「日本製スーパーアプリ」が生まれる日|Yahoo!,PayPay,LINE,auの挑戦

「日本製スーパーアプリ」が生まれる日|Yahoo!,PayPay,LINE,auの挑戦

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WeChat、Alipay, Go-jek、Grabなど、代表的なスーパーアプリはすべて日本以外のアジア発。日本のキャリアも負けじと、「スーパーアプリを目指す」という方針を表明しています。

とはいえ、すでにビッグプレーヤーが複数存在するスーパーアプリ。日本のスーパーアプリにホワイトスペースが残されているのか、考えてみたいと思います。

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スーパーアプリとは

まずスーパーアプリの定義の確認から始めましょう。一言で言えば、様々なビジネスの起点となるアプリです。つまりメッセージのやりとり、SNS、決済、送金、タクシー配車、交通機関やホテルの予約、Eコマースなど、スマホで一般的に行われるサービスなど、関連性のないように見えるサービス群が、一貫したユーザー体験のもとでプラットフォーム化していることが特徴。

スーパーアプリが求められる理由

スマートフォンを便利に使うためには、専用アプリを使うのが便利ですが、それぞれのダウンロードが必要です。気がつけばスマホの表面に表示されるアイコンは、次々にダウンロードしたアプリばかりになっているもの。果たしてその中で日常的に使っているのが、いくつあるでしょうか。Facebook, LINEなどのSNSや、ゲーム、ニュースなどは使う頻度は高そうですが、実はほとんどのアプリがダウンロードされただけで、利用されてないのです。

視聴行動分析サービスを提供するニールセン デジタルが2019年12月にスマートフォン視聴率情報の、ニールセンモバイルネットビューのデータを元に実施した調査によると、18歳以上のユーザーの場合、月に1回以上利用するアプリの数は34.6個で、2018年から約4個増加しました。しかしほぼ毎日一度は利用されるアプリの数は8.8個という結果に。2018年と比べても0.8個増えたにすぎず。

コロナ禍において、3~4月の1人あたりの月間平均利用時間は、1~2月平均と比べて約1時間増加し、年代別に見ると18~34歳の利用時間の増加が目立っており、月に2時間40分以上も増加していることが明らかになりました。しかし視聴時間が増えても、使うアプリは決まったもの数個である現状は変わらず。

ダウンロードしたアプリを積極的に使わない理由は、立ち上げるのが面倒だからなのです。IDとパスワードを入力するだけではなくて、最近は2段階承認も増えています。もちろんセキュリティーの観点からは重要でしょうが、面倒だから使わないユーザーが増えるのは仕方ないのかも。

スーパーアプリならば、何かをする度に複数のアプリを立ち上げる手間が不要となり、ユーザーにとっての利便性は極めて高いといえまする。

アジアから生まれた理由

本来であればアメリカなどで、スーパーアプリが先に誕生したのではと考えますが、先進国ではPCからモバイルへと徐々に一般ユーザーにとってのデファクトデバイスが移行し、その途中でSNSや配送アプリなどの新しいサービスが生まれ、徐々に認知を高めながら、ユーザーを獲得したため、独立したサービスが乱立する状態@になったので、遅れてしまいました。

一方中国や東南アジアでは、大きな資金を調達した企業が、欧米などで、すでにビジネスモデルが確立されたサービスを、徹底的にコピー。特に中国では、Goolge, Facebookなどアメリカ企業が開発したアプリの使用が規制されているために、アメリカ企業に入り込む隙を与えず、中国のWeChatやAlipayがメッセージングアプリや配車サービスなどの独自サービスの仕組みを、Go-Liveできてしまったのです。その人気で獲得した顧客基盤を活用するべく、プラットフォーム化を推進したことが、スーパーアプリへの進化の速度を早めたといえるでしょう。

また中国や東南アジアのユーザーにとって、インターネットをつなぐためのデバイスは高価なPCではなく、始めからスマホに代表されるモバイル機器だったのも、スーパーアプリが広まる原動力となりました。モバイルファーストの文化では、アプリを一度開けば何でもできる方が便利に違いなかったので、スーパーアプリがブレークするのに時間がかかりませんでした。

Paypay/ソフトバンク+LINEの野望はいかに?

Yahoo! Japanを運営するヤフー(実際の契約では、ヤフーの親会社のZホールディングス)と、LINEを運営するLINEの経営統合が、2019年11月18日に正式に発表されました。この経営統合に関しては、様々な報道がなされていますが、その中で主軸となる戦略として多く語られるのが、まだ日本では浸透仕切れていない、スーパーアプリを目指すことです。

スマホアプリで乗り遅れたYahoo!Japan

日本でも、Googleが登場する前の検索エンジン・ポータルサイトと言えば、Yahoo!でした。その後Googleに押され衰退した米Yahoo!から独立したYahoo!Japanは、生き残りをかけ独自路線を模索。その甲斐あって一つのIDで多くのサービスが利用できるYahoo!Japanの存在感は、Webサービス市場で今もなお大きいですが、スマホアプリでは遅れをとったのは否めません。

そこでスーパーアプリに向けた新たな取り組みとしてPayPayに注力することになりました。PayPayはヤフーとその親会社のソフトバンクも巻き込む形で、破格とも言える大型還元キャンペンや、積極的なプロモーションによって、顧客基盤強化を積極的に進め、会員を獲得したのです。そしてPayPayの顧客基盤が出来上がったとみなされる直後から、PayPayのアプリを軸とした、スーパーアプリ化戦略を明確に打ち出すようになっていました。

ヤフーの月間ユーザー数は、モバイル端末で6,270万人、PCで2,140万人。現在のヤフーでは、各サービスごとにアプリを提供していますが、LINEレベルのメジャーなアプリを持っているわけではなく、何を主導でスーパーアプリ化をすれば良いのか、決めかねていたのも事実のはずです。自力で開発していたらいつになるかわからない。そこで「拡大か死か」を体現し続ける、ソフトバンク流経営が、ヤフーでも実践され、ヤフーとLINEの経営統合にコマが進められたということ。

スーパーアプリ化の取り組みは、LINEが先行していたけど

自力でスーパーアプリ化を進めようとしていたのが、国内スマホアプリの覇者LINE。LINEはメッセンジャーアプリとして国内外で多くのユーザー獲得に成功し、2012年にプラットフォーム化を宣言しました。当初はLINE NEWSやLINE MALLなどの、LINEを軸としたLINE関連アプリのダウンロードにユーザーを誘導するというのが、LINEのプラットフォーム戦略の軸となっていました。しかし結果的には「日本一人気あるメッセージアプリ」から脱却できなかったのです。

スマホにアプリをダウンロードするには、時間と手間が発生しますが、その手間をユーザーが嫌う傾向がみられるようになりました。そこでLINEのアプリから移動しなくても、様々なサービスが利用できるよう、戦略を転換。つまり公式アカウントを軸としたサービス提供に注力するようになり、LINE MusicやLINE Payも鳴り物入りで登場したのです。

その戦略転換の象徴となるのが、2015年にLINEのアカウントを通じたニュース配信機能を、外部の企業にも開放するLINEアカウントメディア プラットフォームを提供したこと。2017年からLINEデリマ、LINEショッピングなど生活系サービスを中心としたもの、2018年からは公式アカウントによるサービス提供を次々に打ち出したのです。

しかし残念ながら、LINE Music、LINE Payなどのサービスには、差別化要素が見受けられず、LINEショッピングを含めた、戦略的事業の売り上げは、全体の1割強という、収益面で大きな成果に結び付けられていなかったことから、結果的にヤフーを傘下に収めるZホールディングスの経営統合に至ったといえるでしょう。

スーパーアプリの理想実現なるか?

今後は、共にスーパーアプリ化を目指していたPayPayとLINEの整合性を、どのように取っていくかに注目が集まりそうです。同じサービスで重複しているものを統合していくことになるでしょうが、LINEのアプリを生かして行くことが、統合のメリットを最大化できると考えられます。統合の記者会見で、ヤフー/ZHDサービスが示した、「ヤフー/ZHDサービスのスーパーアプリ化に必要なピースこそLINE」という発言は、まさにそれを示していますね。

日本でスーパーアプリを目指すのは、ZHDサービスだけにあらず

日本でスーパーアプリを目指すのは、ZHDサービスだけにあらず

日本でスーパーアプリ化を目指しているのは、ZHDサービスだけではありません。ソフトバンク以外の、大手通信キャリアグループでもスーパーアプリ化に注力する可能性が大なのです。NTTドコモのd払いしかり、KDDIもau PAYアプリに、金融・決済系のサービス集約を進めているので、今後スーパーアプリ化を推し進める可能性が考えられます。

au PAY

J.D.Powerが2020年3月に発表した、「2020年前期QRコード・バーコード決済サービス顧客満足度調査」で満足度2位だったのが、KDDIのau PAY。後発のように思えるが、実は会員数は前身のau WALLETから数えすでに2,200万人を突破しているのです。KDDI では比較的早くから金融サービスに取り組み、提供する商品ラインアップが豊富で、グループ企業も多い。

KDDIでは2020年2月の発表で、金融サービスに強いスーパーアプリを目指すと宣言しました。KDDI, auブランドの強みは、ロイヤリティが高い顧客を多く保有し、金融サービスの(認可、登録済みの)フルラインアップがあること。またau PAYでは国際ブランドのプリペイドカードの発行もしています。

KDDIでは今後オープンイノベーションを積極的に進め、スタートアップへの出資や、他社との協業にも注力する予定とのことなので、今後の動向に注目ですね。

日本のスーパーアプリの今後

既に豊富なインターネットサービスを持つ楽天や、メルペイの躍進で、サービスの幅を広げつつあるメルカリなど、国内インターネット大手企業も、今後スーパーアプリ化を推し進める可能性がありますので、今後、国内でのスーパーアプリを巡る競争が、急速に激しくなりそうな気配です。

しかしながらスーパーアプリのトレンドを見ると、ユーザーの利便性追求のために、特定の国の環境に特化する傾向が強く、成功したスーパーアプリをそのまま他の国へ進出するのは難しい傾向にあるようにも見えますので、日本のためのスーパーアプリは国内での競争があっても、存続できるといえるでしょう。

余談:ソフトバンクの挑戦

国境を越えて世界的に成功できるスーパーアプリを生み出せる企業はどこか、というのも今後注目されるポイントかもしれません。

ソフトバンクでは、国際的なスーパーアプリの実現を目指して、2020年6月に各国のライドシェアリング、タクシー、レンタル自転車などの交通サービスを、Grab, Alipayなどスーパーアプリの事業者へ接続するサービスを展開する、英国のスタートアップ、Splytに出資し、主要株主となりました。

今回のSplytとの協業により、ソフトバンクではグループ企業やパートナー企業のアプリなどを相互に接続することで、スーパーアプリを実現し、サービス間のシナジーを最大化することを目論んでいます。世界を股にかけた大規模なスーパーアプリが、ソフトバンクの支援で確立しそうですね。

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