コロナがもたらした銀行業界の変化/メガバンクの苦悩

コロナがもたらした銀行業界の変化/メガバンクの苦悩

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日本初のインターネット専業銀行として、ジャパンネット銀行がスタートしてから早21年目。スタート当初は店舗を持たない銀行が日本市場に浸透するのは難しいと言われていましたが、既存の銀行よりもATM手数料や振込手数料、預金金利などがお得な場合が多いことから若者中心に浸透し、今ではB2Bでの使用も増え、主要なインターネット銀行の数は11行に達しています。

各業界でDX化が進む中、これら11行の2020年10月での預金残高は、合計で26兆円強、5年前の2015年同時期と比べると2倍ほどに膨らみました。その影響を大いに受けているのが、既存の都市銀行や地方銀行。

コロナ禍の外出自粛により銀行の実店舗を訪問する顧客は激減、対面商売が困難となった今、特にメガバンクではネット事業を強化して、インターネット銀行に挑み始めました。コロナ禍で新たな改革を成し遂げたものが、アフターコロナでの勝ち組。銀行業界は今どんな風が拭いているのでしょうか。

コロナ禍でキャッシュレス加速

コロナ禍でキャッシュレス加速

全国の銀行預金は約800兆円。その中でインターネット銀行が占める割合はまだ小規模ですが、その成長率は突出しています。インターネット銀行最大手の一行である住信SBIネット銀行の預金残高は5.7兆円、すでに中堅クラスの地方銀行レベルの規模に達しています。

さらにコロナ禍のこの一年で世の中全体がネットに移行し、銀行業界ではオンライン、キャッシュレスが得意技のインターネット銀行が前のめりになるのは当然で、インターネット銀行各行とも「ビッグチャンス到来」を実感しているのです。

楽天銀行はグループ力で勝負

この5年間で預金残高が2.9倍の4.4兆円にまで成長した楽天銀行は、親会社の楽天や楽天クレジット、楽天証券、楽天保険など70以上の楽天グループ企業で、相互利用によるポイント還元を手厚くすることで、新規顧客を獲得しています。使いやすい楽天ポイントを多く取得すれば、メンバーシップがワンランク上になり、さらにポイントがもらえる仕組みにより、ポイントゲットのため、他サービスから楽天グループのサービスに鞍替えしたユーザーが、最終位的に利用料金を楽天銀行で決済するようになるのです。

楽天銀行の口座開設数は1日平均5000~6000。新規の6割超が楽天の他サービス経由による獲得であり、特にコロナ禍で親会社楽天のネットショッピングが好成績あげていることも大いに後押ししており、2021年1月にはインターネット銀行で最大の1000万口座を達成しました。

ジャパネット銀行では事業者向け支援策で、事業者をサポート

ソフトバンクグループのZホールディングスグループとなった、ジャパネット銀行では、2020年の緊急事態宣言発令直後に、新型コロナウイルス対応の持続化給付金が未給付の事業者や、給付対象外の事業者など、法人・個人事業主を対象に事業者向けローンを同年8月まで実施しました。

このローンは来店不要で担保・保証人・事務手続きが不要で、インターネットから24時間いつでも審査申込ができ、契約後の月々の返済は1万円から。利用限度額の範囲内なら、何度でもお借り入れが可能なローンだったので、起業してまもない個人事業主でもローンが組める内容でした。それまでほとんどのユーザーは個人客でしたが、これを転機としてビジネスユーザーが増えたと考えられます。

メガバンクの苦悩

メガバンクに法人口座が持てたら、事業主として一人前と長く考えられてきました。メガバンクのイメージといえばは、安定、安心でしたが今はどうでしょう。メガバンクを筆頭とした都市銀行に変革が求められているのです。

メガバンク三行を傘下に持つ大手金融グループ3社全てで、2020年4月から9月までの中間決算で最終的な利益が減少しました。これはコロナ禍で経営が悪化した融資先企業の貸し倒れに備えた費用が増加したからと考えられます。

利ざやで利益を得ることが銀行の収益モデルでしたが、コロナ禍以前から、それが崩壊しつつありました。日銀のマイナス金利政策などで長引く超低金利で、利ざやが縮小したことに起因します。しかもこのコロナ禍で貸出金利はしばらく上がる見込みゼロ、個人向け業務の中枢であった住宅ローンも儲からないのです。

「人様からお金を預かって、人様に貸す」という個人および企業の資金繰りを支えることが銀行の使命、それは今も変わりません。しかしながら銀行は預貸金業務中心の収益モデルから早急に脱却することが必要で、さらに新たなビジネスモデルの開発・実装が急務といえるでしょう。

コロナ禍では対面での営業活動に自粛が求められました。その解決策としてデジタル化が急速に進み、銀行の店舗営業のあり方も変えざるを得なくなったのです。

メガバンクで進む改革

2020年の緊急事態宣言が解除になる頃、メガバンクは一斉に新規サービスを始めました。

みずほ銀行

みずほ銀行では、川崎市の武蔵小杉近くに窓口カウンターがない店舗をオープン、店内顧客スペースの一角にあるスタンディング式のテーブルにあるのは、14台のタブレット端末です。銀行口座の開設や、税金の支払い、ATMの限度額を超える入手金など、顧客自らがタブレット端末を使って1人で行えるようになりました。窓口カウンターを廃止することで、行員の事務作業削減で業務のスピードアップができるのです。加えて別のメリットもありました。来店顧客の待ち時間が従来の半分程になったので、お店の混雑緩和に繋がり、3密を避けられコロナ対策にも効果が。

そして行員の余ったリソースは、資産運用などのコンサルティング業務に振り分けるという。今後みずほ銀行では、すべての店舗にタブレット端末を設置する計画です。

三井住友銀行

三井住友銀行は、全体の7割以上に相当する国内300店舗の窓口で、2022年度までに行員による現金の受け渡しを取りやめる方針を打ち出しました。店舗には900枚の紙幣を一度で扱え、税金の支払いにも対応する高機能ATMを導入されるので、原則的に行員は現金を扱わなくなります。

ただし来店顧客がキャッシュカードを持ち合わせていない場合や、取扱額がATM限度額を超えるときは、窓口の行員がQRコードを発行し、顧客が自分でコードをATMに読み込ませて入出金する例外措置も準備。この新店舗の面積は通常の半分ほどで済み、配置する人員も少人数のため、コスト削減が可能となり、業務の効率化も図れるというものです。三井住友銀行も効率化で余ったリソースを、みずほ銀行同様に顧客のコンサルティング業務に投入する考えです。

三菱UFJ銀行

三菱UFJ銀行では、2020年12月から来店の事前予約を、出張所も含む国内全店舗でホームページで受付けることで(スマホやPCがない顧客は電話で受け付ける)3密を回避し、顧客の安全を確保します。これまで店舗での待ち時間は平均で10~20分程度で、1時間以上になることもありました。2020年の緊急事態宣言で外出自粛が広がったのに、銀行へ来店する顧客が急増したこともあったので、その経験を踏まえての決定と考えられます。

並行して非対面型サービスであるインターネットバンキングのサービスを拡充し、デジタライゼーションを急速に進めることを発表しています。

だが安全面はどうか

業務のデジタル化と店舗改革に邁進するみずほ銀行ですが、2021年2月28日にATMにシステム障害が発生し、全国各地のATMで顧客の通帳やキャッシュカードがATMに吸い込まれるという事故が起こり、利用できなくなりました。みずほ銀行にとってシステム管理は目の上のタンコブです。

2002年と2011年にも大規模なシステム障害を起こしており、4,000億円以上かけ勘定系システムをアップグレードしたのに、三度目が起きてしまいました。

2019年は楽天銀行のシステムがゴールデンウィーク明けにダウンし、サイトにログインができなくなったのも、記憶にありますね。

デジタル化とは、突然の障害と背中合わせです。非対面への急激なシフトでこのことが忘れられては、元も子もありません。特にメガバンクの場合、システムに複数SIerが関わっていることが多いので、障害が起こった時はどうしても対応が遅くなってしまうのです。インターネット銀行と互角に戦うためには、このあたりも改革する必要があると考えられます。

IT企業との提携を進めるわけ

今メガバンクは、IT企業との提携を積極的に行っています。2020年6月にみずほフィナンシャルグループとソフトバンクが、スマホートを活用した次世代型の金融サービスで包括提携。このサービスでは、スマホ上で株式売買や投資信託の購入ができるほか、AIによる「信用スコア」をベースとする個人向け融資も始めています。

スマホを活用するサービスで、三井住友フィナンシャルグループと、インターネット金融大手のSBIホールディングスも包括提携しましたし、三菱UFJフィナンシャル・グループはKDDIと連携中です。

スマホ活用サービスを進めることで、20~30代の若い顧客の取り込みを狙っていると考えられます。

地方銀行は大ピンチ

地方銀行は大ピンチ

東京証券取引所などに上場する地方銀行78行の2020年4~12月決算で、最終的な損益がその半数の40の銀行で赤字となりました。純損益の合計は。前年同期比18.4%減の6,033億円。人口減少や超低金利もさることながら、新型コロナウィルスの影響で融資先の経営が大打撃を受け、貸し倒れに備えた与信費用が膨らんだことが原因といえます。

日本政府では、コロナの影響で存続の危機にある企業への支援策として、政府系金融機関や地方銀行経由で実質無利子・無担保融資を実施しているため、企業倒産は平年より抑えられているものの、今後の増加が心配です。

この日本政府の施策によって、地方銀行の間で競争がますます活発になる可能性があります。このコロナ禍で地方金融は正念場を迎えています。再編すれば済む話でもなさそうです。資金繰り支援にとどまらず、M&Aや、企業同士を「お見合い」させ提携させるなどの、コンサルティング業務にも注力する必要があるでしょう。

アフターコロナの銀行業界はいかに

アフターコロナが訪れても、銀行業界に求められることは変わりません。コミュニケーションの方法が対面からオンラインに変わっても変わることはないのです。離れて繋がることが今後ニューノーマルとなるので、デジタルを最大限活用した営業モデルが、極めて重要となるでしょう。

インターネット銀行にとってはもともと得意分野ですが、都市銀行や地方銀行は彼らのレベルに追いつかなければならないでしょう。オンラインビジネスに必要不可欠な、セキュアなシステムの確保も前提です。しかし一旦メガバンクに追いつかれたら、規模からして違うインターネット銀行は苦境にたたされること間違いありません。

今は好調なインターネット銀行も次の一手を考えるべき。それはメガバンクや海外バンクとの提携かもしれないし、異業種とのタッグかもしれません。今後も注目していきたいですね。

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