QRコード決済に揺さぶられる交通系電子マネー、勝負の行方を解説。
現在政府主導でキャッシュレス化を推進しています。2027年までに、キャッシュレス決済の比率を約4割程度にするというもの。キャッシュレス化の目的は、インバウンドの増加と決済の利便性向上ですが、お金の流れが明確になることでマネーロンダリングの防止や、税収向上にもつながるというわけ。そして我々ユーザーにとって、支払いがスムーズになるのがキャッシュレス決済一番のメリット。
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2019年10月に消費税が10%に引き上げられたタイミングで、景気対策として期間限定で国が補助金を出すキャッシュレスポイント還元事業がスタートしたこともあり、キャッシュレス決済の広まりがスピードアップしました。
しかしこのところQRコード決済と、交通系電子マネーの競争が激しくなっています。カードリーダーにタッチするだけで利用できる手軽さに加え、交通機関での利用という強みを持つ交通系電子マネーの伸びが、大きな還元を武器としたQRコード決済に押されて鈍ってきたのです。
今回はQRコード決済と、交通系電子マネーの今後の動向について確認したいとと思います。
目次
PayPayがキャッシュレス決済の先頭を走る
「100億円あげちゃうキャンペーン」を行って、一気に知名度が上がったPayPay。2019年11月ソフトバンク社の決算会見で、傘下のPayPayの成長ぶりが発表されました。PayPayの登録者数は約1,920万人に達し、同年8月初旬(800万人)の2倍以上に急増。それまでトップだったLINE Payはあっけなく追い抜かれました。
政府のキャッシュレスポイント還元の効果もあったので、同年10月だけで登録者が400万人も増えたほか、10月の月次決済回数も、前月の2倍以上となる8,500万回に達したのです。
増えたのはユーザー数だけではありません。PayPayの加盟店数は154万ヶ所と、前四半期の倍以上増加し、決済回数も4,748万回から9,612万回へ倍増。これは7~9月で登録者1人あたり6.5回PayPayを使っている計算です。つまりヘビーユーザーが増え、登録だけで利用していないユーザーが減ってきていることが明らかになりました。
現在QRコード決済のシェアトップ3は、PayPay、LINE Pay、楽天Payの順ですが、PayPayがダントツの1位で2位以下を大きく引き離しています。この状況を「独り勝ち」という表現以外では語れませんね。
PayPayが次に目指すもの
もちろんトップシェアを獲ることがPayPayのゴールではありません。決済以外にも使えるスーパーアプリに移行することが、PayPayの次のステージなのです。
スーパーアプリとはプラットフォーム化し、いろいろなビジネスの起点になるアプリのこと。よく知られた成功事例は、中国テンセント(騰訊)のWeChatです。WeChatは友人とのコミュニケーションツールの機能だけでなく、WeChat Payのような決済機能で支払いや送金ができて、さらには公共交通のチケットとして利用可能。加えてミニプログラム(アプリ)を利用して簡単に拡張でき、さまざまなサービスをWeChatから呼び出すことができます。
キャッシュレス決済やユーザー認証など、必要最低限の機能はミニプログラムのインタフェースを通じて提供されるため、サービス事業者にとっては通常のアプリを配信するよりハードルが低いため、多くの事業者がWeChatと提携することを望み、ついにはスーパーアプリのOS化(プラットフォーム化)が進んだと言われています。
QRコード決済でネームバリューが上がったところで開始した、PayPayアプリによる公共料金の支払いや、ECのPayPayモールやPayPayフリマのサービスも、スーパーアプリへの転換の第一歩。今後ソフトバンクブループ全体で、金融サービスの参入など、PayPayを軸とした新たな事業を進める計画のようです。
ソフトバンクのグループ会社のZホールディングス(PayPay親会社のヤフー親会社)がLINEとの経営統合を決めたのは、8,200万人というLINEの顧客基盤の獲得もさることながら、スーパーアプリの実現に向けて、毎日必ずアプリを起動してくれる顧客との接点が得られることが大きかったと考えられます。
現在QRコード決済事業者がコンビニからファストフード、銀行まで、竹の子のごとく乱立していますが、セブンペイの失敗もありましたし、黒字ビジネスを実現するには、PayPayでさえ苦労しています。今後ポイント還元からアプリへと軸が大きくぶれそうなので、アプリの囲い込みが、QRコード決済業者間で熾烈になることは間違いありませんから、QRコード決済事業者の再編が進み、多くの企業は買収や合併を余儀なくされると考えられます。
QRコード決済は始めやすい
アプリにもよりますが概ねスマホ決済には、さまざまな機能が搭載されています。たとえば個人間の割り勘や、請求書払い、送金なども行うことができます。クレジットカードや銀行口座とリンクしてのオートチャージ機能もあり、もちろん手数料なしで使えますし、チャージしたお金を銀行口座に払い戻すことも可能。国が後押しするポイント還元だけでなく、QRコード決済の会社が独自のポイント還元キャンペーンを実施しているので、お得感が高いですね。
一方店舗側では、専用の端末を置かなくても手持ちのPC、スマホ、タブレットでスマホ決済の管理が可能なため、電子マネー用のカードリーダーのような専用機器の設置の必要がなく、導入コストが大きく抑えられるため、スマホ決済の対応が気軽に始められるのです。
不正利用されるリスクは否めない
QRコード決済が面倒な点は、決済時にアプリを立ち上げる手間がかかることです。電子マネーの場合ならば、カードリーダーにタッチするだけで、決済は一瞬で終わります。
利用するにはスマートフォンが必要となるので、ガラケーユーザーは蚊帳の外です。それとスマートフォンの充電が切れている場合には、電話機能同様に利用ができないため、注意が必要でしょう。
「100億円あげちゃうキャンペーン」中に起こったPayPay不正利用事件は、QR決済中心に行われてきたキャッシュレス決済ブームに水を差すことになったのです。合計800名のユーザーが被害にあい、総額3,800万円の損害があったといわれています。もちろんPayPay側が補償したので、ユーザー側には損害はありませんでした。その後PayPayでは2019年8月、利用規約にユーザーが不正アクセス被害に補償する規約を盛り込みました。
この事件で改めてQRコード決済の、セキュリティの脆弱性が問われることになりました。クレジットカードで不正利用にあったとしたら、クレジット会社が60日間は補償してくれますが、一般的にQRコード決済には同様の特典が付いていません。リスクがゼロではないことを頭の隅に置いておくべきです。
交通系電子マネーは初心者に優しい
アプリを立ち上げる手間や、初期設定が難しいQRコード決済は、ハードルが高くて使うことを躊躇してしまう人も少なくありません。一方の交通系ICカードなら、電車やバスのチケットとして使う時同様に、カードでピッとするだけでキャッシュレス決済が完了。
コンビニ、スーパーでも使えるところが増えたので、使い勝手がよく便利です。無記名式でチャージして使えば不正利用に遭うこともありません。一枚あれば電車も乗れて買い物もできるので、キャッシュレス初心者やシニアユーザーに優しいのは、交通系電子マネーといえるかもしれませんね。
ただし店舗側は対応にはカードリーダーなどの設備がマストになるので、先行投資が負担になります。
ポイントサービスがなかった交通系電子マネーですが、1日のチャージ金額上限に合わせて還元できるようになりました。例えばJR日本のSuicaなら、2万円チャージすると1,000円バックされるのです。それに加えてSuicaでは、鉄道の利用で運賃の最大2%分をポイント還元し、2019年9月のポイント会員の入会は、8月の何と14倍になりました。ポイント還元のインパクト恐るべし。
デメリット
初心者に優しい交通系電子マネーですが、次のデメリットがあります
- 無記名式でチャージできるのはよいのだが、チャージの上限額が全般的に低い。Suicaの場合二万円
- あらかじめチャージされた電子マネーは、原則として払い戻しができない
- カードタイプの場合、カード発行手数料がかかることがある
- 個人間送金や割り勘機能がない
交通系電子マネーを電車やバス以外で使う時は、計画的にチャージすることが肝心なようです。
QRコード決済と交通系電子マネーの新たなコラボ
2019年6月楽天Payの運営会社である楽天ペイメントとJR東日本は、キャッシュレス化の推進に向けた提携を発表しました。このコラボにより2020年春には楽天Payのアプリ内で、Suicaの発行や、チャージが可能になります。
さらにSuicaとの組み合わせで国の交通機関(鉄道約5000駅やバス約5万台)が利用できるようになり、Suicaの約60万の加盟店でも決済できるようになるのです。楽天グループの中で交通系のパートナーは初めてなので、楽天にとって新しい分野が開けたことになりました。
QRコード決済は、アプリを立ち上げる手間が最大の弱点といわれますが、Suicaとうまく組み合わせれば、電子マネーのタッチ決済により、かなりの部分をカバーすることができるようになるので、楽天Payにとってのメリットは大きいです。
楽天のユーザーには、楽天のネットショップで買い物をした時に得られる楽天スーパーポイントが、楽天PayアプリからSuicaにチャージしても、ためられるようになるのは嬉しいですよね。
つい最近PasmoがApple PayやGooglePayなどの対応を想定した、「モバイルPASMO」の商標出願をしましたが、最初から対応を決定していたのはSuicaだけ。2006年には世界初となるモバイルIC乗車券の「モバイルSuica」サービスを開始しています。モバイルSuicaのユーザーであれば、駅に行かなくても自身のデバイス上で発行やチャージ、チケット購入が可能となりました。
モバイルSuicaの利用が広がれば、自動券売機のユーザーも少なくなるので、JR東日本では自動券売機の台数を少なくでき、駅の管理コストも削減できることを想定していたので、ユーザーには可能な限り、カード型SuicaをモバイルSuicaに移行してもらいたかったのですが、もともと国有鉄道会社で、モバイル化推進事業など素人ですから、なかなかうまく進みませんでした。
そこで外部との提携を模索していたところ、楽天ペイメントと出会ったわけです。JR東日本にとって、楽天ペイメントとのパートナーシップの狙いは、コスト削減とエンドユーザーとのタッチポイント増加の二点といえます。
結局はユーザーのライフスタイル次第
QRコード決済と交通系電子マネー、どちらに軍配があがるのか、それは使う人に依存すると考えられます。確かにQRコード決済の方がポイントもたくさんつきますが、リスクもある。世の中すべてのケータイがスマホになるなら、QRコード決済に軍配は上がりそうですが、SuicaはもちろんPasmoまでモバイル路線を突き進むのであればどうなるのか。
そしてQR決済と交通系電子マネーのコラボは、生き残りのために今後必然なのかもしれませんね。
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