休み方改革|出張に休暇をつける「ブリージャー」が最高。
オフィスでなくても、様々な職種で仕事ができる時代になりましたね。リモート勤務を始めた当初は、自宅で仕事することでも気づきがあって刺激的だったものですよね。もちろんリモート勤務は働き方改革の一例ですが、働く裏には休みあり。そうです、働き方と連動して休み方改革を進める必要があることを、我々は忘れてはいけません。
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目次
ブリージャーとは
ブリージャー (Bleisure) とは、ビジネス(business) とレジャー(leisure) の合成語で、出張に観光やレジャーの日程を追加した新しい出張スタイルのことです。日本語では「出張休暇」と訳される、欧米のビジネスパーソンの間では、あと一歩でデファクトスタンダードになろうかというもの。
2014年に米Bridge Street Global Hospitalityが、世界中の出張者を対象としたThe Bleisure Reportを発表し、興味深い結果を提示しました:
- 回答者の83%が出張の際に、プライベートの時間を使って滞在地を探索
- ほとんどの回答者(30%)は出張の際に少なくとも2日の休日を追加
すでに5年前にブリージャー(志向)が始まっていたというわけですね。
独基幹システム最大手のSAPの子会社で、旅費精算ソリューションの世界的リーダであるSAP Concurの報告によれば、2017年1月から12月までの1年間でそのシステム内に蓄積された出張、経費データから想定すると、220万件以上のブリージャーが全世界で行われており、全出張件数の約10%を占めていたことがわかりました。「世界」の尺度では出張を利用して、旅行をリーズナブルに楽しむ出張者が増え、企業もまたそれを認めつつあることが想定できます。
従業員の生産性や満足度向上という面でも注目が集まっており、米GBTA (Global Business Tavel Association) の調査では、78%の企業では、会社使用の出張用オンラインツールを使ってブリージャーの手配をすることを従業員に許可していました。ブリージャーへの便宜を図ることで従業員の高いモチベーションを得る施策と言えますね。
日本では「出張は社用であり、現地までの交通費を企業で負担している以上、延泊して楽しむのは公私混同である」という暗黙のルールが日本人のメンタルに根強く残り、出張に紐づけて休暇を取るなどもってのほかと、企業の方針のみならず従業員をも自主規制してきました。
ついに日本でも
出張の際、プライベート滞在での延泊を従業員に認めることは、有給休暇を承認するのと変わりません。企業にとって何ら損失ない上、出張帰りで混み合う週末夜より、ウイークデーのほうが航空運賃は一般的に安いので、ブリージャーを認めることで、出張経費が抑えられることもあるのです。ですから日本で徐々にブリージャーを認める企業が出てきたのも、不思議ではありません。
ブリージャーの傾向
前述のSAP Concurのデータから、ブリージャーの傾向が明らかになっています。
1. 全ての世代でブリージャーが人気
グローバルの視点では、出張におけるブリージャーの割合は、ミレニアル世代がもっとも高いのです。しかしブリージャーが先行する南北アメリカ地域に限定すれば、ミレニアル世代が38%を占めているものの、ジェネレーションX (X世代)もそれぞれ引けを取らない結果となっています。
日本は他国と最も傾向が異なり、ミレニアル世代(36%)よりもジェネレーションX(44%)のブリージャーの割合が高くなっています。
2. ブリージャーでの滞在先は、観光旅行の人気都市が多い
ヨーロッパとその近郊ではテルアビブ(イスラエル)、ロンドン、パリ、そしてアジアでは東京、シンガポール、上海が観光旅行の人気都市ベスト3ですが、ブリージャーも例外ではありません。人気都市で滞在を伸ばしたいと考える出張者が多いのです。
これは日本人にも同じ傾向があるのではないでしょうか。
3. 特にミレニアル世代による民泊利用が進む
欧米ではAirbnbなどの民泊も、出張者にとって重要な宿泊先です。展示会や国際会議が重なる時期には会場近くにホテルが取れずに、隣町で宿泊せざるを得ないことや、宿泊費が通常の2倍、3倍になることも珍しくありません。
あくまでも欧米の話ですが、ブリージャーの場合ホテル宿泊が全体の10%で、Airbnbの利用が70%にであることが判明しています。そしてAirbnbを利用したブリージャーの特徴は、76%がミレニアル世代の利用であり、ベビーブーム世代はわずか6%とのこと。
民泊の歴史が浅い日本では、出張に民泊を使うことは考えにくいですね。
4. ブリージャーの時期や期間は世界的に同一の傾向あり
グローバルベースでは特に9月と10月ではそれぞれ15%増、18%増とブリージャー件数が増加し、またブリージャーを積極的に活用する業種がわかりました。
- 製造、技術、金融サービスがブリージャーのトップ3で、2017年のブリージャーの4割を占める
- ブリージャーでの延泊日数は平均2日
インターネットの進化で今は多くの会議はオンライン経由で済ませることが多いですが、このトップ3は出張比率が高いということなのでしょうね。広いアメリカでは国内出張でも移動だけで半日かかることもザラにありますので、出張者にとって便利で効率よく、そしてお得にレジャーができるブリージャーでストレス解消しながら、出張をより楽しむことが大事なのかも。
ブリージャーには企業、出張者双方にメリットが
すでに言及している通り、企業が従業員にブリージャーの許可を与えることが、企業と出張者の双方にとってメリットになります。それは出張コストを抑えるだけではありません。ブリージャーを許可することは、仕事に対する満足度を大きく向上させますし、出張者が出張先の街を散策することは、顧客の文化に対する理解を深めることも期待でき、ひいてはビジネス上の信頼関係を構築することにも繋がるからです。
グレイゾーンも
一方でブリージャーは少々複雑なものにもなりかねません。どこまでが経費になるのか、出張のどの時点で、休暇になるのかといった判断しづらい問題以外にも、ブレージャーを取り入れるにあたって、企業、出張者双方がカバーすべき二つの義務があります。それは安全配慮義務と忠実義務です。
安全配慮義務とは
出張者が安全で快適に過ごせるための危機管理計画を実施するという、企業の責任のことです。まず企業が独自に決めるべきブレージャーのガイドラインを、出張者にあらかじめ明確に伝えておく必要があります。
緊急事態が起きたらすみやかに出張者と連絡を取ることができ、出張者の居場所が特定できるよう、企業側は出張者の全旅程(ビジネス期間および休暇期間におけるすべての旅程)を把握しておかなくてはなりません。また出張者自身が休暇期間のために保険に加入したり他の予防策を取ったりできるよう、出張者としてどのような補償が受けられるのかを開示しておくことも必要になるでしょう。
企業では出張者がブレージャーで、命に関わるかもしれない活動(例えば本格的な登山や、台風の中でのサーフィンなど)や会社の評判を損ねるようなものに関しては、明確な忠実義務のルールを設けるべきです。
忠実義務とは
あまり知られていない概念ですが、企業の利益に相反する出張中の活動や行動は慎むという、従業員が果たすべき義務のことです。
ブレージャーのガイドラインを出張規程の一部に定めるとともに、従業員に署名してもらうことで、出張時における従業員自身の役割に納得してもらうことが大切。
つまり会社は出張者に対してどのような責任を負うのか、また逆に出張者は会社に対してどのような責任を負うのかをきちん認識して初めて、ブレージャーを始められるというわけです。
アメリカでは「ワーケーション」も広まってきた
プレージャーと考え方が類似しているもので、ワーケーション (workation) があります。ワーケーションとは、働く(work)と休暇(vacation)を混ぜた造語で、アメリカで増えている新しいリモートワークの方法です。リゾートなどに行き、そこで休暇をとりながら働くといったもの。
アメリカで広まっている第一の理由は、労働者の休暇日数がとても少ないからです。そして休日でも電話やメールで仕事の状況をチェックをする人が多いのはアメリカ人も日本人と同じ。アメリカのビジネスパーソンのワーケーションが増えているのは、どうせ休日でもメールチェックしてしまう悲しいサガなら、そのまま休暇として楽しませてほしいといった考え方ですね。
既に海外などでは、ワーケーションをターゲットにした滞在先も登場しています。無料Wifiや格安SIMカードの用意はもちろん、同じ仕事をする人たちがグループで滞在できるように共同スペースがあるといった、まるでサテライトオフィスのような作りのホテルまであるのです。
そういうホテルに滞在すれば、始業前は皆で朝ヨガをして散歩した後パワーブレックファースト、昼休みはプールでリフレッシュ。夜はマッサージを受けてまったりしたらバーベキューを楽しむなど、通勤時間の代わりにリゾートを満喫することができます。
しかしワーケーションが日本で馴染むかどうかはちょっと様子見ですね。日本人は概してオンとオフの切り替えが上手でないので、ワーケーションを楽しめない人がまだ多そう。
旅行業界の新たな商機に
旅行業界では一般的な旅行客と少し異なるブリージャー需要が、新たな商機であることに気がついています。交通手段や宿泊先のみならず、出張先で少し豪華な食事を楽しんだり、非日常的なアクティビティを試すといったことをリアルタイムに提案されることが、プリージャーのニーズであると考えて、いわゆる「タビナカ」にさまざまなプランの用意が始まっているのです。
さらには会社公認でブリージャーをした人たちは、旅先でのすばらしい体験を「タビアト」にSNSなどに公開し広く共有してくれるので、気に入られたプランは知られるようになり、一つのブランドになることも期待できるというものです。
そしてインバウンドのブリージャーの増加も見逃せません。東京を訪れる海外客の多くは出張が目的なので、彼らがブリージャーで来日すれば、ショートトリップ需要が増えること間違いないですから。
JALでは自社でワーケーション、ブリージャーを導入
JALでは2018年からパイロットや客室乗務員などを除く従業員に対し、7月~8月の2ヶ月間のうちに最大5日間のワーケーションを認めています。就業開始時および終了時に上長に電話で業務の進捗状況などを共有すれば、出勤日として扱われ有給休暇と組み合わせて取得することも可能というもの。会議には電話会議システムを通じて出席すればOKです。
JALでは和歌山県と連携して、親子で楽しむ国内ワーケーションツアー「JALで行く『親子で夏休み!行こうよ和歌山』や、ハワイ旅行での長期滞在を目的とした海外ワーケーションツアー『オンもオフも楽しむハワイ ワーケーションサポート』といった旅行商品を開発。自社導入で得られた手応えを新たな商材としました。
2019年にはさらにブリージャーも自社導入を開始していますので、ブリージャーを冠とした新たなツアーが発表されるのかもしれませんね。
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