世界からTikTokが消えたなら
TikTokは10代から20代の若者中心に、世界的にブレイクしているSNSアプリとして知られていますが、今は別の顔も持っているのです。
目次
各国で「TikTok制限」が…
2020年7月、米国務長官のポンペオ氏が、中国政府による監視やプロパガンダとして使用される懸念があるとして、ホワイトハウスでのTikTokの使用禁止を検討していると言及。その後8月に米トランプ大統領は、TikTokが9月15日までに米企業に買収されなければ、アメリカでの事業を禁止すると発言し、米マイクロソフトに対し、TikTokの米サービス部門を買収させる方針であることが報じられました。対する中国はアメリカが中国のサービスを一方的に奪う「盗人」であると、激しく避難。
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インドでは2020円6月から、TikTokを含む中国企業が開発した59のアプリの使用を禁止。これは治安問題に影響を与えるデータセキュリティと、プライバシーの流出について、インド政府に対し、様々なソースから多くの抗議が寄せられたことに対する措置とされています。
人口13億人の半分近くがネットを利用するインドで、出入り禁止を食らった中国企業と中国当局は穏やかではいられないでしょう。禁止された59のうち27のアプリが、禁止前にはインドでのトップ1000アンドロイドアプリにランクインしていたのですから。
世界的に浸透し続けるTikTok、本当に危険なアプリなのか、それとも爆発的な人気故、目をつけられたにすぎないのか。そして禁止されたらどのような影響があるかを考えてみたいと思います。
TikTokとはどんな会社か
中国屈指のIT企業であるByteDanceが運営する動画投稿アプリがTikTokです。もともと中国TikTokのサービス開始は2016年ですが、実は現在のTikTokの元になったサービスが、米musial.ly。2018年にTokTokとmusical.lyが正式に合併し、現在のTikTokとなりました。企業としてのTikTokは、ByteDanceアメリカ子会社の位置付けです。
急速にユーザーが増え、今ユーザー数は世界で8億人、15億回ダウンロードされるまでに。アメリカだけでユーザー数は7,000万人、1億6,500万のダウンロードが記録されています。主なユーザーは10代~20代の若者で、女性が3分の2近くを占めているのが特徴です。
TikTokがブレイクした理由
TikToKの特徴は、15秒から最大でも1分程度の短時間で、物事を伝える点です。特別な録画設備も不要で、スマホで簡単に作成できる動画レベルで十分。また短時間限定録画のため、朝の電車やバス待ちなどのほんの10数秒で、録画も視聴もできるという点でも人気があります。また早送りや戻しも好きにできるので、面白いところを何度も見ることができるのも魅力なのでしょう。
簡単にBGMもつけられて、動画編集など専門知識なしでも、それなりに面白い動画が作れるので、多くのファンを引き付けているのです。
TikTokには13歳以上でないと使用できないという年齢制限ルールがあり、12歳以下だとダウンロードができないしくみなのです。とはいえ年長者と一緒にみることはできるので、ゆるいルールといえます。
TikTokがアメリカに嫌われる理由
最初にTikTokが米政府に睨まれたのは2019年2月のこと。TikTokが児童オンラインプライバシー保護法(Children’s Online Privacy Protection Act=COPPA)に違反し、13歳未満の子供から個人情報を収集していると、米連邦取引委員会(FTC)に指摘されたことで、ByteDanceが570万ドル(約6億3,000万円)の罰金を支払いました。ByteDanceはその後COPPAの遵守、利用に際して年齢制限の設置、そしてTikTokの安全な使い方を指導する動画を公開するなどの対応を行いましたが、その後もTikTokがユーザーの個人情報を奪う可能性があるなど、米政界からも批判を受け、最終的には2020年8月のトランプ大統領による、TikTok使用禁止の発言となったのです。
トランプ大統領がTikTokを使用禁止にしたい理由
理由は、次の4つが考えられます。
国民の個人情報が中国政府に提供され、安全保障の脅威になるから
2017年に制定された中国の国家情報法の第7条で、「個人や企業は、政府の情報活動には協力しなければならない」と定められており、同第14条では「情報機関が国民に協力を要請できる」としています。つまりByDanceは中国政府の要請があれば、TikTokで集めた個人情報を中国政府に提供せざるを得なくなるということなのです。これはアメリカのみならず日本にとっても由々しき問題といえます。
TikTokはアメリカ人を代表とした、アメリカを拠点とした会社であり、今までユーザーのデータを中国政府に提供したこともないし、仮に求められたとしても提供しないとTikTokのスポークスマンは述べているそうですが、たとえTikTokが中国政府にデータを提供しないと主張しても、政治的な圧力があるので、「絶対にない」と言い切れないのも事実でしょう。
米製品追加購入計画などの進捗遅れに対する中国への報復
米中貿易戦争の末、2020年1月に米中経済貿易協定の第一段階が締結されました。それに基づき中国では2年で2,000億ドル(約22兆円)の米製品の追加購入計画などをコミットしていましたが、折しも新型コロナ感染の混乱のため未だ実施されず。
自分の実力を示すエビデンスとするため、大統領選前にはこれを実現させたいと考えたトランプ大統領は、TikTokを禁止することで、中国側をゆさぶるつもりなのでしょう。
トランプ大統領の「敵を作り、攻撃することで支持を伸ばす」戦法にTikTokがはめられた
アメリカでの新型コロナ感染拡大の結果、中国に対して不快感を持つ人がアメリカで増加しています。2020年2月に行われた調査では、アメリカ人の67%が、中国に好意的ではないと回答し、その後の7月調査では、73%が中国を否定的に見ていることがわかりました。2018年の同調査では47%だったので、アメリカ人の対中意識はとても悪化しているのです。
そのことを知るトランプ大統領は、中国をたたくことで大統領選に向けて支持を伸ばす作戦であり、TikTokが絶好の「かも」にされたといえます。
大統領選で中国がTikTokを使って、選挙結果に悪影響を与えかねない
これはTikTokのユーザーが大統領選挙で邪魔になるのではという疑念を、トランプ大統領が持っていることに起因するのです。
2020年6月に、大統領選に向けた遊説を再開したトランプ大統領は、イベントの数日前から、遊説の会場に入り切れないほどの申し込みが殺到していると語っていましたが、当日の会場は空席だらけということがありました。
実は反トランプ大統領のある女性が、彼の遊説を失敗させようとオンラインで呼びかけましたが、それに乗った人々の中にTikTokのユーザーの若者たちも多くいたのです。彼らはTikTokを使ってその情報を拡散させ賛同者を増やし、多くの「空」登録を実行し、トランプ大統領に恥をかかせることに成功しました。こういう若者たちによる妨害の背後で、中国政府が絡む可能性が否めないと、トランプ大統領は考えているようです。
トランプ大統領によるTikTokの排除とは、次の大統領選挙に紐づく行動なのかもしれません。
TikTokには、逃げ道がないのか
アメリカでのTikTokにはアメリカから追い出されるか、国内の事業を米企業に売却するかの2択しかもはや道はなさそうです。
マイクロソフトはTikTokの買収相手にあらず
トランプ大統領が買収締結期限と叩きつけた9月15日の2日前、2020年9月13日米マイクロソフトでは、TikTokの買収相手として選出されなかったことを発表しました。アメリカ複数のメディアが、米オラクルが買収交渉で勝ち残ったと伝えていますが、TikTokのアメリカ事業をオラクルが完全に手中に収めるのではなく、技術面のパートナーになる見込みのようです。
2020年8月中国政府は、TikTokにも採用されている人工知能などの先端技術を対象に、技術の海外移転の規制強化を打ち出したので、TikTokについて何らかの交渉がまとまった場合に、米中双方の当局から承認が得られるのかが焦点になりそうです。
日本は?EUは?
日本の状況はどうでしょうか。最近与党自民党が、国内でのTikTokを含む中国企業提供のアプリ制限を、日本政府に対して2020年9月に提言する方針であることを明らかにしました。今では自治体までもが、若者向けアピールのために利用するTikTokが、日本で使えなくなる可能性が出てきました。
EUでも中国政府や中国製アプリへの対応が、厳しくなる可能性が大きくなってきました。アメリカがファーウェイ排除を依頼した時に、それに従わなかったドイツなどでも、新型コロナ感染拡大を機に、中国のイメージがこれまで以上に悪化しているのです。
EU各国の中国に対するイメージの変化についてのある調査結果からもそれは明らかといえます。中国のイメージがBeforeコロナよりも悪化したと回答した人の割合は、
- デンマークでは62%
- フランス62%
- スウェーデン52%
- ドイツ48%
- スペイン46%
- ポルトガル46%
- ポーランド43%
- イタリア37%
EU各国にとって、中国市場は非常に重要なので、関係悪化は由々しき問題ですが、それでも中国に対するイメージはかなり悪化しているのです。
TikTokで稼ぐ人はどんな人?禁止された場合の影響とは
最後にTikTokが全面的に禁止された場合の影響について考えてみましょう。
TikTokでは動画を見てもらうことだけで、利益が生まれるしくみはないので、TikTokで「稼ぐ」ことができる一般人はほとんどいないと思いますが、フォロワー数の多い有名人ならば、TikTokのCM広告塔になって稼いでいたり、TikTokからフォロワーを自分自身のビジネスに呼び込むような使い方ができると考えられます。
TikTokが禁止になって困るのは、You TuberのTikTok版であるTikToker(ティックトッカ―)、つまりTikTokを使い、お小遣いを稼いでいる人でしょう。
TikTokから生まれた日本のヒット曲:瑛人の「香水」
TikTokerに分類して良いかわかりませんが、シンガーソングライター瑛人の「香水」はTikTokで発表されて注目されました。Stay Homeのコロナ禍で、TikTokのユーザーや、プロシンガーまでもがこの曲のアレンジを自撮りしてTikTokで発表したり、お笑い芸人が曲に合わせたダンスをTikTokで披露したので、瑛人は一気に時の人に。今ではよくテレビ出演もしていますね。
エンタメ業界には大きな痛手
音楽業界では、このコロナ禍でコンサートの収益が見込めないので、有料のネット発信がその代替として期待されています。SNSの中でも、TikTokはYouTubeやInstagramとは異なるチャンネルとして流行発生の機会を担っており、それを後押しする形でTikTokでは最近ライブ配信機能の「TikTok LIVE」を開始したばかり。
TikTokが禁止されると、お笑いなどの芸人やクリエイターなど、音楽以外のエンターテインメントにも影響は及ぶと考えられます。
TikTokは結局何なのか
ByteDanceの創業者は、賢いソフトウェアエンジニアなので、面白いことをしているうちにTikTokの開発に辿り着いたのだと考えられますが、残念ながら始まりが中国で、今も中国にヘッドクォーターがある以上、アメリカ政府が静観することはありませんし、中国当局の影が見え隠れするのは仕方がないこと。TikTokはとどのつまり、米中貿易戦争の被害者といえるのでしょうか。今後の動向に注目しましょう。
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