「デジタルノマド」になれる人、なれない人
時間に縛られることなく、自分のライフスタイルに合わせて働くことができたらどんなにいいだろうと思う人は多いはず。日本社会では他国に比べてはるかに長い間、(有名な)会社に入社して通勤するのが社会人の常であり、また通勤するという行為そのものが、仕事の一部とみなされていた感があります。
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インターネットの登場によりフルリモートでも仕事ができる環境が整ったことで、日本企業もついにテレワークやサテライトオフィスでの就業や、業務によりますがコアタイムなしでの「スーパー」フレックスタイムを始めています。
社員の通勤時間が長時間であればあるほど、それを実作業に当てられるのであれば効率的ですし、さらに少子高齢化の今、良い人材を一人でも多く確保するための当然の変化でしょう。
日本では働き方改革という風が吹き始めたところですが、「ノマド」が世界中で流行し、さらには「デジタルノマド」という単語をも耳にするようになりました。
目次
まずはノマドとは何かを確認
ノマドとは英語の「nomad」のカタカナ表記です。nomadは定住地を持たずに移動しながら生活する遊牧民や放浪者を意味する単語ですが、今はそこから派生して、時間と場所に縛られずに働く人やそういった働き方を指すようになりました。ノマドで働く人を「ノマドワーカー」と言ったり、「ノマドする」と動詞として使用したりすることもあります。
仏経済学者であり、「ノマドワーカーの神」とも称されるジャック・アタリ氏は、2006年に発刊した著書である「21世紀の歴史ー未来の人類から見た世界」の中で、「これからの未来は、卓越した高いスキルを持ち、定住しないスタイルでビジネスや生活を実現する人=超ノマドが出現する」と述べています。今やこのアタリ氏の予言通りの時代となったと言っても言い過ぎではありません。
日本でノマドが増えた背景
学校を卒業し新卒で入った会社に定年まで勤め上げる終身雇用が原則で、「就職」というより「就社」、スペシャリストより、ジェネラリストであることをよしとするのが、かつて日本企業のステレオタイプでした。
自社ではなんでもできるスーパーパーソンでも、他社に行ったら全く通用しない経験では、転職などできるはずもありませんでしたが、外資系企業の転職文化が日本に入り込み、さらには頼みの綱の終身雇用モデルに限界が生じたため、日本企業でもスペシャリストの育成が始まり、自腹であってもキャリアアップのためにスペシャリストを目指す人が増えた結果、会社を辞めて自由に働くことを選ぶ人が増えてきたというわけです。
日本でノマドの概念が広く知られてきたのは世界に遅れ2010年あたりで、「レバレッジシリーズ」で有名な本田直之氏や、日本の元祖ノマドワーカーと呼ばれる安藤美冬氏が、そのブームの火付け役といえます。
ノマドにデジタルがつくと
デジタルノマドとは、ITを活用して世界を旅しながら仕事をする人のことを指します。グローバルノマドと呼ばれることもあり、ノマドをさらにノマドにした働き方といえます。PCとデジタル機器をいくつか持って、インターネットを駆使することで世界を旅しながら稼ぎ、気が向く時に日本に帰国して稼ぐといった自由な仕事人であり、スペシャリストと言われる人です。
基本はインターネット環境が整っている場所ならどこでも仕事ができるので、Wi-Fiが利用できるカフェや、デジタルノマド向けに作られたコワーキングスペースなどが仕事場になります。
デジタルノマド向け職種の代表例は次の通りです。いずれもIT技術に近しくて比較的新しいものが多いですね:
- IT系(PHPプログラマー、システムエンジニア、プログラマー、ECサイトの運営者、ソーシャルマーケティング)
- デザイン系(ウェブデザイン、グラフィックデザイン、アニメーター)
- 文学系(ライター、翻訳者、編集者、アフェリエイター、ブロガー)
バックパッカーとは違う
30年以上前にバックパッカーと呼ばれる人々が登場しました。ダイヤモンド社の地球の歩き方片手に(時には書籍の必要な部分だけを切り取ったものを持って)、バックパックを背負って安宿を泊まり歩いて旅をするスタイルが、典型的な日本のバックパッカーです。
そんな彼らはお金がなくなると帰国し、アルバイトをして旅費を貯めてからまた旅に出ます。今でもバックパッカーで世界を旅している人はいますが、デジタルノマドは滞在する場所で稼ぎながら旅を続けるという点で、バックパッカーとは一線を画しているのです。
デジタルノマドで働くこと
国内外問わず働きたい場所で、働きたい時間に働けるのがデジタルノマドの特権です。海外に出てみるとデジタルノマドの人口の多さに目を見張ります。特にネット環境が整っているタイやバリには、デジタルノマド用のコワーキングスペースやおしゃれなカフェが沢山あるのです。
デジタルノマドとして働く場合、物価の安い国を仕事場に選べば生活費を下げることができます。例えば東京では家賃に10万円以上払っている方が多いと思いますが、タイならコンドミニアムの賃料は1ヶ月2万円から2.5万円程度です。さらに食費も非常に安く、厚手のオーバーやダウンは不要、一年を通してTシャツ短パンでもOKなので、普通に暮らしたら生活費の合計が5万円くらいあれば足ります。びっくりですよね。
能率や効率を考えると一箇所で腰を据えて仕事をするほうがベターであることがわかっていても、大都会の狭いオフィスで仕事をするより、好きな場所で自由に働きたい人にデジタルノマドは向いています。
デジタルノマドに向かない人
残念ながらデジタルノマドとして働く上でのデメリットはとても多いのです。一番大きなデメリットはいつでもどこでもネットで繋がるわけではないことでしょう。突然ネットワーク難民状態に陥れば仕事が全くできなくなったり、クライアント、家族、友人と音信不通になることも。
最近ではフリーランスを守ろうという動きが日本でも起こっていますが、フリーランスの中でも特にデジタルノマドはまだ一般的な仕事形態ではないため、「信用」という観点では果てしなく低いのです。
デジタルノマドとして働くメリットがあるかどうかが気になる人には、この働き方が向かないことはいうまでもないですが、デメリットで心配になる人も選ばない方が無難でしょう。
デジタルノマドになるために
次にデジタルノマドになりたい方のために必要なことを挙げていきましょう。
デジタルデバイス
複数のデジタルデバイスを持つことがまず必要です。ノートPCを2台、スマホ、タブレットも同じく2台くらいは最低限持っておかないと、緊急時の対処ができなくなってしまいます。
さらにデジタルノマドで生活している以上、日本と勝手の違う海外でデバイス修理の依頼が簡単ではないことも忘れてはいけません。
稼ぐスキル
デジタルノマドの中には企業に勤めている人もいますが、ほとんどはフリーランサー(経営者)ですので、稼ぐためのスキルは必須項目です。
自由に生きていきたいからといっても、お金がないことには何も始まりませんし、たとえ始めたとしても続けられません。つまりデジタルノマドは、どこにいても稼げる人でなくてはならないのです。
連絡が取れる場所(人)の確保
デジタルノマドは連絡先を最低1ヶ所どこかに用意しておく必要があります。色々な場所で仕事をするので、いつも連絡の取れる場所にいるわけではないのは事実でしょうが、それではクライアントを不安にさせ信頼関係も築けません。また役所関係などからの通知は郵送の場合がほとんどですし、そのほかにも返信が必要な様々な郵便物が届くのです。
緊急連絡先としてクライアントの応対をし、あるいは郵便物を受け取ったことを知らせてくれる人が必要になるので、連絡窓口を任せられる家族か、最低一人の従業員を雇って連絡係を務めてもらわないことには、事業として成り立たないでしょう。
ITリテラシー
デジタルはデジタルノマドの生命線そのものなのです。デバイスのちょっとした不調を自力で直せない、テザリングやSIMが何であるかわからない、ネットワーク回線は自分で繋げないのでは、ノマドワーカー失格です。
加えて滞在する国での、使用料の面でもリーズナブルに回線をつなぐ方法を知ることも大切です。日本にいてもお得プランの存在に無頓着で高い料金を払い続けて気がつかないような人は、海外に行って同じことをしては毎月恐ろしい通信費がかかってしまい、デジタルノマドを廃業するだけで済まずに自己破産になってしまうかも。色々な観点で必要になるIT知識と認識を持っておくことが必須条件なのです。
プライドと自制心
デジタルノマドとして生きるということは、組織というしがらみから自由になると同時に、いつでも自分を信じ、自分で自分を正さないとならないのです。デジタルノマドでいるためには、これがもっとも大事なことかもしれません。
デジタルノマドで働く以上、納期が遅れないように自分で自分の尻を叩くしかなく、注意してくれる人は他にいません。しかし毎日同じように仕事をすることは簡単ではないのです。移動が重なって疲れている時、ネットワークが不安定な時、あるいはちょっとやる気がでないとしても、仕事がある以上はどんなことがあっても締切までには仕事を仕上げなければいけません。それができなければ次の仕事はなくなるという世界こそがデジタルノマドの生きる場所なのです。
まとめ
デジタルノマドの生活には誰もが一度は憧れるのではないかと思いますが、万人に合う働き方ではないですし、覚悟がないとうまくいかないこともわかりましたね。それでもどうしてもデジタルノマドとして世界に羽ばたきたい、もしくは自分にはそのスキルがあると自信がある方は、まずは在職中の会社でテレワークやサテライトオフィスでの勤務を経験してみることをおススメします。
一人で働く経験をしてみないと、果たして自分が「出勤しない孤独」に耐えられるかどうかもわかりません。お試しがうまくいったのなら、次は実践でチャレンジする進め方の方が成功率が高くなることでしょう。
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