非金融からネット銀行に参入のGrab、東南アジア企業が世界に躍進。

非金融からネット銀行に参入のGrab、東南アジア企業が世界に躍進。

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中国や韓国ではもはや新参者の入る隙間もないほど、モバイル決済が浸透していますが、こういった国々のかたわらで、ペイメント市場で今最も熱い地域と言えるのが東南アジア。

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貧困率が高い地域が多く残り、銀行口座を有しない人 (Unbanked) や、クレジットカードの審査にパスできない人が多く存在し、伝統的な金融サービスが十分に普及してこなかったのですが、世の中の状況が変わったのです。

この地域は間違いなく人口急増地帯で、労働人口年齢が低いため、若者の必需品である携帯電話の普及率が大変高い。つまりリアルタイムにデータにアクセスすることができる基盤が整ったのです。そこでスタートアップを中心とする、ペイメントサービス企業による、当地トップを狙った熾烈な争いが始まったというわけ。

加えて非金融機関によるこの市場への参入が、この地域におけるトレンドのひとつなのです。2020年に入ってからLCCのエアアジア(Air Asia)までもが、決済サービスに参入することを発表しています。

そして配車サービスのGrabのように決済サービスにとどまらず、ネット銀行ビジネスにまで触手を伸ばす企業も出てきました。今や世界中で勢いを持つネット銀行サービス。日本でもコンビニ業界から複数社が参入していますし、大手銀行がプラットフォーマーとのアライアンスを模索している状況です。

今回は非金融業界がネット銀行に参入して勝算はあるのかを、Grabの事例を中心に考えてみたいと思います。

Grabについて

Grabについて

Grab Holdings Pte. Ltd. の歴史は、前身のMyTeksiが2012年に設立されたことから始まりました。MyTeksiは配車サービスのGrabTaxiを、まずはマレーシアで創業。その後本社をシンガポールへ移し、2014年にシェアライドサービスのGrabCar、オートバイ向けシェアライドサービスのGrabBikeなど新規サービスを次々にリリースし、2016年に社名とブランド名をGrabに統一。配車サービス関連ビジネスの拡張と同時進行で、デリバリーサービスなど他分野にも進出を果たしました。

Grabはいわば米Uber Technologiesの東南アジア版です。ソフトバンクがGrabの主要株主であることが、日本では知られていますね。現在Grabアプリのダウンロード数は1億6300万台、配車サービスの合計乗車数は、創業以来の累計で40億回以上を記録しているのです。

2018年には同じくソフトバンクの投資を受けるUberから、彼らの東南アジア地域の配車サービスビジネスを引き継ぎ、この地域での配車サービスでの最大手企業になりました。

GrabPayのリリース

セキュアかつ迅速に送金できるプラットフォームがあれば、流通がより活発になると考えたGrabでは、ついにペイメント市場に目を向けることになりました。2017年にネット決済のKudoを買収後、決済サービスであるGrabPayを発表したのです。

Grabアプリに決済サービス機能が搭載されたことで、タクシーを呼ぶことから支払いまでが、乗車前にワンストップで完了できるようになったので、以前は大事件にも発展した、タクシー車内での支払いにおける、トラブルの心配もなくなりました。

そしてGrabPayではタクシーの支払いはもちろんのこと、Grabアカウントを持つユーザーへの送金や、GrabPayを導入している店舗での支払いもできるようになり、ついにペイメント市場への参入を果たしたわけです。

次にGrabPayの東南アジアでの躍進ぶりを、インドネシア、タイの事例から見ていきまししょう。

インドネシア

東南アジアで急成長を遂げる地域のうち、特筆すべきはインドネシア。2019年時点で2億7,000万人の人口を有し、東南アジア最大です。当地のモバイル決済ではGojekGopayと、Ovoのシェア争いが続いています。

先行していたGojekは、Grab同様にタクシー配車サービスから始まった会社で、タクシー利用の決済手段として2016年からGopayサービスを提供。それを追うOvoは2018年にGrabとの決済分野での提携を開始。

その後2019年にGrabがOvoを買収したことから、GrabとOvo連合の追い上げは急激に進み、また当地eウォレット決済の大手であるDANAの統合計画も進んだこともあり、同年にはOvoがついにトップに躍り出ました。これがインドネシアでのビジネス基盤をGrabが確立した瞬間です。

タイ

Grabは2018年にタイではメジャーな金融機関である、カシコン銀行 (Kasikornbank) から、5,000万米ドルの資金調達に成功しました。これによりGrabPay のタイ進出が急速に進んだのです。

提携モバイルウォレットのGrabPay by KBankがGrabアプリ内にリリースされたので、GrabPayユーザーなら誰でも、当地でGrabPayが利用できるようになりました。つまりオンラインショッピング、送金など銀行口座を持たなくても、Grabアプリ経由で行うことができるようになったわけです。

タイ政府が電子決済スキームのPromptPayを推進しているので、QR コード決済を導入しているタイ国内の店舗では、GrabPay by KBank がすぐに使えるようになりましたし、カシコン銀行の独自アプリであるKPlusと Grab アプリの統合も開始されています。

ネット銀行参入へ

ネット銀行参入へ

シンガポール政府は2019年7月に金融産業強化のための施策として、最大5行に対しデジタルバンク(つまりネット銀行のこと)免許の交付を発表しました。個人向けにもサービス提供が可能なDigital Fullbankと、中小企業などの法人顧客対象サービスに特化したWholesaleの2種類が用意されました。Digital Fullbankの免許は2行のみに交付され、申請には15億シンガポールドル以上の資本が必要、一方のWholesale免許は3行を交付し、1億シンガポールドルの資本が必要というもの。

シンガポール国内で既に認可されている銀行は、この免許は必要とせず独自にネット銀行業務を開始できるので、今回の施策はいわば新興ネット銀行を支援するものと言えますが、ネット銀行に進出しようとする企業に、中核事業が黒字であることを義務付けていることが特徴です。

Grabでは2019年12月にシンガポール・テレコム(Singapore Telecom=SingTel)と共同で、Digital Fullbankの免許を申請しました。これが取得できた場合にはGrabが60%、SingTelが40%の割合で出資し、新会社を設立する計画です。

1879年創業のSingTelはアジア第2位の規模を誇る通信会社。シンガポールのみならず、アジア圏で幅広くサービスを展開しており、ネット関連事業をメインで、情報通信分野の様々な事業を行っています。GrabにとってSingTelとの提携は、単独での申請は難しいGrabにとって、金銭面からも理にかなっています。

両社とも情報通信やネットビジネスに強みを持ち、アジア圏で幅広く事業を展開しているシンガポール企業であることから、彼らがDigital Fullbank免許を取得し、サービス提供が開始されたら、東南アジアのみならず、広くアジア圏でのキャッシュレス化やデジタル金融サービスの普及が急ピッチで進行すると考えられます。

既存銀行も黙っていない

競争の激しいシンガポールにおいて、すでに多くの顧客を得ているユナイテッド・オーバーシーズ銀行(United Overseas Bank=UOB)やDBSグループ・ホールディングス(DBS Group Holdings=DBS)という既存の銀行も、新興企業の進出に黙っているわけではありません。UOBは2018年末にGrabと提携しているので、Grab+SingTelの協業に割って入る可能性も大ですし、DBSはGrabのインドネシアのコンペであるGojekと共同で、デジタル決済事業を行っています。

デジタルバンク免許を取得した新興ネット銀行では、シンガポール政府の厳しい規制当局の下、収益性への明確な根拠を示す必要があります。免許を交付したのだから、実績を上げるようにという政府の強大な圧力に負け、ライドシェア事業大手が皆直面している、利益追求より新規顧客の増加に傾倒して事業が傾くという負のスパイラルに、Grabの新会社が取り込まれないことを願うばかりです。

追記:日本進出の足がかりは、JapanTaxi との連携から

2019年11月にGrabが出資する英SplytJapanTaxi が提携開始を発表。Grabの挑戦は東南アジアにとどまらず、日本進出も果たしたのです。

このことからGrabユーザーは、Grabアプリを利用して、日本ではJapanTaxiのタクシーを呼べるようになりました。タクシー乗車前に、使い慣れたGrabアプリ上で目的地入力を行うため、目的地(の住所)をタクシードライバーに告げる必要がなくなり、日本語がわからなくても気軽にタクシーが利用できるようになるのです。日本のタクシー事業者側とすれば、インバウンド経由の売上増が期待されるというもの。

まずは対象タクシー事業者37社、対象タクシー台数1万3,620万台で、全国でも人気エリアである東京と京都、札幌、名古屋、沖縄での対応でスタートすることが発表されています。

シンガポールでネット銀行の免許が獲得できたら、日本進出もありえそうですね。

日本のネット銀行事情

日本のネット銀行事情

マイナス金利政策による、超低金利の長期化が続いているため、日本の金融機関がこの苦しい経営環境から簡単に抜け出すことはできません。上場地方銀行103行の2019年9月期中間決算(単体)では66行が減益、5行が赤字となったのはまだ記憶に新しいですね。各行では生き残りをかけ、店舗の統廃合、人員削減を積極的に推し進めてのコストカットや、FinTechなどIT化の推進などの施策を続けざるを得ないのです。

その一方でインターネットやスマートフォンの普及により、実店舗を持たずIT 技術を活用したネ ット銀行の攻勢が近年強まっています。ある調査では2019年のシェアは 0.11% となり、2009 年(シェア 0.01%)から 10 倍に拡大したことがわかりました。

こうした中SBI ホールディングスでは第四のメガバンク構想を掲げ、2019年10 月に島根銀行、11 月には福島銀行と資本業務提携を締結しました。SBI ホールディングス主導の地銀再編が進むことで、金融サービスの変化や既存金融機関への影響に注目が集まりそうです。メインバンクとしてネット銀行を選択する企業も増加しています。上場している金融機関に口座が持てることイコール企業としての信用度の高さといった、伝統的な概念が崩れてきているのです。

テクノロジーバンクになるべき

今後銀行に求められるのは、銀行らしさを持ちつつも、技術力で新規サービスを生み出す企業の速度についてこられる、テクノロジーバンクとしての姿ではないでしょうか。FinTech関連企業が増える中、テクノロジーに対応できない銀行はもはや生きていけません。

ネット銀行の将来性

ネット銀行の将来性

インターネット環境があれば、入金、出金を除く365日24時間、好きな時に振込みや振替、残高照会などができるネット銀行は、今後一層普及していくと考えられます。また従来型の銀行より預金金利が比較的高く、手数料が安く設定されていることもアドバンテージです。

20代から30代の若年層の新規口座開設がネット銀行に移行する結果、ネット銀行の広がりは止められません。非金融業界から参入したネット銀行は、既存の銀行にない発想から、新規サービスを次々に打ち出し、それに既存の銀行が追従することも起こっています。

Grabをはじめとした海外のネット銀行が、列挙して日本に進出する可能性もありますし、今なら日本の新興ネット銀行が、東南アジアなどの金融ホワイトスペースを狙いに行けるのです。

ネット銀行で天下を取れるのは、国に依存しない非金融業界からの参入企業なのかも。今後の動向を静観していきたいですね。

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