サバティカル休暇は離職と過労の防止になる。企業が導入するための基礎知識。
「サバティカル」聞き覚えがありますか?サバティカル休暇と呼ばれることもあります。長い間会社に貢献している従業員、あるいは優秀な従業員に対し、日単位の有給休暇と異なり月単位で休暇を付与するという制度で、離職防止策の一環でもあります。
今回はサバティカルについて理解し、離職防止策だけではない側面についてもお話ししたいと思います。
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目次
サバティカルの意味
サバティカルとは、勤続年数が長い従業員または優秀な成績を収めた従業員に対して、付与される長期休暇制度です。ある面貢献に対する「ご褒美」。休暇の使い方は従業員に一存され、期間は月単位で最短1ヶ月から、最長で1年程度というもの。
休暇取得の理由に規定がある、有給休暇などの年次休暇とは、位置づけが異なるのです。
サバティカルの歴史
サバティカル(Sabbatical) は、旧約聖書に出てくるラテン語の「sabbaticus」=安息日に由来しています。1880年に米ハーバード大学で導入されたのが起源とされ、大学教員を対象とする長期の研究休暇制度でしたが、徐々に企業にも広がりました。
欧米でサバティカルが急激に広まったのは1990年代。1980年代の低成長、高インフレ、高失業率と財政赤字に苦しんだアメリカ。ようやく経済パフォーマンスの大幅な改善期を迎えた1990年代前半、能力次第でよりよいポジションを得られるようになり、優秀な従業員から次々と転職していきました。
欧米では仕事だけでなく、家族や自分自身の生活を大切にする「ワークライフバランス」の価値観が早くも登場していたので、それを重んじる企業を目指す人も少なくありませんでした。そこで企業は人材の離職を防ぐための対策として、サバティカルの導入を始めたのです。
フランスの例
フランスではサバティカル取得の条件を、次の通り公的に定めて運用しています。
- 現在勤務中の企業での在職期間が3年以上、かつ通算の勤務年数が6年以上
- 過去6年間に現在勤務中の企業で、サバティカルを取得したことがないこと
- サバティカルの期間は6ヶ月から11ヶ月
サバティカルの使途は基本的に自由なので、長期旅行、自己研鑽のための勉強にあてるなど人それぞれ。サバティカル取得後は取得前と同じか、それに類似する業務に復帰でき、給与も取得前と同等もしくはそれ以上が支給されます。
サバティカル中は無給ですが、フランスでは年間最大22日間の有給休暇を積み立て、サバティカル時の給与補償に充てられる制度があるので、サバティカルに向けて数年間有給休暇を積み立てる人が多いようです。
同時期にサバティカル取得者が一定水準を超えた場合には、企業は従業員のサバティカル取得を遅らせることができ、また従業員がサバティカルを取得することで、業務に大きな支障が出る場合には、企業に拒否権もあります。
日本でも注目される理由
日本では今までほとんど普及していなかったサバティカルですが、働き方改革によりサバティカルに注目が集まるようになりました。Z ホールディングス(ヤフーの親会社)やソニーでは既に導入されており、今後もサバティカルを導入する企業が増加していくと考えられます。
大きな後押しもありました。2018年3月に経済産業省の有識者研究会が、人生100年時代の到来を見据えた人材戦略などをまとめた「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」報告書の中で、国が推進しているリカレント教育を普及させる一つの取り組みとして、サバティカルの導入を企業に呼びかけたのです。
昼夜問わず、残業徹夜も厭わず働くことが、長い間崇められた日本。携帯電話がない時代と異なり、今は24時間その気になればいつでもどこでも仕事ができてしまうので、長時間労働による過労死や、残業を苦に自殺する人の増加していることは、日本政府としても見逃せるものではなくなりました。過労を防ぎ労働者の健康を守るという観点からも、サバティカルは重要な施策となりえるのです。ワークライフバランスが、日本でも知られたことも影響していますね。
サバティカルを取得することで、サイドビジネスの立ち上げや、自己研鑽のための勉強に時間を費やすことができ、個人のキャリアアップをも期待できますので、企業にとっても新たな財産をえられるはずですが、サバティカル取得後の従業員が、新しいチャレンジのため転職してしまう場合も。
在職している企業に勤めながら、新規事業に挑戦できれば、辞める必要はありませんね。政府では従業員の副業を容認を企業に推奨していますので、サバティカル導入に合わせて副業も認めるのが評価される企業といえるのではないでしょうか。
導入前のチェックポイント
サバティカル導入に当たり、確認すべき点を挙げてみましょう。
1. サバティカル取得の目的を定める
日本ではサバティカルについて公的な定めはありませんので、実施詳細は企業に一任されています。サバティカルを取得した従業員が何か新たなことを学んで帰ってくることを期待するのであれば、取得後にレポート提出を義務付けるのも一考です。
2. 無給か有給か定める
サバティカル中の給料の支払いに関しても、企業に一任です。サバティカル中は完全無給に設定する企業は多いですが、通常の給料の何割かを支給する、あるいは有給休暇の買い取りを行い、それを給与の代替で支給する方法を検討することもできますので、自社に適した方法を定めます。
3. 引き継ぎの徹底
フルタイムの従業員が長期間不在になりますので、留守のメンバーで滞りなく業務を行えるためには、十分な引き継ぎが必要です。時間に余裕を持って、サバティカルに入る数ヶ月前から引き継ぎを進めるべきでしょう。
4. サバティカルの周知
「数日の有給休暇でも取りにくいというのに、なぜあの人だけ長期休暇が認められるのか」といった不公平感が生まれないために、条件に合えば誰でも活用できる制度だと、全従業員に周知することが重要です。
メリット・デメリット
サバティカルの導入で、企業側には次のメリットがあると考えられます。
従業員のスキルアップ
サバティカルで、大学院進学や、海外留学がしやすくなるので、従業員が新たな専門性やスキルを身につけ、復帰後に身につけたスキルを活用し、貢献してくれることで、現場に良い影響を与える効果が期待できます。
従業員の離職防止
介護・病気療養・育児など家庭内のやむおえない事情で、長期休暇が必要になる場合に、サバティカルを取得することで、在職したままで家のことができるので退職防止になると考えられます。
長期間の勤務で積み重ねた疲労やストレスは、短期的な休暇では解消できない場合も多く、その結果離職を考える従業員も少なくありませんが、サバティカルによりリフレッシュの機会を得ることで、再び精力的に働くことができるものです。
また長期在職すればサバティカルを取得できるという良いイメージを、まだサバティカルの対象ではない従業員に与えることで、短期離職者数を削減できるかもしれません。
企業のイメージアップ
サバティカルを導入することで、ワークライフバランスの意識が高い企業と評価されるはずなので、ブランディングに効果的です、休暇制度などの福利厚生の充実は、求職者へのアピールになるので、求職者が増え、計画通りの人材確保に期待できます。
また従業員はサバティカルを導入している自社は、従業員を大切にする良い会社とみなすようになり、企業に対する愛着や、帰属意識が高まります。良い会社だから自分の友人にも進めたいと、レファラル採用にも貢献してくれるかもしれません。
属人化が避けられる
優秀な人材であるほど、自分がいなければ仕事が回らないといった思い込みを持つものですが、そんな彼(女)がサバティカルで不在になる、その穴を埋めようと別の従業員が業務をコントロールしようと頑張り、その結果遜色なく仕事がこなせるようになれば、万一サバティカルを取得した従業員が復帰しなくても、ビジネスに影響を与えにくくなるということも考えられます。
デメリットを与える可能性も
メリットがあれば、デメリットもあるのは仕方がないことです。
まずは職場復帰後、仕事の勘が戻らず、せっかくサバティカルで新たに得たスキルもいかせぬまま、従業員のモチベーションが低下してしまうケース。これを避けるには現場、経営者双方でのフォローが必要ですね。
あるいは優秀な従業員の離職防止の意味もあるサバティカルだったはずが、ザバティカルで業務と別のことに興味を抱いてしまい、復帰することなく、結局離職してしまうということもゼロではありません。新規チャレンジにかける従業員の決心がかたければ、運命ととらえるしかないのかも。
リストラ施策としてサバティカルが使われる場合も
コロナウィルス感染防止で、企業が一斉に自宅勤務状態になったのは周知のこと。日本政府は企業の存続と、従業員の雇用を守るために、新たな支援制度の施行を急いでおり、企業側もそれに賛同し対応しようというところですが、海外企業の対応はもっとドライ。調子が良い時は、毎日でも採用活動をしますが、収益が減れば即無給で休業(自宅待機)、その後には大量リストラが待っているのです。
外資系企業日本法人の何社かでは、リストラ候補となる従業員にサバティカルの提案をする企業が増えています。これはサバティカルの新しい活用方法と言えます。
サバティカルは離職防止の措置なのになぜなのか。つまりこういうことです。この場合期間は短めで3〜6ヶ月程度、休暇中も通常の給料の6〜8割支給し、最終的な目的は、サバティカル中に別の仕事(会社)を探してもらうというもの。
流石の外資系企業も、日本では顧客の手前や、日本でのイメージダウンは避けたいという考えがあるのか、本国のようにスピーディーにリストラができない場合が多いようです。サバティカルという制度を介せば、日本の従業員には十分に配慮した対応を行なっているというアピールにもなります。
サバティカルを提案された従業員は、もちろん断ることもできますが、概ね事情を理解しているため、即リストラになるよりマシととらえ、受け入れる場合が多い。日本市場撤退など最悪な状況を想定して、サバティカルに自分から立候補する人もいるほどです。
一方ジェネラリストが多い日本企業で、サバティカルをリストラの一環として導入することはしばらくないと思いますが、日本経済が大不景気時代に突入すれば、何が起きるかわかりませんので、この事例をも心に止めておくことをお勧めします。
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