採用マーケティングを理解し、成功するための6つのプロセス
コロナ禍による一時の状況変化はあったものの、依然として少子高齢化に伴う人手不足は日本の全業種で深刻な状況になっています。人材獲得競争の激化、採用手法の多様化など、近年の採用活動には大きな変化が見られます。特に新卒採用は、採用担当者泣かせの売り手市場。採用活動が従来の手法では難しくなっており、ぜひ採用したい優秀な人材ほど、なかなか応募してくれないのです。
【合わせて読む】
●現役女子大生SNS論|こんな時代に「マーケター」を名乗る学生の気持ちと、業界の危うさ
●もし、あなたが経営者なら「マーケティング がしたい」という人にマーケティングを依頼しますか?
●日本はもっとリファラル採用を強化するべき。理由を解説
そこで採用活動に取り入れたいのが、マーケティングの視点。マーケティングと採用活動では異なる職務のように考えられますが、ターゲットに強みを伝え、契約(購入/申し込み)を促す仕組みという観点で実は共通しているのです。今回は採用マーケティングについて深堀してみたいと思います。
採用マーケティングの基礎知識
採用マーケティングとは、採用活動にマーケティング的な視点や考え方や手法を取り入れ、データやテクノロジーを活用して求職者のニーズを理解し、採用プロセス全体を検証、その後候補者との適切なコミュニケーションを通じて、より効果的な採用活動につなげるための施策です。
まずは採用ターゲットを決定し、オウンドメディア、SNSやイベントなどターゲットが興味を抱くであろう情報コンテンツを作成し、効果的なアプローチを継続的に行うことに加え、採用した人材の定着、過去不採用になった応募者へのアプローチ、退職者の再雇用も視野に入れた仕組み作りを開発することになります。
従来の採用手法との違い
終身雇用時代の採用手法は、応募者の中から選ぶことが主流。しかも新卒一括採用後に中途採用をする必要がほとんどなかったので、求人情報の紙媒体やエージェントを利用し、一人でも多くの新卒応募者を集めることが、採用担当者のミッションでした。しかし最適な人材を選ぶ選考方法や、効果的に応募者を集める方法が課題になることが多かったのです。
採用マーケティングでは、現状の課題を鑑みた採用の目的、採用ターゲットの明確化をした上で活動を始めますので、マッチ度や定着率の高い人材を獲得できるだけでなく、長期的に効率の良い採用活動を行えるようになります。
採用マーケティングが注目されてきた理由
なぜ今採用マーケティングへのシフトが始まっているのでしょうか。次の理由が考えられます。
1. 転職予備軍を獲得する必要が出てきた
終身雇用制の事実上崩壊で、転職市場が盛り上がったことが、採用市場での競争を激化させました。その中で人材紹介サービスを活用した採用だけを行っても、欲しい人材の確保が困難になったのです。
優秀な人々は在職している企業での実績と、それを他企業で生かした場合のさらなる可能性を常に合わせ考えた上で活動しているので、何らかのきっかけがあれば即行動するもの。しかも転職を考えているそぶりを見せさえすれば、周りから声がかかることも少なくないので、人材紹介サービスに登録する必要もなく、転職できてしまうことが多いのです。
適切な人材を獲得するためには、すでに転職活動を始めている人だけでなく、転職予備軍や退職者にもアプローチすること。それには人材データベースを保有し、分析することでターゲットの割り出しをする必要が生じたわけです。
2. 価値観に合わせた情報発信が必要になった
激変する社会の中で、転職の決め手が多様化しています。今までは転職先企業の知名度や安定性、そこで得られる収入などをほとんどの人が重視していましたが、現在は個々人のビジネス感やライフステージによって、転職理由は様々なのです。例を挙げてみましょう。
- 社会的貢献ができること
- 人間関係が良さそう
- 自分が目指すキャリアパスに合っている
- ワークライフバランスが取れる
- etc.
そこで重要になるのが、自分に合った働き方を漠然と模索している、自分のキャリアアップに必要なのは何かを見極めようとする転職予備軍や退職者にも、自社で働くメリットや社員の満足度などの情報を、継続して発信することといえます。
自社の活動を知ってもらうことが、彼らが転職しようと思い立った時に、その候補の対象に入りやすくなるのです。
採用マーケティングで成果を出すには
採用マーケティングを成功させるには、採用前から退社後に至るまでの、社員候補者、社員、元社員と友好な関係を継続することが大切といえます。つまり自社のことを好きになってくれる社内外のファンを増やすことなのです。
自社に興味をもって応募してもらうにはどうするか、さらに採用後ジャンプスタートで、活躍してもらうにはどうすればよいか、という選考開始前から入社後までの継続的なコミュニケーションが、この採用活動に求められます。
採用マーケティングのプロセス
最初に採用マーケティング活動の、具体的なプロセスを紹介します。
- 要件定義:求める人材像の明確化。どのようなスキルが必要で、その中での優先順位など
- 認知:Webメディアや説明会、SNSなどを利用して自社の情報発信。特に欲しい人材にはDMなどで個別に情報を伝えることも必要
- 応募:社内外のWebメディアへ求人情報の掲載、社内イベントも活用し、応募者数を増やす施策を講じる
- 面接・内定:書類選考->面接の通過率を上げる、内定者数の増員
- 定着:メンターをアサイン、社内環境の改善を実施、社員満足度を上げる施策を立案
- 離職:退職者面談を実施し、環境改善の取り組みに活用、退職者の再雇用や将来は顧客となることも想定し、コンタクトを継続
このプロセスを基本とし改善を繰り返すことより、採用マーケティングによる継続的な成果向上が期待できるのです。
有効な分析手法
採用マーケティングにおける効果的な分析手法は、次の3つといえます。
3C分析
3CとはCustomer(市場・顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)のこと。この3つの観点で市場での立ち位置や強み、弱みを見出す分析手法です。
外部から見なされている自社の立ち位置を把握することで、足りないアプローチがわかり、改善点が見えてくると考えられます。
ペルソナ
採用ターゲットとなるのがペルソナです。どのようなスキルや経験を持った人を採用したいか、一人の人物像を設定します。ペルソナを設定することで、必要なアプローチ方法が絞れます。
カスタマージャーニー
一般的な意味でのカスタマージャーニーは、消費者が商品やサービスを認知して購入に至るまでの道のりを示したものですが、採用マーケティングにおけるカスタマージャーニーとは、採用マーケティングのプロセスで、求職者の意思決定をする流れを想定して、ゴールまでの道のりを明確にすることです。
リファラル採用でも
自社社員から人材の紹介を受けたり、人材を推薦してもらうこと実施する採用活動のリファラル採用を行う際も、採用マーケティングを実行することができます。
1. ターゲットの選定から情報コンテンツの配信
このフェーズでは、次の点を考察、分析します。
- 自社の魅力のアピールのために、配信するコンテンツはどのような内容がよいか
- ターゲットを見つけるためには、社員のうち誰を巻き込めばよいか
- 始める適切なタイミングはいつか
- コンテンツの効果はあったか(ターゲットに社員から情報がシェアされたか)
2.自社社員による転職予備軍への紹介
社員の行動から、次の点を確認します。
- 友人に対して勧めた自社の強みや特徴は何だったか
- 社員が自社を友人に勧めたがらない場合の改善策
3.リファラル紹介による応募率や反応を確認
配信されたコンテンツの質が訴求できる内容であったのかを確認し、社員の紹介による応募率や反応を見てPDCAサイクルを回します。
4. 入社確定した場合の対応
紹介者である社員には社内規定による報酬を提供するのはもちろんですが、その社員がどのような転職予備軍に友人がいそうなのかも、データベースで管理します。社員の誰に声をかければ、どの職種でのリファラル採用が成功するかが明確になるのです。
ツールの活用も大切
候補者が数十名程度であれば、採用担当がそれぞれの候補者に対し、個別のメール配信やF2Fの打ち合わせの機会を設けることで、最適な情報を提供することができますが、新卒採用なら、数百人から数万人が自分の都合でエントリーしてきますし、中途採用ではイベントへの参加やオファーを辞退した人の情報など、アクション履歴がどんどん蓄積していくため、人的アプローチの限界がまもなく訪れてしまいます。
候補者ごとの理解度や志向性にあわせた個別のコミュニケーションを実現するには、テクノロジーを活用したアプローチが重要になってくるのです。
キャリア重視か働きやすさ重視なのか、あるいは希望職種で分類を行っていくと、提供すべき情報が異るのは当然のこと。それを確認した上で、メールやWebを使って想定しておいたシナリオをベースに情報を提供していけば、工数を抑えながらより候補者のニーズにあった情報提供ができるというもの。
採用マーケティングですでに成果を出している企業では、複数のツールを使いこなしています。その中でキーとなるツールをご紹介しましょう。
CMS(Content Management Sysmtem=コンテンツ管理)
Webサイトを作成し、管理することのできるツールで、採用ページを作成する上でも必要になります。最近ではコーディングが不要なものも数多くあるため、専門的な知識がない採用担当者でも、Webページを簡単に追加できるのです。ツールを導入することで、ニーズに合わせたコンテンツの追加が迅速にできます。
ATS(Applicant Tracking Sysmtem=採用管理)
応募から採用に至るまで、採用に関する業務をまとめて管理するシステムで、一元管理することで工数削減ができることが、最大の導入メリットです。具体的な機能はは次の通り:
- 求人管理:求人票管理、求人ページ作成
- 応募者情報管理:履歴書、職務経歴書、求人媒体との連携
- 選考管理:面接での評価、進捗状況の可視化
- 内定者管理:内定通知、内定者のフォロー
- スケジュール調整:メールなどのコミュニケーションもツール内で実行
- 効果分析、レポート作成
採用担当者はATSの活用で、採用活動を包括的に管理できるようになります。
MA(Marketing Automation=マーケティングオートメーション)
本来は案件獲得を支援するためのマーケティング活動を行うためのツールですが、採用マーケティングを実現するためにも有効です。
認知、応募そして内定・入社に至る採用活動をMAプロセスに落とし込めば、それにあわせて新卒や、求職者とのコミュニケーションを最適化し、自動化することもできます。
まとめ
採用マーケティングの成功は、採用戦略に全てかかっています。そして根気強く結果を分析し、手段を継続的に改善しながら、採用活動を地道に実践しすることなのです。
人材不足が叫ばれる今、採用マーケティングを始めてみませんか。
【合わせて読む】
●現役女子大生SNS論|こんな時代に「マーケター」を名乗る学生の気持ちと、業界の危うさ
●もし、あなたが経営者なら「マーケティング がしたい」という人にマーケティングを依頼しますか?
●日本はもっとリファラル採用を強化するべき。理由を解説