日本にABM(アカウンティング)が定着しつつある。伝統的”営業”はどう変わるか?
目次
ABMとは
ABM(=Account Based Marketing)とは、購買履歴や取引実績データから、売上が最大化する見込みがあるアカウント(企業)を定義し、そのアカウントに対して戦略的にアプローチを行うマーケティング手法であり、リード (個人)だけなく、企業全体あるいは部署に関する様々な情報を収集して、戦略を立てます。
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それゆえABMは足の長いプロモーション活動となります。ターゲットとなるアカウントは大手の既存顧客が多いですが、新規プロスペクトという場合も。
一般的に競争が激化するほど、新規の顧客獲得費用が増加しますので、既存顧客のシェアを維持し、ビジネス拡大することは、企業にとって重要なテーマとなります。
デマンドジェネレーションのジレンマ
それまでB2Bマーケティング手法といえば、2000年代はじめにアメリカで最初にブレイクした、デマンドジェネレーションでした。
米AdobeのMarketoや米OracleのEloquaなどのMA(Marketing Automation) ツール が、ABM のプラットフォームでしたので、アメリカではMA導入も同時に浸透していったのです。
デマンドジェネレーションは、部署ごとの予算で実施されていたマーケティング活動を統合し、また社内に分散していたリードデータを収集・統合して、リードナーチャリングを行い、その結果から有望なリードデータを抽出し、営業に提供するというものであり、当時BtoBマーケティングの大革命と目されていました。
ところがマーケティングで生成したリードを、営業部門がきちんとフォローしない(できない)ことが頻繁に起こるようになり、米国企業では、2016年での営業のリードデータに対する平均的なIgnore Rate(無視率)が、すでにに50%に達してしまったのです。
マーケティングではリードで、営業はアカウントという対象がそれぞれ異なっていたことが原因でした。費用とマンパワーをかけて苦労して生成したリードデータが、営業に無視されることで日に日に鮮度を失い、ゴミ同様の価値に格下げされては、マーケティングとして愉快なわけはありません。
こういった背景から、マーケティングと営業の間は、風通しが悪くなるばかりでした。
アメリカでABMが成功したわけ
ABMがアメリカで急拡大した要因には、次の2つが挙げられます:
- MAおよびCRM/SFAツールが、すでに多くのB2B企業で導入されていた
- メールアドレスなどを含む個人情報や企業情報が、簡単に購入ができる
アメリカには企業情報を提供するプロバイダーがたくさんあります。彼らが提供する情報はとても詳細で、そこからメールアドレスや電話番号も入手できるのです。
自社に保有している顧客データベースに、購入した情報を足せば、ABMのベースとなる情報がすぐに揃いますし、アカウントごとにリードデータをまとめるのも、ツール群の利用で容易でした。
さらにMAとCRM/SFAの同期により、営業やインサイドセールスとも最新データの共有が簡単なので、アメリカではすぐに成果が出たわけです。
伝統的なアカウント営業に近いABM
アカウント営業とは、ターゲットとして定めたアカウントだけを担当して、確実にそのアカウントを攻略することを目的とする営業手法で、日本では特に大手企業好みの営業スタイルといえます。
ターゲットとなるアカウントを決める所を出発点にするという意味では、ABMはアカウント営業に近い概念ですので、ABMは日本では比較的馴染みやすいはずなのです。
ABMは営業の視点で設計し直したデマンドジェネレーションともいえるのですが、リードの「量」よりも、「質」にこだわります。
ABMで生成されたリードとは、営業が
- 行きたい企業の
- 行きたい部署の
- 会いたい役職の人
という3つの条件を、最優先でスコアリングされたものです。
営業から見れば是非ともフォローしたいので、デマンドジェネレーションのデータに比べたら、放置される割合が減少する結果となります。
マーケティング担当に必要な新たな素養
マーケティングがABMで成功するためには、営業に劣らない営業的感覚を持ち、会社の方向性を鑑みて、生成したリードに対して、正しく優先順位づけができる素養が必要になることは、言うまでもありません。
そういうスキルがあるマーケティングが増えることで、営業との真の協業が可能になるのです。
ABMの特徴
デマンドジェネレーションの知見が土台となって、ABMが成功するといっても良いですが、両者には違いがあります。まずはその管理対象が違うということでしょう。
デマンドジェネレーションで必要なのは、誰が(リード個々人)どの施策に興味を示したのかを把握するだけで良いのです。
一方ABMでは、購買に関わるステークホルダー全ての、次のようなアクション情報を、同じアカウントとして管理します。
- メールマガジンやDMを開封したか
- HPに何度アクセスして、平均何分滞在したか、どこを見たか
- HPから資料のダウンロードをしたか
- 出展した展示会等えを訪問したか
ちなみにステークホルダーというのは、企業経営における利害関係者のことで、企業の株主、経営者、従業員、顧客、取引先だけでなく、金融機関や競合企業、地域社会や行政機関等も含まれます。
ABMでは複数のステークホルダーが、一様に興味を示す商材を見出すことで、アカウントとしての興味や、関心の高まりが発見できるのです。
日本企業の購買決定プロセスでは、未だに稟議制を採用しているところが多く、つまりステークホルダーの数が多いので、ABMが適していると言えます。
もう1つの違いは、購買プロセスの長さです。ABMはアカウントの購買プロセスに対応して、キャンペーン施策を組み合わせたり、適宜変更させるのです。
デマンドジェネレーションでは購買プロセスが進捗しないリードに対しては、即刻フォローの優先順位を下げたり、受注の可能性なしのフラグをつけることも。つまり短期決戦型なのです。
ABMではすぐに反応しないアカウントにも、継続的にプロモーションをし続け、相手が反応するのを待つので、デマンドジェネレーションのリード案件率の0.1ー0.2%に比べて、時間をかける分ABMでの案件率は高くなることになります。
ABMのチーム編成
ABMの実行部隊はマーケティングでも、成果を出すには「マーケティング」「営業」の連携が不可欠です。最近は外資系企業中心に、「インサイドセールス」が設けられている場合もありますね。
インサイドセールスがある場合には、前述の2組織プラスインサイドセールスの3組織での連携プレーとなるわけです。
インサイドセールスの主な任務は、マーケティングが抽出したポテンシャルの高いリードに対し、電話やメールなどでコンタクトして、課題解決に対するニーズや検討状況や、各ステークホルダーの役割の確認を行い、その結果を営業にパスします。
これにより営業は、より精査されたデータを得ることができるのです。
日本でアメリカのABMをそのまま受け入れられない点
未だ日本のB2B企業の多くでは、必要とされるツール群の導入に至っていません。アカウントを決めるための、データ分析作業を手作業でやっていては効果的なデマンドジェネレーションを行うのも難しいです。
昨今米国プラトフォーマーの台頭により、日本でも個人情報について議論が始まりつつありますが、欧米に比べ、企業が保有する個人情報の件数はとても少ないのも致命的になります。
日本では個人情報保護法がありますし、詳細な個人データの購入はほぼ不可能なことは紛れもない事実。
よって名刺交換以外で入手した個人情報は、新聞などに載っている人事異動情報をもとにしている場合が多いため、個人のメールアドレスや、電話番号などの情報をそこから入手できる可能性は限りなく0%に近いのです。
ABMをやろうとしても、日本企業が実際に使えるデータは、社内に散在している名刺情報程度しかないので、生きのいいリードデータを生成するためには、昔ながらの方法を取らざるを得ない場合もあります。
外資系企業の日本法人では、海外本社で成功したABMの手法を、そのまま日本でも運用することを求められますが、そのままではまずうまくいくことはありません。
日本でのABMは今後どうなる
ABMを活用するためには、必要ツールを導入し、馴染むことです。しかも外国企業の受け売りはいけません。豊富すぎる機能のどこを自社で使うかを、明確にすることが必要です。
そして泥臭くてもよいので、自社のリードデータベースを厚くするための、多くの施策が必須となります。
外部企業とジョイントプロモーションを行なって、自社だけではたどり着けない個人情報を共有するとか、海外ほどの詳細データの入手は無理でも、企業情報の提供を生業とする企業と連携するなど、今まで行ってきたマーケティング活動方法を駆使し、リードデータを生成し続けます。
丸投げ状態のリードデータではなくて、適切に精査、分析したデータであれば、営業は受け入れますので、ABMこそ日本でも成功する手法であると言えるのです。
帝国データバンクや、東京商工リサーチといった、与信管理向けのデータベースや、信用調査の販売を行う大手プロバイダーでは、今後はBtoBマーケティングに、自社のデータベースの活用が増えると予想しています。
彼らは「正確な」企業情報データと属性データを保有しますので、ABMに必要な属性項目に着目して、顧客の特性を企業属性データに基づいて分析する新たなサービス提供にフォーカスし始めているようです。
SPEEDAなどの、統合的な企業・業界情報プラットフォームを提供するベンダーを利用するのも、ABMを成功させるには良い方法といえます。
さらにABMに精通したマーケティングは、すでにコンタクトできている企業と、そうでない企業について分析を行い、まだ担当営業の割り当てはないが、数値的にもポテンシャルが高そうな企業を見定め、それを営業に提供するという、今までにない連携スタイルが生まれているのです。
これまでマーケティング業務は、営業の片手間程度にしか考えられていなかった、保守的日本でも、ABMにより営業とマーケティングが同じテーブルで議論し、同じターゲットを狙うことが普通になれば、マーケティングのポジショニングが確立することは間違いありません。
ABMにAIやビックデータという先端技術の活用するという、新しい形での「日本流」のABMの出現も、今後期待できそうです。
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