ポストコロナで、ゼブラとユニコーンの違いがハッキリ
ユニコーンは架空の動物ですが、ゼブラ、ユニコーンと言えば、「え、今回は動物園の話?」と勘違いされてしまうかもしれませんよね。どちらもスタートアップ企業のことです。ユニコーン企業(以下ユニコーン)は以前から知られていますが、最近はゼブラ企業(以下ゼブラ)というカテゴリーが登場しましたが、ゼブラの存在感がユニコーンを超える勢いなのです。
今回はゼブラとユニコーンについて確認したいと思います。
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●インサイドセールスのメリット「人手不足の解消」ともう1つは…
●海外アクセラレーターに、日本のスタートアップが期待できること。
目次
まずはユニコーンを知ろう
ゼブラはユニコーンとどこが違うのでしょうか。まずはユニコーン企業の定義と歴史を確認しましょう。
ユニコーンとは
ユニコーンは、創業から年数が浅く(10年以内)、企業価値評価額が高い(10億米ドル以上=約1,130億円)の未上場のスタートアップであることが条件。加えて絶対的な条件ではないとはいえ、テクノロジー関連企業であることも。
今ではグローバル大企業であるTwitterやFacebookもかつてはユニコーン。両社とも設立10年以上が経過したので、自動的にユニコーンからは外れました。もちろんユニコーンでなくなっても、企業価値が低くなることではなく、十分に成長した企業とみなされるのです。
誕生するユニコーンと、そのカテゴリーから外れるユニコーンによって、その総数は絶えず変動しています。
ユニコーンは2013年にアメリカのベンチャーキャピタリストである、アイリーン・リーが2013年に発案したものといわれています。当時は10億ドルという尋常でない評価額が期待できるベンチャー企業がほとんどありませんでした。そのためその中で成功したベンチャー企業の希少性を表すために、伝説上の生き物であるユニコーン(一角獣)を選んだと言われています。
デカコーンとヘクトコーン
ユニコーンには、デカコーン企業とヘクトコーン企業と呼ばれる上位クラスがあります。デカコーン企業は評価額が100億ドル以上のユニコーン、ヘクトコーン企業は評価額1000億ドル以上のユニコーンのことです。
2020年のユニコーンの現状
ユニコーンといえば、2010年代前半ではアメリカおよび欧州企業がほとんどでしたが、今ではその分布図が急激に変化しています。現在400社超のユニコーンが存在し、累計評価額は1兆2,180億ドルに。国別に分けると8割がアメリカと中国企業で占めている結果になりました:
- アメリカ:151社
- 中国 :82社
- イギリス:16社
- インド :13社
このほかにASEAN諸国でもライドシェア事業で凌ぎを削るGrab (シンガポール)、Go-Jek(インドネシア)が、両社ともアメリカハーバード大経営学院を終了したファウンダーの元で、中国企業の投資を受けユニコーンの仲間入りを果たしています。
圧倒的な存在感を持つようになったユニコーンに対し、既存の大企業でもユニコーンへの投資や協業を追求するようになり、世界中がさながらユニコーン至上主義に傾倒。一方で地道に事業を伸ばしたい起業家の居場所は、そこには存在せず、ユニコーンに対して疑問を感じる企業も出始めています。
事業拡大を優先するため、ユニコーンは経営状態が火の車であっても、投資家に駆り立てられ継続して資金調達を行いますし、自社の成長や利益を何より優先させるのです。これらの姿勢が社会的にそして倫理的にも、社会にマイナスを与えかねません。
日本に少ないユニコーン
残念ながらユニコーンが誕生しにくく、ASEAN諸国にも遅れをとっているのが、現在の日本の状況。起業環境が整っていないのがその理由ですが、時代は動きつつあります。2018年6月に、「未来投資戦略2018」が日本の閣議で決定されました。これは2023年までにユニコーンやそれに近しい上場ベンチャーを、20社以上創出させることを目標に掲げたもの。
翌年2019年4月には、仮想通貨分野(リキッド・グループ)とAI分野(プリファードネットワークス)からそれぞれ新しい日本のユニコーンが誕生しました。
for Startups, Inc.の国内スタートアップ想定時価総額ランキング最新版によれば、2020年3月時点では、日本のユニコーンは7社存在しています。
ゼブラとは
ユニコーンを無条件に賞賛する風潮へ、危機感を覚えた教育やジャーナリズムに関わる事業を行うアメリカの4人の女性起業家が、2017年に提唱した概念がゼブラです。IPOや急成長を優先するのではなく、本来のスタートアップが持っていた世界及び地域社会への貢献を重要視し、持続可能性のある社会の繁栄とその共生を求め、その範囲内での利益の創出と成長を長期的に目指す企業の総称。
キーワードは相利共生。ゼブラは自社と株主の利益のみを追求するのではなく、他社との共存、協調し、公共やコミュニティが受益者となるのです。
ゼブラ企業を増やす目的で前述の4名の女性起業家が立ち上げたコミュニティである、Zebras Uniteには、彼女たちに共感する起業家、投資家など全世界から4,000人以上がメンバーとして参加しています。今後は現在の主活動である情報共有に加えて、ゼブラのための投資ファンド運営や、ゼブラの啓蒙活動の一環として、教育活動も予定されています。
ゼブラは、SDGsが重要視される現代社会にマッチした経営スタイルとも考えられ、企業利益を最優先にするユニコーンと、NPOやNGOといった社会貢献を第一とする非営利団体の中間点に存在しているもみなすことができます。
ゼブラの必要十分条件は次の4つです:
- 社会的インパクトの創出
- 多様なステークホルダーへの貢献
- 革新性
- コラボレーティブ(開示性)
ゼブラが知られてきた理由のひとつには、ユニコーンになった後の米Uber Technologiesの赤字経営や、米トランプ大統領が大騒ぎしたTikTokを運営する中国ByteDanceへの中国政府関与疑惑など、ユニコーンへのネガティブイメージが世界中で起きているためと言えます。
またソフトバンク・ビジョン・ファンド(10兆円ファンド)で世界のユニコーンを支援してきた、ソフトバンクグループのつまずきも記憶に新しいです。そのうちの最たるものは米WeWork。出資先の価値が下がり、起業家にずさんな経営を許してしまいましたよね。
ゼブラとユニコーンの違い
ユニコーンが一匹で生きると言われているのに対し、ゼブラは群れで暮らしているのもこの2つの違いを象徴しているといえるかもしれませんね。具体的にどんな違いがあるのでしょうか。以下Zebras Uniteの資料からの抜粋です:
1.目的
- ユニコーンは急成長を狙った市場の独占
- ゼブラは利益と社会貢献の両立を目指した、持続的な成長
2.受益者
- ユニコーンは限定された個人、株主
- ゼブラは公共、コミュニティ
3.優先順位
- ユニコーンはユーザー獲得
- ゼブラはカスタマーサクセス
4.評価基準
- ユニコーンは定量的
- ゼブラは定性的
5.方法
- ユニコーンは競争
- ゼブラは協力
6.性質
- ユニコーンは独断的
- ゼブラは参加型
7.結果
- ユニコーンは独占
- ゼブラは複数での共存
最近のユニコーンは利益の追求だけに走るあまり、企業倫理を忘れた悪しき資本主義の象徴になり下がってしまったといわれることも。何となくネガティブな雰囲気が多くなったユニコーンに対する競合として、ゼブラの新たな価値観が注目されるわけです。
ゼブラの登場がユニコーンを全否定するのではないことと、ユニコーンが、2020年の世界市場において、ピークアウトを迎えて、揺らぎつつあるということは、確認しておきましょう。
ゼブラの代表
ゼブラはアメリカから世界に広がりはじめました。ここでゼブラを代表する企業を、何社か紹介したいと思います。
Zappos.com(米)
従業員の幸せを考えたコア・バリュー(社訓)を設けて従業員の働きがいや満足を重視し、リピート率75%という顧客サービスを極めた、靴のオンラインストアのZappos.comは、売上0から10年という短期間で1,000億円を売りあげ、Amazonの露骨なやり方にも屈せず、勝ち続けました。2008年にはAmazonに800億円で買収されましたが、ただ買収されたわけではありません。
独自の文化を維持し、経営も独立したままという条件付きでした。その後も順調に成長し、現在の収益は20億米ドルになりました。
Karma(スウェーデン)
2016年にサービスをリリースし、現在スウェーデンとロンドンに拠点を持つKarmaでは、フードロスへの挑戦に取り組んでいます。お腹を空かせたユーザーと、スーパーやレストランとをつなぐアプリを提供して、処分する食品を通常の半額以下で買える仕組みを確立しています。
スウェーデンでは最大手スーパーマーケットチェーン3社を含む、レストラン、ホテル、カフェー1,500社と提携し、30万人以上のユーザーが利用しています。スウェーデンのエンジェル投資家から資金10数億円を調達し、ヨーロッパ中心に200以上の都市に事業を広げる予定です。
Saavy Cooperative(米)
医師や製薬会社がヒアリングを行うための、患者とのマッチングプラットフォームを提供し、コンサルサービスも行う企業である同社。事業もユニークですが。その法人形態がさらに独特で、患者が議決権を持つ組合形式での法人(患者が所有する唯一の協同組合)なのです。アメリカではPlatform Co-opとも呼ばれます。
資金調達が必要になった際は組合メンバーから賛同を得て、投資家の迎入れを決定しました。そして法人オーナーを、患者、従業員、創業者、株主の4つのクラスに分けるという、アメリカ初の法人形態を実現。その結果一部の株主だけでなく、全ステークホルダーが経営に参加できることになりました。
日本には、中小企業あり
経営の本質は、企業を倒産させずに経営を続けること。持続的に成長する企業ならば100年、200年と続いていくことができます。
ここで注目したいのは、日本の中小企業。日本企業には世界的にみても老舗が多く、創業200年以上の企業が5,000社以上、さらに1,000年以上を数える企業も21社あるのです。無論老舗で右肩上がりの成長ができている企業は少数、そのほとんどが低空飛行状態で、一定の規模を保ち続け存続しています。
顧客というものは通常、サービスや商品の競争力の低下などで離脱していくもの。ほとんどが流動的な顧客で、固定客は多くても2割と考えられるのです。よって継続して新規顧客を獲得し固定客に育てていかない限り、企業は存続することができませんが、日本の老舗は顧客を獲得し続けているからこそ、持続的成長ができているといえます。
つまり日本にはゼブラが目標とする「持続的成長」を実現している企業が、すでに数多く存在しているのです。最近ではSDGsが知られてきて、日本でも重視されてきたので、ゼブラの成長は益々も期待されると考えられます。日本ではスタートアップのみならず、老舗の中小企業がゼブラの代表格となる可能性があるように思えます。
ゼブラがポストコロナでブレイクする
今回の新型コロナウィルス感染ショックにより、我々は従来の経済や社会のあり方を見直すことを余儀なくされています。コロナ禍で社会的意義や、他者の共生を掲げ、長期視点で成長を目指すゼブラの成長が必要かつ想定でき、ポストコロナでの社会貢献でも、ゼブラの出番が大いに増えることは違いないのではないでしょうか。
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