リープフロッグ型発展|新興国の飛び級イノベーションはとてつもない

リープフロッグ型発展|新興国の飛び級イノベーションはとてつもない

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経済記事で「リープフロッグ」という単語を目にしたことがありませんか。日本語に略せば「カエル跳び」、勢いよく飛び越えていくカエルのことです。

今回はリープフロッグ型発展の今後について確認していきたいと思います。

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リープフロッグ型発展

リープフロッグ型発展

リープフロッグ(Leap frogging) 型発展とは、社会インフラが整備されていない新興国で、米日やEUでデフォルトとされるイノベーションプロセスを飛び越えて、新規サービスが一気に広まることです。リープフロッグ現象ともいわれます。 東南アジア諸国で固定電話の普及を待たずに、携帯電話およびスマートフォンが急速に普及したことが、リープフロッグ型発展の代表例です。

概念から考えたら何も新興国に限定されることではありませんが、実際に具現化できているのは新興国だけといえます。

リープフロッグ型発展が起こったわけ

高い技術はなく、国民の所得も高くなく、水道や道路の整備もできていないといった「ないない」状態こそが新興国のイメージですよね。そのような国々でどうしてリープフロッグ型発展が起こったのでしょうか?

先進国ではインフラは十分に整っていますが、法律や規制による制約が多いです。この状況が新技術の普及の足かせになるというわけ。一方新興国にはそういったしがらみがありませんから、新技術を迅速に普及させることができるのです。

新興国は経済発展とともにモノ社会(商品を買う社会)が高度化し、先進国ではコト社会(体験する社会)が発展すると考えられてきました。しかし今後はモノ社会とコト社会が同時に進んでいる国こそが世界経済の雄となると考えられ、土台が出来上がっている場所より、何もないところのほうが対応できるのです。

イノベーションが進む国々

イノベーションが進む国々

リープフロッグ型発展で、大きく変化した国のお家事情を見てみましょう。

中国はキャッシュレス

中国に1990年代後半から携帯電話(ガラケー)が登場しましたが、その時点ではリープフロッグ型発展は起こりませんでした。その後iPhoneがリリースされましたが、中国の人々には高額だったので、購入したのは一握りの高額所得層だけ。しかしそこはさすが中国。iPhoneの海賊版が市場に出回りだし、その後国産の格安スマホが登場したので、スマホが中国全土に浸透したのです。

特に農村部から出稼ぎに来た中国人にとってスマホは初めて出会ったITデバイス。そうした人たちが重視するのは、低価格でそこそこの機能だったので、海外製品は受け入れられず、華為(ファーウェイ)や、小米(シャオミ)という国産ブランドが中国のスマホ市場を占有しました。

中国におけるFinTechの進展も、リープフロッグ型発展です。中国のお金(紙幣)は状態が悪く、自動販売機に入れても読み取れないこともしばしば、しかも偽札がATMから出てくることもあるほどで、キャッシュに対する信用度は極めて低いのです。

クレジットカード機能もつけられる、デビッドカードの銀聯(ユニオンペイ)のサービス開始が中国人のキャッシュレス移行の始まりで、さらには微信支付(WeChat Pay)、支付宝(Alipay)という電子決済システムの登場で、キャッシュを持ち歩く中国人は今ではいないといっても過言ではありません。

既存の社会インフラや法律の整備が十分ではなかったことが福に転じたおかげで、中国は電子決済、タクシー配車サービス、シェア自転車などのキャシュレスサービスが浸透しました。

ルワンダは人命救助

アフリカのルワンダには、「ドローン空港」と呼ばれる発射基地があります。そこから小さなセスナ機のようなドローンが1日に30便ほど飛び立っています。

機体は何と発泡スチロール製で、約1.7キロまで積載できる格納部分には、輸血用血液や医薬品など人命救助のための物資を収納。ドローンは最高時速128キロで物資を運び、到着地点ではパラシュートでそれを地上に降ろすのです。

米国のスタートアップ企業であるZiplineは、自社で開発したこのドローンで当初アメリカ国内でのビジネス展開を考えていましたが、航空局の規制などクリアする事項が多くて事業化が進まなかったのです。そこで直ちに方向転換をした同社は、新興国での活用法を模索し始めました。

そして2016年にルワンダでの実装が実現したのです。2000年代からICT産業にフォーカスし、「アフリカの奇跡」と呼ばれる経済成長を遂げたルワンダ政府が、いち早く海外スタートアップを取り組むための法整備を進めていたことが後押ししました。

通常の場合輸血用血液は、クーラーボックスに入れて温度管理をしながら車で輸送するのですが、アフリカには道路がない地域が多く、道路があっても舗装されていない路面が多いので、車での輸送は費用の問題のみならずリスクも高い。車で最低でも2時間、コンディションが悪ければ数日かかるところを、ドローンを使えば15分から30分の飛行で運べるのです。

ドローンが道路の整備を不要にしてしまったとも言えますね。社会インフラが整っていないからこそ、先端技術を利用したビジネスを迅速に進めることができというわけです。

そしてアフリカの成長は続く

2040年に生産年齢人口が中国を上回り、ますます存在感が増すとみられているアフリカ各国ではリープフロッグ型発展による新規ビジネスが続々と生まれています。そしてその可能性に世界中が反応しているのです。

その中でもリープフロッグ型発展で、一般人の生活を大きく変えたのは、ケニアの通信会社Safaricomと英国のVodafoneが共同で立ち上げた、モバイルマネーサービス、M-PESAです。

アフリカには銀行口座を持てない人々が大勢いますが、銀行口座がなくても携帯電話と身分証明書さえあれば、M-PESAではお金の支払いや受け取りなどができます。2007年に開始されたこのサービスは、開始後4年で、ケニア成人の約80%に利用されるまでになりました。

今やそのサービス提供範囲はインドやヨーロッパまで広がり、公共料金などの支払いから、給料の受け取りまで、M-PESAで行われていることがほとんどです。銀行やATMがない、あるいは銀行口座が作れないという人のために登場したモバイルマネーサービスが、ついにケニアのインフラになったのです。

リバースイノベーション

リープフロッグ型発展が新興国で広まると同時に、リバースイノベーション (Reverse innovation) にも注目が集まってきました。リバースイノベーションとは、従来のイノベーションの流れと逆であることから命名されたもので、「リバース・イノベーション」という本の著者であるダートマス大学のビジャイ・ゴビンダラジャン教授など中心となって、2009年頃に打ち出してきた概念、またはGEの元会長兼CEOのジェフリー・イメルト氏が使い始めた用語とも言われています。

これまでは先進国で起きたイノベーションが、新興国に普及することが通常とされてきましたが、新興国で開発された新技術が、逆流するように先進国を含む世界に普及していくというプロセスこそが、リバースイノベーションです。すでに多くの欧米企業で、リバースイノベーションに取り組んでいます。

欧米のスタートアップが自国でビジネスを立ち上げるのではなくて、新興国発で自らの技術を実装し、そこから世界に向けてプロモーションする流れもトレンドといえるでしょう。

いいことばかりでもないらしい

こうしたリープフロッグ型発展が次々と起きている中での裏返しとして、先に発展してしまった国でははなかなか次の世代へ切り替われないことが考えられます。

例えば韓国は21世紀初頭、世界に先駆けてADSLが普及したので、瞬く間にネット先進国となったが、そこにあぐらをかいてしまったために、光ファイバーへの切り替えが遅れてしまいました。今や韓国のネット環境は世界最先端とは言えませんよね。

リープフロッグ型発展という言葉自体がなかった頃にも、産業革命に成功したイギリスが、蒸気機関やガスの技術にとらわれて、電気への対応が遅れたこともありました。遅れて産業化に着手したドイツ、アメリカ、日本では、蒸気機関の時代を飛び越えて電気の時代に突入したので、結局イギリスは世界に遅れをとったのです。

つまりリープフロッグ型発展で新規ビジネスが確立したといって、安心してはいけないのです。絶えず次の一手を考えていなければ、国際社会から簡単に取り残されるということを忘れてはいけませんね。

調整ごとが多い先進国では

調整ごとが多い先進国では

アメリカや日本などでは、新しいサービスが出てくると、当然のことながら既存サービスとの摩擦が起こるために法律の修正が必要になります。ですからロールアウトには比較的長い時間が必要なため、先進国は「ゆでガエル」状態に陥ることが少なくないのです。

長い間先進国では、その経験から新たな戦略や計画を進めました。しかし予想もつかない新規ビジネスが出現してきた今、経験がものを言うコンセプト自体時代遅れなのです。

熱湯に入れたカエルは、すぐに脱出して生き延びますが、少しづつ水温が上昇していく水に入れたカエルは、水温が上がることに気付かずに逃げ遅れて死んでしまいます。ゆでガエルとは、ビジネス環境の変化に気付かず、最終的に対処できない状態のこと、

日本でもゆでガエル増殖中

ビジネス環境や戦況の変化についていけず、困った状況に陥る企業が。野村證券など大手証券企業、三大メガバンク、セブンペイを中止したセブン&アイ、ゆうちょ銀行にかんぽ生命など。

他の先進国と同様、官僚主導の規制の多い資本主義社会である日本もまた、ゆでガエルになってしまう企業がもっと増えてしまうかも。「Made in Japan」が世界的なブランドだった時代は終わり、世界の中で最先端といえる技術や産業領域は今の日本にはなく、しかも昭和モーレツ時代の遺物をも葬り切れてはいません。

東南アジアを使い勝手の良い生産拠点や販売市場としてみなすなど、上から眺めている場合ではありません。日本企業は、世界市場で担うべき役割を真剣に考え、経験したことのない環境に立ち向かう必要があるといえるでしょう。

リープフロッグ型発展の実装には

リープフロッグ型発展の実装には

実は日本にもリープフロッグ型発展の下地は大いにあるのですが、それが実装するには何らかのトリガーが必要です。

リープフロッグ型発展の実装に必要なことは、次のことだと考えられます。

  • 迅速な決断⇒実行
  • 柔軟な受け入れ体制
  • 非常識とも言える斬新なアイディア

AIやビックデータなどの先端技術に関するスタートアップが日本にもできてきました。そして彼らのアイデアを新規ビジネスに生かそうと、既存の大手企業とスタートアップとの連携も始まっています。あと必要なのは日本政府がこれらを推進する姿勢でしょう。

第2次大戦の敗戦国日本が、驚異的に立ち直ったことを鑑みても、リープフロッグ型発展のマインドは、元来我々日本人にはあるのですから。

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