新日本プロレスを救ったネットのカスタマーエクスペリエンス手法!

新日本プロレスを救ったネットのカスタマーエクスペリエンス手法!

 後で見る

2019年4月、米ニューヨークにある「プロレスの殿堂」とも称されるマディソン・スクエア・ガーデン(Madison Square Garden=MSG)が、1万6000人を超える観客で満員札止めになりました。仕掛け人は新日本プロレス。新日本プロレスの興行「G1スーパーカード」の開催は、MSGに初進出での快挙となりました。

新日本プロレスは、SNSの活用が成功している団体です。このMSG興行の成功にもそれが一役買っているのです。

【合わせて読む】

アグリークリスマスセーターの”あえてダサい”が今の日本の大人SNSにちょうどいい。
TikTokのブレークから見る、動画SNSの近い将来。
これから益々「ナノインフルエンサー」が躍進することになる。

一般企業だけでなく、最近はスポーツクラブやプロスポーツリーグがSNSを活用したマーケティングに力を入れていますが、新たなファン獲得がうまくいかない、あるいは十分な対応ができていないなど、苦戦を強いられている団体が少なくありません。

プロレスがプロスポーツに分類されるべきかは別議論するとして、ITに無縁の泥臭いイメージが残るプロスポーツ事業の経営において、活性化した事業でITをどのように活用したのかを確認していきたいと思います。

何度も沈みかけた新日本プロレス

何度も沈みかけた新日本プロレス

日本プロレス界のカリスマの、アントニオ猪木が創業した1972年創業の新日本プロレスリング株式会社は、今まで多くの人気プロレスラーを輩出してきました。しかしプロレスラーのワンマン経営。20世紀を終える頃度重なるプロレス団体の新規創設で著名なプロレスラーが脱退し、またプロレスファンがK1など他の格闘技に流れるようになったので、新日本プロレスの経営は徐々に難しいものになっていき、身売り話が頻繁に噂されるようになったのです。

そして2005年には大阪のプロレスゲームで有名なユークスの子会社になりました。しかし親会社が変わってもいい影響がさほど見られず、売り上げはジリ貧状態。

ツイッター活用でプロモーション方法に転機が

新進のゲーム会社であったブシロードが2012年に5億円で、ユークスから新日本プロレスを買収したことが、新日本プロレスに大きな転機を与えました。積極的にツイッターを活用するブシロードの方針もあり、選手が全員ツイッターのIDを持つことになったのです。ツイッター活用が本格化したことが、新日本プロレスのプロモーション革命を起こしました。

その後公式ツイッターではちゃらけたツイートは控え、選手の世界をどんどんアピールしていく内容に変えたのでフォロワー数が増加し、徐々に社内でもツイッターが告知媒体として意味があると認識されてきたわけです。

現在同社の海外ファンにはFacebookの英語サイトも好評ですが、日本語では選手のアカウントが圧倒的に多いツイッターの人気が高いので、その対応が一番優先されています。多い時は1日に10本以上も配信されるニュースや、リアルタイムで頻繁にアップされる選手の写真。アップされるとファンがすぐにリツイート。それがくりかえされているうち情報は瞬く間に拡散されます。

新日本プロレスのSNS運用におけるKPIは、会場を顧客で満員にすることですが、最近では有料ネット会員の増加にも力を入れています。リアルタイムのストリーミングサービス(新日本プロレスワールド)もツイッター経由で多くのフォロワーを呼び、そこから有料サイトにも誘導するのです。

全選手がツイッターのIDを持つからには、炎上のリスクとも背中合わせ。リスクを防ぐためにこれからSNSを始める新人選手には、プロスポーツに関わっている弁護士を招いて、SNSのイロハ講習を開催していますし、全選手対象のSNS講習会を定期的に開いています。

さらにブランティング戦略

2018 年には日本コカ・コーラ株式会社や、株式会社タカラトミーで要職にあったハロルド・ジョージ・メイ 氏が新日本プロレスの代表取締役社長兼CEOに就任し、ブランディング戦略も確立してきました。それはマーケティングのエキスパートであるメイ社長の元で、商品ブランドだけでなく、企業ブランドを向上させる施策が始まったということでした。

新日本プロレスの最大の商品は「プロレスを観る非日常体験」。つまり顧客は観戦することでワクワクし、自分のご贔屓の選手が勝てば同じ気持ちで嬉しいし、負けたら悔しい。もっと強くなりたい選手の思いと自分とを重ねるカスタマーエクスペリエンスこそが商品なのです。

テレビやYoutubeで試合を観ることから始まり、そのうちに会場で応援するようになり、SNSで他のファンと意見交換をしたり、選手に応援メッセージを配信し、その後は選手のサイン会や撮影会に行くなど、顧客の行動の発展が新日本プロレスの商品ブランドです。

そして一連の体験に関わるすべての要素、例えば会場の安全や清潔さ、温度管理、開場時間の調整などといった部分まで心を配ることで、新日本プロレスという企業に対する顧客満足度も上がり、企業ブランドも向上。

企業としてもう一つ力を入れているのが広報活動です。メディアに積極的に露出し、公式サイトでブログを掲載するなど、メイ社長自らが広告塔になって攻めの広報を実践しています。

現在新日本プロレスは、売上も利益も過去最高を記録更新中。MSGの成功はグローバル戦略の大きな一歩でしたが、あえてローカライズせずに日本流を現地に届けることを原則としていることで、企業プランドを海外に向けさらに高めようとしています。

プロ野球ではデータ重視

プロ野球ではデータ重視

アメリカのMLBではデータ分析でIT活用が早くから行われており、現在はビックデータ野球といわれるほど。しかし日本はアメリカからかなり遅れて、2000年少し後にプロスポーツ向けのデータベースサービス企業のデータスタジアム社が設立され、同社のデーター分析ツールである、ベースボールアナライザーの導入が始まりました。今では実業団でも使われていますし、その他様々なスポーツ界で、急速にデータ重視のマネジメントが進んでいます。

IT企業がこぞって球団オーナーになったわけ

2004年当時ライブドア社長だった堀江氏が、近鉄バッファローズの買収に名乗りを上げて大きな話題を呼びました。結局この買収劇は近鉄とオリックスの合併で不発に終わりましたが、同年10月に楽天が仙台を本拠地とする東北楽天ゴールデンイーグルスを誕生させたのです。その後ソフトバンクが200億円でダイエーホークスを買収し、さらに2011年DeNAがTBSホールディングスから、横浜ベイスターズ株の大半を譲り受けたことはまだ記憶に新しいですね。

実は以前の球団経営は芳しくなく、特にパ・リーグは悲惨。ソフトバンクがダイエーホークスを買収した時期には、パ・リーグの球団は全てが赤字経営でしたが、親会社のIT企業がITを活用した効率的な経営に乗り出したことで、次第に黒字経営の球団が増えてきましたし、既存の球団にはない発想で、野球に興味がなかった女性や子どもが楽しめるようなイベントやキャンペーンを増やしたので、新しいファンが増えていきましたし、一球団のみならず、プロ野球全体の雰囲気を変えたのです。

なぜIT企業がプロ野球に参入したのか、不思議に思いませんか。その理由は本業では得られないメリットが球団経営にあるからなのです。

通常プロ野球の試合結果は、全国のメディアで報道されます。しかも商品名や企業名の露出がNGのNHKでさえも報じるのです。国民スポーツであるプロ野球の勝敗に、多くの国民が関心を持っているのは間違いないので、シーズン中は月曜日を除いて、週6試合行われるプロ野球での宣伝効果は絶大というわけ。

しかも1954年国税庁通達で、プロ野球球団事業でいくら赤字をだしても、親会社はその分を広告宣伝費として処理することが認められ、親会社の本業の利益に対する税負担を軽減することができるようになったことも、球団オーナーにとっても嬉しいメリット。投資は大きくてもキックバックも十分というわけです。

ついに以前人気のセ・リーグ、実力のパ・リーグといわれ、ナイターでも空席が目立っていたパ・リーグの球団を、IT企業が人気、実力共にパ・リーグと言わせるまでに変身させたのです。

もう一つ球団オーナーになる意義をあげれば、今まで球団のオーナーとなった企業は結果的に一流会社になった点です。例えばオリックスは球団オーナーになるまで、オリックスが何の会社かわかる人は少なかったですし、ロッテや日本ハムも業界でメジャーではありませんでしたが、球団オーナーになって知名度がアップし、それぞれ一度はトップ企業になったことでその効果を証明していますね。

BリーグもSNS効果が

BリーグもSNS効果が

東京オリンピック出場も決まり、八村塁選手の活躍でラグビーの次にブレークしそうなのは、バスケットボール。設立4年目となる日本ブロバスケットボールの公益社団法人である、ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(Bリーグ)でも、SNSを積極的に活用することで、着実にファンを増やし知名度をあげています。

少し古いデータですが、2018年1月の時点にLINE公式アカウントで400万人以上の友だちを得ました。そして恒例となったB.LEAGUE ALL-STAR GAME 2018に出場する選手を選出するためのSNS投票の総有効投票数は10万票を超え、これは前年2017年の約5倍。しかも一般販売チケットは売り出し開始からわずか2分で完売し、この年の売上は50億円を突破しました。

Bリーグにとって最大の商品は「B LEAGUEというリアルの場で起こっていること」。これは新日本プロレスの商品と類似した位置づけですね。

B LEAGUEを見に来た人全員が、会場や試合の様子を個々にSNSにアップしてくれたなら、BリーグでSNS運用に時間をかけずとも、自然発生的にB LEAGUEの露出が増えるはず。そんな想いから、B LEAGUEの開幕戦では、世界初の全面LEDコートを使った演出が行われました。

Bリーグが当初定めたゴールは、

  • Bリーグに所属している各クラブや選手個人の認知度を上げる
  • 顧客にとっての観戦意向率も高める

上記の二点。

それを達成するためにインフラ整備が必要となりましたので、開幕前の時点で全36クラブに対し、Facebookとツイッターの公式アカウントを開設しました。

さらにツイッターとFacebookの両社に協力を仰ぎながら、全クラブのアカウントを公式認証化することを推進。全クラブにSNS公式アカウントを開設したという点は大いに革新的でした。

その後各クラブに所属選手5人以上のツイッターアカウント開設を推進したので、ファンにとって選手がより身近に感じやすい環境を開幕前から用意できたいたことも、成果につながっています。

これからバスケットボールが日本の文化になれるかは、SNSでの成功ありきということでしょうか。

ITなくしてプロスポーツ事業に成功なし

ITなくしてプロスポーツ事業に成功なし

来年2020年にはオリンピック・パラリンピックが東京にやってきます。身体機能を向上させるためのIT活用もあるでしょう。プロスポーツではそれに加えてブランディングや戦略立案という点でIT活用が必須になっています。

見ているだけでうっかり引き込まれそうになる各プロスポーツサイト。今後はAIなど先端技術を駆使し、どんどんアワーアップしていくでしょう。引き続き目が離せませんね。

 

【合わせて読む】

アグリークリスマスセーターの”あえてダサい”が今の日本の大人SNSにちょうどいい。
TikTokのブレークから見る、動画SNSの近い将来。
これから益々「ナノインフルエンサー」が躍進することになる。

«

»

 後で見る
OFFCOMPANY スタッフ

この記事のライター

OFFCOMPANY スタッフ

 JOIN US
OFFCOMPANYへ参加する


もっと表示する