見本市・展示会ばなれが加速している
国際大規模展示会である見本市から、企業が相次いで撤退しています。その結果規模が縮小されたり中止ということも。つまり従来型の見本市の淘汰が始まっているのです。
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目次
トヨタも見送り
トヨタ自動車では1977年から継続して出展してきた、自動車に関する世界最大級の見本市であるドイツ・フランクフルトモーターショーへの出展見送りを発表しました。
大手メーカーがフランクフルターモーターショー級の国際見本市に出展する場合には、数千平方メートルのブースを構えるので設営費が1億円を超えることもあり、トヨタも例外ではありません。
トヨタでは少し前からヨーロッパ開催の展示会に対してのコスト削減を実施中であり、今回の措置はその一環とも考えられます。「今までも出展していたおつきあいもあるし、ブランディングの観点から」今年も出展しようという考えに流されず、このモーターショーの費用対効果測定をしっかり行った結果のようです。
トヨタの2019年3月期におけるヨーロッパのグループ販売台数は99万4千台で、全体に占める割合は9%。グローバルレベルでは、中国の北京や上海開催のモーターショーの存在感が高まっていますし、トヨタは出遅れている中国市場の囲い込みのためにも、ヨーロッパから中国のモーターショーにシフトする計画であることが明らかです。
フランクフルトモーターショーとは
奇数年の秋開催の独フランフルトモーターショーは、ドイツ自動車工業会 (Verband der Automobilindustrie e. V.=VDA) が主催する国際モーターショー(IAA = Internationale Automobil-Ausstellung) のうち乗用車に特化した見本市で、約1千社が全世界から出展をしていました。
長い間ヨーロッパにおける新車発表の場とされていましたが、2017年の開催では
- インフィニティ
- 三菱自動車
- ジープ
- ボルボ
- フィアット
- プジョー
- 日産
- テスラ
といった大手自動車メーカーが不参加を決めました。
フランクフルトモーターショーでは独自動車メーカーが目立つ場所に出展するのがお約束ですが、BMWでは2019年の出展面積を3,600平方メートルと前回の3分の1に縮小することを発表しています。
デジタルマーケティングの普及も原因?
注力する市場のシフトのみならずインターネットの普及も、展示会離れの原因に数えられるでしょう。知りたい情報はウェブサイトから入手でき、SNSの普及でユーザーの口コミなど情報収集の方法が多様になりました。世界中のファンはモーターショーが開催される前にInstagram、YouTubeなどで目玉情報を確認していますので、会場に足を運ぶ必要が薄れているのです。
新車発表がストリーミングやゲームイベントなどで行われてることも。あるいは有名なインフルエンサーと企業が組んで行うSNS上のプロモーションで、新車のPRを低コストで効果的に行うのも今や常識です。
見本市では大量の登録データや名刺は入手できても、必要な情報としては不十分で、エンゲージメントも制限されます。デジタルデータ中心の時代にリードデータとして使えないデータでは、お金をドブに捨てるような結果になり得るのです。
他業界では
見本市離れは自動車業界だけの現象ではありません。例を挙げてみましょう。
スイスバーゼルワールド(世界最大級の時計・宝飾品見本市)
2019年はスウォッチグループが撤退し出展社数520、来場者数は8万1千人と前年対比2割減となりました。2020年からはジュネーブで毎年1月に開催される高級時計見本市のジュネーブサロンと開催時期を合わせ、共同で集客をテコ入れする計画です。
ホテルにも影響が
バーゼルワールドの主催社はバーゼル市内の2/3以上に相当するホテルと取り決めを交わし、展示会期間中のホテルの料金について上限を定めました。その結果これまでの相場の最大半値程度と宿泊費用が格段に安くなり、さらに見本市の期間中の滞在日数の制約は設けられず、一旦決めた料金が急に値上げされることもなくなったのです。
バーゼルにはホテルが少ないため、今までバーゼルワールド期間中の宿泊料は完全な売り手市場で、法外な料金を要求されることが多く改善が求められていましたが、出展社来場者とも激減したことから、突然買い手市場に転換しました。
独CeBIT (IT見本市)
ヨーロッパ最大のIT見本市であったCeBITは、2019年に33年の歴史に幕を引き、ドイツの産業機器の見本市であるハノーバーメッセと統合されました。しかし2019年のハノーバーメッセの来場者は21万5千人と前年より5千人しか増えなかったので、統合の効果は見られず。
日本開催のモーターショーは今
2019年10月開催予定の東京モーターショーではBMW、ポルシェ、フォルクスワーゲンなどドイツ大手が出展見送りを発表し、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの前年開催で、集客増を目論んでいた主催者にとって危機的状況です。
日本の自動車メーカー各社に対しては、主催社から出展ブースの拡大要請が出ているようですが、ますますローカル色が強い内容にならないか懸念されます。また出展内容も安全・環境などの最先端技術の展示が目立つなど、コンセプトカーなどを楽しみに訪れる来場者をがっかりさせることにならないのかと課題は多いようです。
人を呼べる見本市
見本市不況の一方で、引き続きユーザーが集まる見本市も存在しています。
CES
自動車メーカーはCASEなどに注力することでITとの融合が進んでいるので、大型発表の場として自動車の次世代技術に関わる企業が集まる場である米家電見本市のCESが選ばれることが増えています。加えて自動車メーカーが今後サービスとソフトウエアで稼ぐという、まさにこの変革期のパートナーを探すの場としても、 CESの重要性が増しているといえるのです。
VivaTechnology (VivaTech)
2019年5月に開催された大企業とスタートアップのオープンイノベーションのショーである仏VivaTechは開催4年目を迎え、ヨーロッパ圏内のみならず、中東やアフリカ、アジアなどの125ヶ国から13,000社のスタートアップ企業が参加し、会期中には124,000人が参加したので過去最大の規模となりました。
VivaTechにはGoogle、Orange、Facebookなどのテクノロジー企業のほか、
- La Poste(郵便)
- SNCF(鉄道)
- RATP(運輸)
- Accor(ホテルチェーン)
- シトロエン(自動車)
- LVMH(ラグジュアリーブランド)
- ロレアル(美容)
など様々な業界のリーダーが出展し、見本市とは産業ごとの縦割りという常識を覆すものです。
VivaTechは今後の見本市のなるべき形として注目されます。CESでは大企業とスタートアップは未だ別枠ですが、VIvaTechでは大企業とスタートアップとの融合でパビリオンが形成されています。大企業が新規ビジネスのパートナーとなるスタートアップと出会う場であり、スタートアップが優良アクセラレーターと出会える場にもなるのです。
見本市のあるべき姿
最後にこれからの見本市は、どのように変わっていくべきかを考えてみたいと思います。
バーチャルイベントの拡充
バーチャルイベントが大きくなることが考えられます。24時間いつでもインターネット環境があればどこからでも参加ができますので、全部回れなかったということは皆無。詳細情報のダウンロードも即可能。企業ではリアルタイムにリード情報を入手し、イベント中でも次のアクションに移行できるのです。
大企業とスタートアップの融合
そしてリアルな見本市は、他業種とのコラボ、大企業とスタートアップと融合したものが残るでしょう。大手企業がスタートアップとの出会いの場となりうる見本市や、自動車業界や家電メーカーがITの見本市に出展するのが常となる日がそこまで来ています。
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