、ずっとマンツーマン指導を行っている感じですね。

人間の先生は不要になるのか

AI先生の登場により、人間の先生の役割は大きく変わってきます。今までのように集団授業で知識の伝達を、一方的に行うのではなく、生徒それぞれの資質や目標に寄り添ってのサポートや、モチベーションが上がるように励ましたり、学習姿勢を見ながら勉強の仕方を助言したりする「コーチング」を行うことになるのです。AIが教えて、人がコーチングする。AI と 人の融合かつ協働による新しい学習の形が、どんどん進化すると考えられます。

人は人にしか教えられないことがあります。それはAI先生がどんなに進化しても、変わらないでしょう。AI先生との役割分担で、人間の先生が人にしかできない役割に、今後ますます集中できるようになるのです。

個別指導塾での取り組み

個別指導塾での取り組み

きめ細やかな個別指導で知られる塾でも、人手不足の中で個別指導の品質向上がさらに困難となり、人の負担を軽減するためのAI教材の導入を本格化させていきました。ただし現時点では、基礎学力を効率的に高めることに焦点を当てた内容がメインのようです。

個別学習塾G-PAPILS(学研ホールディングス)

授業映像とAIを活用したシステムで「講師不要の個別学習塾」として全国でFC展開しているG-PAPILS。米ニュートンのAIを活用したプリント作成システム「GPLS」で教材の個別最適化と、カリキュラム進度と理解度の可視化を行い、各生徒の傾向を分析し、そのデータを元に生徒のモチベーションをキープするものメソッドです。

教科指導のシステムのみならず、学習習慣の定着システムとの連携と、AIを活用した独自メソッドによるアドバイスをも行うことが評価され、G-PAPILSは2019年度「日本e-Learning大賞」AI・人工知能特別部門賞を受賞しました。

進学会ホールディングス

北大学力増進会を展開する進学会ホールディングスでは、ITやAI などのテクノロジーと教育を組み合わせたEdTechを積極的に導入。家庭学習用に、自社開発のソフトを搭載したタブレット端末を小学生から高校生までの生徒に貸与し、従来型の集団指導と組み合わせた、きめ細かい指導を目指しています。

東京個別指導学院

AIで生徒の習熟度をリアルタイムに把握し、分析することで、最適な学習内容を提供。学習内容の最適化もはかり、人間の講師をAIが支援し、生徒の進度に合わせ個別最適化した学習サービスの構築を計画しています。

Z会ホールディングス(栄光)

2019年11月にZ会はAI教材開発スタートアップのatama+(アタマプラス)と業務提携し、グループの学習塾「栄光」でのAI学習教材の大規模導入を発表しました。「次世代の個人レッスン」がキャッチフレーズのatama+は、AIを活用したラーニングシステム。

生徒数約6万人が利用する、「ビザビで伸ばそうのびしろガール!」でおなじみの個別指導塾「栄光の個別ビザビ」でAI教材を指導の中心に置くほか、現在738ある教室の内、133教室でAI学習教材を導入予定。実装は2020年3月から開始し、他教室についても順次拡大する予定とのことです。

Z会は、以前から傘下のZ会エデュースの運営する個別指導教室などで、atama+の検証を行なっており、生徒の成績向上や満足度などで一定の効果が認められたことから、今回の大規模導入の運びとなりました。

全国の塾がAIによる新連合を発足

2019年11月に学研ホールディングスと市進ホールディングスを中心とした、全国の学習塾など130社超が、「教育アライアンスネットワーク」を発足しました。これには各地の有名塾が参加し、合計の生徒数は46万人、売上高は1,170億円となり、学習産業ではベネッセホールディングスに次ぐ国内2位の規模になるというもの。

世の中の急激な変化に対応し、勝ち残ることを狙いとしたこの新連合の誕生により、学習産業の再編が一段と加速されそうです。

教育アライアンスネットワークという、全国ネットワークの構築で、ITに対応したシステムやコストを抑えたサービスが導入できれば、地域に密着した学習が提供でき、各社の個性が発揮できる指導が実現しそうです。

老舗予備校の取り組みは、スタートアップと提携

老舗予備校の取り組みは、スタートアップと提携

老舗予備校の代表格といえば駿台と河合塾。両校とも2019年に1,000名を大きく超える東京大学合格者を輩出しました。カリスマ講師の集団授業を売りとしてきた両校ですが、こちらでもAIによる個別指導を本格化させようとしています。

駿台 x atama+

駿河台学園はで2019年7月にAI開発の日本データサイエンス研究所に出資。国公立大や難関私立大の入試対策に活用できる、高度なAI教材の開発に取り組むことになりました。駿台が誇るカリスマ講師の指導法をAIに学習させ、2019年中にも試作した教材を一部の講義で使用を開始し、2021年度からはAI教材をメインにした、高校生向けの新講座を始める予定です。

9月にはatama+と業務提携を発表。同社のAIラーニングシステムであるatama+を利用して、「AIの「アタマ先生」の集団授業」をリリースしました。集団授業といいつつも、アタマ先生が生徒一人ひとりの苦手・弱点を分析し、最適な問題を提示していくため、効率よく最短距離で学習を進めることができるのです。

河合塾One

2019年12月から、河合塾ではAIが教材やカリキュラムを提案する「河合塾One」を始めました。産業技術総合研究所が開発したAIに、名物講師の指導ノウハウなどを学習させたものです。

スマホやPCを使っていつでもどこでも、1日15分から勉強が始められるWeb学習サービスです。生徒は授業動画を見ながら学習しますが、AIがリアルタイムで理解度などを解析し、一人ひとりに最適化した教材を提供するのです。まずは英語と数学のみの提供ですが、2020年4月からは物理や化学、古文にも拡張する予定。

私立高校だって悩みは同じ

私立高校だって悩みは同じ

予備校が持つ危機感は、そっくりそのまま私立高校にも当てはまるのではないでしょうか。

有名大学への進学実績を売りにしている私立高校が、人気上位をキープするための優秀な教員を安定的に確保できるのかどうかは、学校の存続にも影響します。AIの活用は私立高校でも経営課題解決のための、重要な活路であると考えて間違いありません。現在atama+ユーザーには学校法人のロゴはありませんが、いずれ多くの学校でもAI学習を利用することになるのでしょう。

AI時代における今後の教育

AI時代における今後の教育

2020年度からの大学入試改革において、これまで問われていた「知識・技能」に加え、「思考力・判断力・表現力」「主体性・多様性・協働性」が評価の対象となることが決まっています。

AIで教科知識が効率的にインプットできるようになれば、個々の自然な興味から生まれる知識の探究や、他者と共同で課題を発見し解決する取り組みなどの活動などに、より多くの時間を避けるようになるはず。そのためにも、AIはますます発展することでしょう。

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