海外アクセラレーターに、日本のスタートアップが期待できること。
最近「アクセラレーター」という単語を新聞等でよく目にしませんか。特に「海外からの」という枕詞が付いていることが多いことに気がつきます。
海外からのアクセラレーターとは誰のことを指して、日本市場で何をするのかを確認したいと思います。
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目次
アクセラレーターとは
辞書を紐解いてみるとアクセラレーターとは元来イギリス英語のアクセルペタルの別称、ハードウェアアクセラレーションなどで処理速度を向上させる機器装置の総称などの意味がありますが、今回話題にしたいのは3-6ヶ月など期間が決まっているプログラム(アクセラレータープログラム)を設け、それに参加を希望するスタートアップを募り、ビジネスプランのプレゼンテーション選考に合格したスタートアップを支援する企業のことです。
ビジネスモデルの構築、 マーケティング方法の指導、効果的なプレゼンテーションの仕方など、経営ノウハウを伝授しスタートアップのビジネス拡大のために様々な支援を行います。
世界最初のアクセラレーターは2005年に米シリコンバレーで設立されたY Combinatorで、その後2006年の米Techstars、2007年の英Seedcampが続きました。
具体的な支援の内容として、資金、人脈紹介、助言(メンタリング)、オフィススペース(シェアワークスペース)の提供なども挙げられますが、資金は提供しないがワークショップやイベントの開催や法務事務の支援などのサービスのみを提供する場合もあります。
アクセラレーターはオープンイノベーションの一環として、スタートアップに自社のリソースを提供し、スタートアップへ投資し協業することで、自社の新規事業の創出を実現するためのアクセラレータープログラムを行いますので、スタートアップに対して下請けという扱いをしないことが前提です。
アクセラレータープログラムは、大きく2つに区分されます:
- バーティカル (Vertical) :テーマ性のあるもの。例えばヘルスケア分野や、特定の事業会社との協業がテーマであるなど
- ジオグラフィカル (Geographical) :地域性があるもので、例えばカリフォルニアや横浜市など特定の地域の特性の活用など
スタートアップの登竜門
アクセラレータープログラム選考に合格する確率は、トップアクセラレーターのプログラムならば1%前後であり、宝くじに当たるのと同じくらい狭き門です。つまり知名度のあるアクセラレータープログラムの選考に通過するだけでも、スタートアップにとっては一つの実績になり得ます。
アクセラレータープログラムに参加したスタートアップは、プログラム期間の最後にアクセラレーターやVCや他の投資家の前で最終プレゼンテーション(Demo day) を行い自社の売り込みをし、新たな出資を得ることで独り立ちしていくのです。もちろんこの時点でスタートアップそれぞれのビジネスがさらに発展することが、アクセラレーターからは期待されています。
アクセラレータープログラムを経て世に出てきたスタートアップは多くありますが、米Dropbox や米Airbnbなどが代表的です。
コーポレートアクセラレーター
大手企業とスタートアップの共同事業開発をアクセラレーターが積極的にコーディネートし、プログラムを提供する動きがコーポレートアクセラレーターです。
これは自力で新規事業を立ち上げるのが困難な大企業にとって、救世主ともいえる活動といえます。Techstarが手がける米Walt Disneyのディズニーアクセラレーターが世界的に有名な事例です。
コーポレートアクセラレーターが出資以外のリターンとして期待できるのは次の通りになります:
- 最新情報の入手
- 自社事業へポートフォリオとなる製品やサービスの追加
- 新規の協業やパートナーシップ
- 自社社員の起業マインド育成を支援
インキュベーターとの違い
インキュベーターとはスタートアップや創業まもない会社を対象した資金援助や、オフィススペースの提供、事務・経理の経営指導など多岐に渡ってサポートをする企業のことです。アクセラレーターと違う点は援助期間は設けず、より良いサービスを創生する為に環境を整えることを重視していること。
インキュベーターは良いスタートアップを自分たちで育て、彼らの成功への手助けをします。生まれたばかりのイノベーションを重視している為、政府機関や大企業などがインキュベーターとして積極的に出資や支援を行っているケースもあります。
アクセラレーター、インキュベーターは違いますが、どちらもスタートアップが失敗しないように積極的に彼らを支援することで、新規事業に対する成功の確率を上げようという取り組みであることはまちがいありません。
以前から海外アクセラレーターが日本上陸していたが
2017年は海外アクセラレーターが日本へ上陸を開始した年です。2017年11月にシリコンバレーに本社を置く世界最大級のアクセラレーターでベンチャーキャピタルのPlug and Playがジャパンオフィスを開設しました。
Plug and Playが日本進出に関しての目標は次の4つでした:
- スタートアップの日本でのエコシステムを底上げ
- 日本のスタートアップにグローバルなチャンスを提供
- 海外企業に対する日本のスタートアップへの認知度の向上
- 海外スタートアップの日本進出を推進
そのほかにもインドのNo.1 アクセラレーターのGSFも同年日本に進出しました。しかしながらプログラムの認知度が低い、スタートアップが求めているニーズにアクセラレータープログラムが対応できていないなどの理由から、日本でアクセラレーターが認知されるにはしばらく時間が必要でした。
無論日本市場固有の課題も多く、Techstarでは日本の元起業家を雇い、メンターとしてスタートアップに提供することで、適切なニーズへの対応を図るといった、日本のためだけの対応も行いました。
AIスタートアップの急激な増加でようやく実績が?
2019年に入り海外アクセラレーターが、新たに日本への進出を始めたのです。その一社である米SOSVインベストメンツが日本でのものづくり分野での支援の開始を発表しました。
中国深圳に約400の試作拠点を持ち、ポテンシャルのある中国の新興企業の成長を支援した実績がある同社の参入により、新規事業の可能性が多くありながら、起業家の少ない日本経済を後押しすることが期待されます。
同社はハードウエア分野を対象とする、米中などで年200社近くを支援する支援プログラムのHAXを運営。支援したスタートアップがユニコーン予備軍に育つこともあり、STEM(ステム)教育用のロボットメーカーの、中国makeblockはその一例です。
日本では住友商事、SCSKと共同でHAXを運営し、7月から支援を受けたい事業者を募る計画です。住商が4月に本社地下に設けた630平方メートルのオフィスで、3ヶ月間技術や事業のアイデア磨きに助言し市場調査にも協力、またSCSKはデジタル化においての協力が決まっています。SOSVインベストメンツ側と日本の2社から計10人ほどでの専属サポート体制を構築し、スタートアップがプログラムに参加するための費用は無料。日本で年10件程度案件を継続的に支援する予定とのことです。
一方日本進出のトップバッターであるPlug and Playでは、日立製作所やSOMPOホールディングスなど30社と提携し、現在はフィンテック、IoTなどの分野にフォーカスした支援を行なう運びとなっています。
AI, IoTなどの先端技術の進化により、日本でもそれらに特化したスタートアップが急激に増えていますので、海外アクセラレーターに活躍の場が増えていくことが考えられますし、海外のAI特化型アクセラレーターも、日本市場への早期参入を検討しているようです。
他の国の状況は
実はアクセラレーター先進国でも、万歳するほどの大成功に至っていないことが明らかになっています。アメリカの大企業100社にアンケートをとったところ、多くの企業ではスタートアップとの協業プログラムの商業化に苦労しており、うち83社で商業化できたものは25%以下だという結果でした。
スタートアップとの全ての案件が成功するわけではありませんが、成功率を高めるためにもまずはスタートアップへの出資を大企業が増やす必要があります。また20%の企業がスタートアップとの案件を締結するのに半年以上かけているという結果が出ており、これではスタートアップ側にはとうていメリットが少ないので、もっと加速する必要があるようです。
欧米でもまだ課題があるアクセラレータープログラムですので、日本で同等な成功を収めるためには、海外国産問わずアクセラレーター各社が、日本政府も巻き込んだ活動をも視野に入れた活動が必要といえます。
今後
海外アクセラレーターの日本進出により、新たなイノベーション誕生を大いに後押しすることが考えられますが、その支援を受けようとするスタートアップには心する点があります。日本国内の伸長で満足することなく、グローバルの視野を持つことが必要になるということです。
海外アクセラレーターからは、投資したいスタートアップがなかなか見つからない不満が漏れています。Plug and Playは中国で年100社超に出資する一方で、日本での投資実績がないという由々しき状況。
世界約2千社への出資実績を持つY Combinatorですが、日本人が起業した企業という観点では、アメリカを拠点に福利厚生代行サービスを手掛けるFONDなど2社にとどまります。
日本のスタートアップが国内志向のままアクセラレータープログラムに参加すれば、海外アクセラレーターの強みである世界とのつながりを生かすことができません。同時にアクセラレーターにとっては日本のスタートアップの意識変革を促すことが必要になるでしょう。
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