企業もエシカル!ITもエシカル!世界を牽引するエシカル消費とCSRの違いを解説
<以前の記事:エシカル消費が、企業や経済活動も変える。>
以前にエシカル消費の記事を公開しましたが、残念ながら一般的にはエシカルの認知度はまだまだ低いようです。
しかしながら企業にもエシカルを考えた活動が求められてきています。さらにはIT/テクノロジー業界もエシカルにリンクし始めています。もはや消費者一人一人が、エシカルを意識して生活すればよいということではないのか今回は確認したいと思います。
【合わせて読む】
●エシカル消費が、企業や経済活動も変える。
●D2Cが販売を変える〜新たな慣習を創る時
●インバウンドマーケティングで外国人観光客に伝える本当の日本とは?
目次
エシカルの意味をおさらいしよう
英和辞典で調べてみると、エシカル(ethical)とは倫理的、道徳的というのが一般的ですが、現在では元来の意味に加え、地球環境や人、社会、地域に配慮した考え方のことを指します。そして「法では明確に定められていないが、ほとんどの人が、良識的に考えるとこうなる(だろう)」と考える社会的な模範であるといえるようです。
エシカルに類似する英語表現としては、Political correctness (ポリティカル・コレクトネス=社会的・政治的公正)が挙げられますね。
エシカル消費
消費者庁発行の平成30年消費者白書でも、エシカル消費(倫理的消費)の普及、啓発について記載。そこではより良い社会に向けて、地域の活性化や雇用等を含む人や社会、環境に配慮した消費行動がエシカル消費であるとしています。
災害で被害を受けた地域の復興のため、あるいは開発途上国の人々の生活改善をサポートできる仕組みを伴う製品やサービスを進んで選択し、消費しようとする人がゆっくりではありますが着実に増えています。
そういった消費者の意向を出来る限り可能とする環境の整備や、食品ロスの削減、省エネなどの社会的課題に配慮した消費など、日本政府でも国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs)を達成することに加え、エシカル消費の具体的行動を後押ししています。
エコバッグ、マイボトル、マイ箸、マイストローをどこでも持参し、資源を無駄に使わないという身近な活動は、すぐに始められるエシカル消費ですね。企業側では消費者の意識の変化にしっかり対応することが必要なのです。
エシカルとCRS
エシカルとよく似た言葉にCSR (Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任) がありますが、CSRは企業による地域社会への貢献、地球環境への配慮といった社会活動の取り組みを指していますので、エシカルが消費者メインであるのに対し、CSRは企業がメインなのです。ですから伝統的な大企業では、今もCSRを好んで使う傾向がありますが、その一方でスタートアップは、エシカルを使うところが多いようです。
企業が提供するサービスや製品自体が、人、環境、社会を配慮しているか、その判断材料の概念がエシカル、あるいはエシカル消費であると言えそうです。
企業とエシカル
エシカルは消費者の立場でのみ、使われているわけではありません。現在エシカル企業、エシカルビジネス、エシカルな事業、エシカル製品といった用語が登場してきました。企業でもエシカルということを考慮した、企業活動への注力が始まっているのです。
つまり生産コストを下げて、安い製品を大量に売るビジネスモデルだけで戦うのではなく、原料の選別から消費者の保護まで、人・社会・地球環境を考えたエシカルな製品・サービスを提供している企業になることが必要とされているということなのです。
世界で最もエシカルな企業2019
アメリカの企業エシカル推進シンクタンクである、Ethisphere Instituteでは、2007年から毎年3月に「World’s Most Ethical Companies(世界で最もエシカルな企業)」リストを発表しています。これは企業が自主的に応募しなけば選出対象とならないので、エシカル企業としてのアピールのため、企業には積極的な姿勢が求められているといえます。
エシカル企業の選出には、
- 企業倫理・コンプライアンス・プログラム(35%)
- コーポレートシチズンシップと責任(20%)
- 倫理文化(20%)
- ガバナンス(15%)
- リーダーシップ・イノベーション・評判(10%)
という5つで構成される指数から、さらには従業員、投資家、顧客、その他のステークホルダーへの影響を理解しているかどうかで評価されます。
2019年は128社がエシカルな企業として選出され、選出企業の国別数はお膝元のアメリカが97社。フランス、カナダ、スウェーデンが3社、イギリス、アイルランド、インド、ブラジル、日本が2社で、日本では花王とソニーが選ばれています。
IT関連企業では、Intel 、HP、IBM、Microsoft、 Linkedin、Salesforce、仏Schneider Electric、印Wiproといった企業が名前を連ねました。
あれGAFAがいないけど…
前述したリストの中に、GAFA (Google、Amazon、Facebook、Apple) の名前がありませんが、何もエシカル経営に取り組んでないからではありません。彼らにしてみればわざわざシンクタンクの評価を仰がずとも、知名度を生かした独自路線で、エシカル企業としてむしろ積極的に行動していると言えるでしょう。
Apple
Appleで製品を購入すると、梱包がとてもシンプルなことに気がつきますが、実はAppleでは2015年から梱包に必要な紙の製造で森林が失われないように、広範囲の森林を購入し環境保護団体とともにその保護と造成に取り組んでいるのです。
また、クラウド事業などで使用する電力を補うために、オレゴン州で水力発電事業も行い、さらに本社や直営店での電力確保にメガソーラーの建造、部品製造工場の廃水を再利用可能な水にする、クリーンウォータープログラムの推進する活動も行っています。
さらに特筆すべきは、今は亡きジョブズ氏が最後に手がけたプロジェクトでもある本社社屋の建設です。標準的な研究開発用オフィスより30%エネルギー消費が少なく、消費するエネルギーのすべてを再生可能エネルギーで賄い、従業員用駐車場はすべて地下に隠し、敷地の80%近くは7千本以上の樹木が植えてあるオープンスペースというもの。
事業に必要なエネルギーを自前で調達し、自然と共生できる環境を確保していることは、まさに天晴れ!エシカル企業の取り組みといえるでしょう。
Amazon
Amazonでは赤十字社と共同で自社の決済技術を活用し、災害時などのいざというときに、迅速に被災地の支援を行うプログラム、エコな製品を集めたAmazon-Greenや、寄付製品販売のSmile Amazonにより、消費者にエシカルなライフスタイル実現のための支援を行っています。
Googleが昨年10月に検索のアルゴリズムを変更したという報道がありました。これはまとめサイトのようなSEO目的のサイトが大量に作られた結果、質の悪い情報の氾濫してしまったことへの対策と考えられます。
変更後は他のサイトのコピーではないもの、人間が書いたもの、そして言語として意味が通っているものを、AIが正しく判断するようになり、大量のゴミ情報を阻止できるようになったのです。これも企業としての倫理観の基づくもので、エシカルな取り組みの一つといえますね。
エシカルスマホ、買う買わない?
2013年創業のオランダFairphone社では、部品の材料である鉱物調達から設計、組み立て、ライフスタイルまでエシカルであることが原則である、Fairphone(人道的スマートフォン)という名称のスマートフォンを製造しています。
スマホに使われるタンタルという鉱物は、アフリカの紛争地域であるコンゴ民主共和国で多く生産され、その売上が武装勢力の資金源になっているのですが、Fairphone社はエシカル製品メーカーであるという観点から、紛争地域の鉱物は使用していません。リサイクル部品を活用し、製品は修理しやすく長く使える設計になっているのです。
エシカルマインドを旨とするために、iPhoneやGalaxyのような頻繁な技術アップデートもなく、デザインも時代遅れなのに、価格はコンペ製品より高く日本円で7万円ほど。いくらエシカルを意識している消費者でも、とても買う気になる代物ではなかったのです。
ところが2019年11月に投入された、価格が450ユーロ(約5万3,000円)のFairphone 3が突破口になりつつあります。依然として他社製品より2万円ほど高価で、デザインは今一歩、最先端の機能も搭載されていませんが、二年保証付きで購入後14日間は返品可能、Fairphone3購入と同時にそれまでのスマホをリサイクルに出せば40ユーロの返金と、エシカル志向の消費者には歓迎されているのです。
Fairphone3の組み立ては、現地従業員を500名ほど有する、台湾アリマグループの中国工場で行なわれているのですが、Fairphone 社では、最低限の生活を維持できる収入を得られるよう、自社の労働者福祉基金から、中国の現地従業員にも手当てを支給しています。同社ではこの基金以外にも、アリマグループに対する業務委託料を引き上げることで、労働環境や従業員満足度の底上げに取り組んでいるのです。すごいことだと思いませんか。
Fairphone 3の耐久年数は5年と見積もられていますので、その期間に2-3回はユーザーがバッテリーを交換することを想定。Fairphone3を買って5年間使い続ければ、一般的なサイクルでスマホを買い替えた場合に比べ、CO2の排出量を30パーセント削減できると表明していますので、それもエシカル製品の所以。
果たして同社の目論見通りFairphone3のユーザーが増えるか、動向に注目したいですね。
AIにもエシカルが?
世界中で日常的にAIが使われるようになれば、大量のデータ処理のためには、より膨大な電力が必要になるのは、紛れもない事実。
今から省電化のための施策を行う企業も少なくないのですが、爆発的に起こるAI需要に対し、既存の方法での電力確保で耐えられるのかどうか。
今後その課題を解決すべきサスティナブルなAIや、エシカルに生み出されるAIという概念が出てくるのかもしれません。
地球環境の犠牲の上に成り立っている製品が、今の消費者に受け入れられがたくなっています。フェアトレード製品を置くスーパーマーケット、オーガニックコットンや天然の麻を使用した衣類を置くエシカルファッションのショップ、自然化粧品専門のエシカルコスメ店などの、エシカル消費が知られてきました。
道徳的なAIをつくるには、非道徳的な方法で集めたデータは使えません。透明性を担保できる世の中にならないことには、エシカルなAIの創造は難しいのでしょうが、そのあたりはエシカル企業の努力目標。今後はAIにもエシカルマインドを学習させ、エシカルな世界の創生をを後押しする必要があるのですから。
もちろんAIにもエシカルという考えは、あくまでの仮説でしかありませんが、AIが学習を繰り返すことで、世の中の著名な企業家や研究者が説いているような「エシカルな判断ができるAI」は実現するのかもしれません。仮説が確信になるタイミングは間も無くかも。
追記:ホワイトハッカーは別名エシカルハッカー
ハッカーと言うと企業のサーバーに侵入して、悪さをする犯罪者のイメージがありますが、高い倫理観と道徳心に基づいてハッキングを行うホワイトハッカーのことを、最近ではエシカルハッカーと呼ぶようですよ。
終わりに
エシカル社会を迎えるためには、企業、消費者双方が当事者意識を持つことが大切ですね。そしてエシカルな世の中に世界をシフトさせていくことが、持続可能な社会が実現するということなのでしょう。
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