カスタマーエクスペリエンスなき企業が滅びるのは当然だと思う。
現代はインターネット経由で簡単に新規契約、契約終了、あるいは新規登録、登録解除が簡単にできてしまうので、企業では
- 顧客が気がつかないうちに競合サービスに流れている
- 解約をどう止めればよいのかわからない
といった悩みがつきません。
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サービスの品質向上を継続的に行なっているつもりなのに、毎月の解約率に悩まされるというときには、現状を正しく把握するする必要がありそうです。
最近日本でもカスタマーエクスペリエンス (CX) に取り組む企業が出てきました。果たしてCXが企業の救世主となり得るのでしょうか。
目次
カスタマーエクスペリエンスとは何か
このところ「CX=Customer Experience」という用語を聞くようになったけれど、意味が今一歩わかっていないことはありませんか。ずばりCXを直訳すると「顧客体験」です。
商品やサービス自体の金銭的あるいは物質的な価値ではなく、それを使用して得られる満足感や効果といった、心理的または感覚的な付加価値を指します。
つまり顧客には商品を購入するだけではなく、新しい商品に出会い、どうやって買ったのか、お得感を感じたか、損をした気がしたなど様々な経験も価値なのです。
CXが注目されるようになった背景としては、市場の成熟化に伴い、顧客が喜ぶ体験を提供しないことには、企業目線で開発された商品やサービス単体にどんなに高い価値があっても、顧客に選ばれなくなってきたことや、インターネットメディアの普及により、顧客の感動体験が口コミを通じて即座に拡散されるようになったことがあげられます。
また継続的な成長のためにはロイヤルティを向上させ、顧客と良好な関係を迅速に築くのが一番合理的であることに、多くの企業が気づき始めているのも明らかです。
カスタマーエクスペリエンスで期待できる効果
CXを行うことで企業は何が得られるのか、期待できる効果を上げてみましょう。
- 優良顧客やリピーターの獲得
- 口コミによる宣伝効果
- 顧客の継続率向上
- 競合他社との差別化
- 企業、商品、サービスのブランディング
インターネットの普及により、CXの結果はほとんどタイムラグなく確認できます。効果があればよいですが、何の効果も見えない場合には、こちらもスピード重視で即座に方針転換すべきです。
多くの企業では顧客の囲い込みのために、以前から何らかの取り組みを行なっていたはずですが、従来型の施策ではもはやスピード感でCXに太刀打ちができません。
カスタマーサクセス、顧客満足度との違い
「お客様は神様です」に代表されるように、日本企業には顧客視点を大事にする姿勢が元々備わっています。
代表的な取り組みとしての顧客満足度調査 (Customer Satisfaction =CS)は、多くの企業で採用され、KPI (Key Performance Indicator=重要業績評価指標) の1つとしてCSの結果は経営に生かされてきました。そしてCXがCS向上のための有効な手法であるとも言われます。
しかしながらCS向上はあくまで顧客対応の標語あるいはモットーのようなものですから、収益性との相関関係や企業経営全体におけるその位置づけはなおも曖昧で、景気の悪化、競争環境の変化と共に、CSが単なる年中行事的な位置付けになってしまっている企業もあります。
CSの次に登場したカスタマーサクセス (Custmer Success) とは、主にサブスクリプション型ビジネスを生業とする企業で取り組まれ、顧客を成功に導くことでLTV (Life Time Value=顧客生涯価値)の最大化を目的とする組織や一連の活動のことです。
具体的なKPIとしては解約率を下げ、既存顧客の単価を向上させるセールス手法のアップセルや、購入を検討している顧客に別商品をセットもしくは個別に購入してもらうためのセールス手法のクロスセル、あるいはユーザーのアクティブ率等を向上させることで、CXと顧客との接点や対象期間が似ています。
カスタマーサクセスは製品の利用中(契約開始後から解約まで)の顧客の成功体験を引き出す手引きを行いますが、CXはたった一度の接触であっても顧客にすばらしい体験を提供し、熱烈なファンになってもらうことを目指す点が、カスタマーサクセスと違うのです。
日本で普及しているのか
欧米企業に比べ、CXの取り組みで日本が遅れていることは明白です。ガートナージャパン株式会社は「ガートナーCIOサーベイ2019」の調査結果から、日本国内でのCXの取り組み状況について次のように報告しています。
CXを改善するために日本企業が取り組んでいる施策の件数は2.2件で、グローバルの先進企業の4.3件 より少ない上に、グローバルの平均的企業の3.3件と比べても少ない結果でした。
つまりCXを始めている企業が日本ではマイノリティであり、その先を行くグローバル企業とは明らかな差があるということを言及しています。
加えてCXを改善する主だった施策の中から重点ポイントを尋ねたところ、日本のCIO (Chief Information Officer=最高情報責任者)が回答した項目の選択率は、グローバルの先進企業のCIOと比べていずれも非常に低いものでした。つまり責任者であってもCXの進め方が曖昧であるということの表れです。
日本企業のペイン
日本企業ではCIOを置くところがまだ少ない上に、CIOが役員でないことも多いのです。よって日本のCIOがグローバルの先進企業のCIOと比べてCXに対する取り組みが遅れているのには、CXを推進する権限を持った役員クラスのCIOが少ないということも関係があります。
ガートナーが日本企業にCXの責任者について尋ねたところ、「CXの取り組みを主体的に進めている役員やリーダーはいないあるいは不明」と回答した割合が、64.3%であったことからもそれは明らかです。当然のことながら権限がないところでリスクを負えないというのが人間の心理でしょう。
責任の所在の曖昧さを理由に、CXの取り組みが遅れている企業を尻目に、スタートアップを中心にCXに積極的に取り組む企業が成果を上げて始めています。CXを実行しないと年間の売上げの約20%が失われるとさえ言われていますので、日本の大企業も重い腰を上げなければならない時が今なのです。
カスタマーエクスペリエンスを成功させるには
CXを正しく実践することが、顧客と企業の関係を良好なものにします。 成功させるために重要なのは次の3つです。
- 全社一丸となって自社のCXを定義し、取り組むこと
- 最先端のIT技術でCXを継続して改善すること
- 真実の瞬間(Moments of Truth) に適切なCXを行うこと
「真実の瞬間」とは、わずか一年でスカンジナビア航空を黒字転換させたヤン・カールソンの著書で紹介されたもので、顧客が企業の価値判断をする瞬間のことを意味します。
顧客がその企業の提供する製品やサービスに接するあらゆる瞬間が「真実の瞬間」であり、その数は無限です。企業が「真実の瞬間」で的外れな対応を行うと、顧客がその企業とは2度と関わらないと心に決めてしまいます。そしてこのようなネガティブな情報は恐ろしいほど速いスピードで拡散されてしまうのです。
「真実の瞬間」のどれに優先順位をつけてCXを行うかの判断が難しいのですが、その見極めのためには自社の顧客対応の現状を確認して、過去のCXの成功例と失敗例を精査した上で次のCXを定義することが成功への道でしょう。
日本の事例
CX対応が相対的に遅れている日本ですが、成果を上げている企業もあります。その中の一つである、花キューピットを紹介しましょう。
全国どこからでも花が贈れる花キューピットでは、母の日など大切なイベントに向け、「お花を今日中に届けます」と事前にウェブサイトで告知し、さらに自社サイトの特定商品ページに「○人が検討しています」と表示することで、顧客の購入意欲を刺激します。
またそれぞれのイベント時期の前にはネットユーザーにアンケートを実施して、どの花を贈りたいかといった、オススメ商品の洗い出しを行うことで、まるで顧客が店内で実際に花を選んでいるかのような体験を再現し、実物を見ることのできないネット注文での顧客に安心を与えています。まさしく「花のことなら花キューピットで」というイメージをCXで作り上げているといえるでしょう。
カスタマーエクスペリエンスの今後
ディーブラーニングやAIなどの技術は引き続き大きく進歩すると考えられ、それがCXを大規模に普及させることになると考えられます。そして企業と顧客のやりとりは現在とはまた違ったものになってくることでしょう。
今後は顧客が購入に至るプロセスであるカスタマージャーニーとCXを連動させることが、さらに重要になります。つまり顧客がどのように商品やブランドと接点を持って認知し、関心を持ち、購買や登録などに至るのかを時系列的に可視化した上で、真実の瞬間を見極めCXを行うということです。
そしてCXをプロダクト、サービス、コンテンツを三位一体で考え、提供価値をデザインしていくことがより重要となるので、以下のような活動や仕組みが必要でしょう。
- 利益を生むターゲットを見極め、顧客ごとに最適な情報を提供するためのマーケティング活動
- オンラインとリアル店舗をシームレスにつなげ、顧客が気に入った商品をいつでもどのような方法でもすぐに手に入れることができる仕組み
- 商品を試してみてから、気に入ったものだけを購入できる仕組み
- 多品種少量生産で顧客ごとのニーズに適した製品を効率的に生産し、すぐに届けられるしくみ
もっともこのようなCX変革には新たな分野の人材や技術までが必要となります。自社だけで変革を行おうとすると時間もコストもかかってしまい、柔軟に対応すること自体が難しくなってしまいますので、他社と連携して、人材や技術を補完し合うことが進むかもしれません。そうすれば柔軟にかつスピーディに変革ができることでしょう。
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