ネット広告が台頭してもテレビCMはなくならない。
テレビやラジオでのCMや新聞の一面広告、JRや地下鉄の車内にはアドストラップや宙吊り広告、ステッカー広告など、そして駅構内やビルのサイネージ看板、世の中は広告で溢れています。テレビCMは長い間国内の広告媒体の王様的存在でしたが、インターネットとスマートフォンの普及で、テレビCMからネット広告へとデフォルトが変わり始めたのです。
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2019年にはネット広告費がついにテレビ広告費を上回りました。ネット広告の成長は今後も続くと考えられますが、その一方で印象が強く残り影響力が大きいテレビCMも企業にとって捨てがたいのも事実です。
かつて新聞広告が覇権を握っていた時代にラジオが出現しても新聞広告はなくならなかったように、20世紀後半にテレビが圧倒的メディアの王様になってもラジオ広告はなくならなかったように、ネットメディアがいくら発展しても旧態メディアは「使われ方」を変化させつつ効果的にプロモーションに活用されていくのです。
さて、今回はテレビCMとネット広告の使い分けについて考えてみましょう。
目次
テレビCMの歴史
以前の情報源と言えばテレビ、ラジオ、新聞、雑誌、そして口コミでした。その中でもテレビCMは、民間放送(民放)の放送開始と共に急速に広まったのです。
ご承知の通り、日本では国有放送のNHK以外のテレビ番組は、無料で視聴できますよね。どうして無料なのかその理由は、広告主からの広告収入で、テレビ番組が作られているから。広告主のメリットは、番組の途中にCMという形で自社の広告を何度も組み込むことができることであり、テレビCMで自社商品やブランドが認知されたら、即売上に連動されるため、その影響は非常に大きいのです。
1951年に大阪の新日本放送と名古屋の中部日本放送が開局したのと同時にラジオCMが始まりました。日本のCMはまずラジオから始まり、その第1号はミニ・ドラマ形式のスモカ歯磨きのものでした。
ラジオCM開始2年後の1953年8月に日本テレビが民放で初めてテレビ放送を始めたことに連動し、テレビCMも日本で初めて放送されました。日本のテレビCM第1号は、精工舎(現セイコーホールディングス株式会社)のCMで時報をかねた内容でしたが、第1回目の放送では、音が出ないままの放送となったそうです。
ほとんどの日本人にとって、NHKでしか放送というものを知らなかったので、民放のCMは衝撃的でしたし、戦争が終わって新しい時代の始まりという希望を、国民に与えたのかもしれません。その後のカラーテレビの普及で、テレビCMが一気に広告媒体のトップとなりました。テレビCMから生まれたキャッチコピーの多くが流行語大賞を賑わせ、テレビCMから人気を得たタレントも数多く生まれて、広告の枠を超えてテレビ番組にも負けない存在になったテレビCMもあったのです。
テレビCMには大きく2つ種類があります。
- タイムCM:個別の番組を提供し、その番組内のCM枠内で放送する広告
- スポットCM:番組に依存せずに、指定の時間に放送する広告
ネット広告の登場
サラエボオリンピックが開催された1984年、東京大学、東京工業大学、慶應義塾大学3つの大学が実験的にコンピュータをUUCP (Unix to Unix Copy Protocol) で結んだJUNETの取り組みが、日本のインターネットの基となりました。その後多くの大学や企業の研究機関がJUNETに参加しそのネットワークが広がる中、1988年にはWIDEプロジェクトが発足、日本で初めてIP接続によりインターネットに参加しました。その後パソコンの普及に合わせて、インターネットが急速に広まったのは周知のことです。
インターネットの普及により、テレビ番組よりもYouTubeなどネットの動画配信の視聴を好む人が増え、またウェブサイトを情報源として活用することが一般的になると、広告媒体としてのインターネットの存在感が高まってきました。
ネット広告の代表はネットサーフィンをしている時によく見る、Google広告ではないでしょうか。一言にネット広告といっても、次のような種類があります。
- SNS広告:Twitter, Facebook, Instagramなどに表示される広告
- 動画広告:YouTubeの最初か途中に流れる動画での広告や、サイトを開くと通常のバナー広告同様に再生される動画など
- リスティング広告:Googleなど検索エンジンで検索すると一番上に出てくる広告
- ディスプレイ広告:大手Webメディアが販売する広告枠を買い取り、自社広告を表示させる
- アフィリエイト広告:自社商品のメディアを持っている、通称アフィリエイターに商品を紹介してもらって、販売成果の一部をアフィリエイターにキックバックするという仕組み
- ネガティブ広告:ユーザーに記事の一つと認識させる手法(広告のようには見せない)
- メール広告:メディアが保有するメールリストに、自社広告をメールしてもらうもの。ターゲティングメールもその一つ
この中でも特に動画広告が、大きくシェアを伸ばしています。
何も知らない状態でネット広告をしても、広告費を支払っただけで何一つ利益が出ないことも少なくありません。市場調査をした上で、ターゲットを絞たマーケティングをして、どのネット広告を使うのがベストかを見極める必要があります。
電通が2019年2月に公表した調査レポートである、2018年日本の広告費によれば、2018年におけるネット広告費が1兆7,589億円に達し、一方のテレビメディア広告費が1兆9,123億円(そのうち1兆7,848億円が地上波テレビCM費)。
翌2020年公表の2019年日本の広告費で、ネット広告費がテレビメディア広告費を初めて上回ったのです。2019年のインターネット広告費は2兆1,048億円で、国内広告費の30.3%を占めることになりました。前年対比では19.7%の2桁成長で、初めての2兆円超えをも達成したのです。
広告を出す意義は変わらない
広告のトレンドがネットが変わってきているとはいえ、企業が広告を行う上での根本的な目的は、今までと変わらず次の2つではないでしょうか:
- 企業やブランドとして認知してもらうことで、自社イメージを上げること
- 自社の新商品やサービスを周知し、購買を促し業績を上げること
広告媒体がなんであれ、市場の信頼を獲得した良い企業広告は、商品に付加価値を生み出し、また人材獲得にも優位に働くこともあるのです。これはごく自然なことですよね。
テレビCMとネット動画広告の違い:ネット広告の方がよさそう?
テレビCMとネット動画広告を比べてみましょう。2つの大きな違いは広告費。テレビCMの放映権は、数百万円から数千万円が一般的ですが、ネット動画広告は1日数千円程度から始められます。ターゲットを絞ることで、最低限までコストを抑えられるのです。
テレビCMでは、調査結果から最も効果が上がると想定される、放映時間帯や放映回数などを設定することができますが、特定の視聴者にのみ絞ってCMを見せることは不可能。不特定多数への同時放映の形を取らざるを得ないのです。しかしネット動画広告なら情報分析サービスを活用し、ユーザーの関心や閲覧情報などから、特定のユーザーにターゲットを絞った広告が配信可能なので、これが非常に大きなメリットとなります。
動画ではひとつで視覚と聴覚に訴求できるため、わかりやすくて、印象に残りやすいという点も売りですが、この点ではテレビCM、ネット動画広告両方にメリットがありますね。
企業にとって費用対効果が高く、ターゲットを絞って配信できるネット動画広告は、情報通信社会が5Gに移行すれば、さらに需要が高まるといえそうです。当面は需要が供給を上回る状況が続くのでしょう。
しかしテレビCMは存続する
ネット広告のメリットの方がこのところフォーカスされていますが、テレビCMはこのまま衰退してしまうのでしょうか?2019年に初めてネット広告費がテレビCM費を抜いたのは事実です。しかしネット広告の勢いをまともに受けているのは新聞、雑誌、 ラジオの広告費で、この20年で半減していますが、テレビCMはそれほど致命的な影響を受けていないのです。ネット広告も利用しているけれど、多くの企業が商品やサー ビスの認知、購買にはテレビCMが引き続き一定数の効果を持っているとみなしているといえます。
しかもテレビ CM とネット広告では広告収入に大きな差があるため、番組制作の費用が大きい民放テレビ局が、直ちにネット広告をメインにするのは現状では困難ですし、スピード重視のコンテンツはテレビ優先で視聴しますし、スマホもパソコンも使わない層、つまりインターネットを一切利用しないユーザーも、超高齢社会の日本には多い。シニア層をターゲットにしたい、あるいは幅広い年齢層に訴求したい広告であれば、テレビCMの方が向くといえます。無論今の若者が高齢者になる頃には、状況が変わるとは思いますが。
コンテンツの信頼性という観点ではどうでしょう。マスメディアとして真実を伝えるという側面がテレビにはあります。一方のインターネットのメディアやサイトは、真実もあれば嘘(フェイク)も多くあるのは周知のこと。信頼性ではテレビ番組に付加される、テレビCMに軍配があがると言わざるを得ないでしょう。
最近では番組と CM の移り変わりを曖昧にしたり、番組の出演者が登場するテレビCMを選んで流すことで、視聴者をテレビ CM により注目させる工夫もされており、担当者の苦労が伺えます。
ネット広告が向くケース
ネット視聴する場合には、50 センチほどの近距離から映像を見ることが多いので、ユーザーはより集中して画面をみるようになります。またアクセスが簡単であることに加え、様々な データをあらかじめ付加したり、ユーザー側からも、コメントをウェブサイトに簡単に書き込め、また広告主もリアルタイムにそれを確認できます。一方通行のコミュニケーションなりがちなテレビ CM に比べて双方向性がありますので、ユーザー参加型の広告を望む場合にはベストです。
また若者のテレビ離れといわれるように、テレビを見ないけれどネットは見る若者層をターゲットとする広告には、ネット広告が向くといえます。
テレビCMとネット動画広告併用で1×1=3にもなりうる
米大手マーケティングリサーチ会社のニールセンの調査の一つである、A Comprehensive Picture of Digital Video and TV Advertisingによれば、テレビCMとネット動画広告の併用 で、広告効果が50%アップするのこと。つまり同じテレビ CM を 4 回見るより、テレビ CM 2 回、ネット動画広告 2 回というように、同じ広告を違うメディアで視聴された方が、広告効果を上昇させられるということです。
特にテレビが引き続き一定の影響力を持つ日本では、テレビCMとネット広告それぞれが争奪戦をして疲弊するのではなくて、どちらのメディアにもメリットとデメリット が存在するから、うまく併用することでそれが解決すると考えられます。
テレビ視聴者といえないユーザーが増加している現況も。別の作業をしながらテレビを見るといった「ながら視聴」や、テレビ番組はライブで見ないで録画して見るユーザーが増加していることから、テレビの視聴質に変化がありますし、見逃したテレビ番組をネットで後日放送する「見逃し配信』サービスも増加しています。
テレビ番組の制作の元手となるテレビCMの広告主をいかに潤沢にキープできるかは、多様なユーザーをどう取り込むかにかかってきます。ネット広告と争うのではなく互いを活用するのが正しい方向ですね。
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