スリープテックの現状と効能を考える・各メーカーの取り組みを解説

スリープテックの現状と効能を考える・各メーカーの取り組みを解説

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人生の1/3は睡眠時間、睡眠は個人にだけ依存するものと考えられてきました、しかし睡眠不足による経済損失額がアメリカで4,110億ドル(47.5兆円)でGDPの2.28%、日本では1,380億ドル(14.8兆円)で、GDP2.9%分にもなったことが、世界的なシンクタンクである米ランド研究所の調査で明らかに。万人の睡眠状況が、経済やビジネスを大きく左右しているのです。

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先進国に住む人の睡眠時間は減少の一路。アメリカ疾病予防管理センター(CDC) の調査では、アメリカ人の35%の睡眠時間が7時間以下であり、睡眠不足が日中の集中力に影響している人は23.2%との報告が。

日本はどうでしょうか。厚生労働省の「国民健康・栄養調査の概要」(2017年)によれば、1日の平均睡眠時間が6時間未満である人の割合は、男女ともに40代が最も多く、「睡眠で休養が十分にとれていない人」の40代の割合は30.9%、過去5年間と比較すると増加傾向でした。

世界的な家電見本市のCESでは2018年からスリープテックゾーンが登場し、2020年1月開催時も健在、国内でも関連サービスやアプリやデバイスが多く登場したので、スリープテック(Sleeptech=睡眠テック)が最近日本でも知られてきました。

なぜスリープテックが広まってきたのでしょうか。良い睡眠は自己管理次第であり、良い睡眠導入薬が世の中には多いから、それを服用すれば乗り切れると信じる人が多いですが、それには限界があります。一旦睡眠障害になってしまうと、気合だけでは寝付けませんし、睡眠導入薬の投与で一時的な効果があっても、副作用として昼の眠気が出たり、頼って使いすぎた挙句、もっと強い薬でなければ効かなくなるリスクもあるのです。

そこで夜の質の高い睡眠を促す技術や昼のリカバリーを目指す昼寝の技術など、スリープテックの進化が期待されているのでしょう。

スリープテックの定義

スリープテックの定義

スリープテックとは、一言で言えば睡眠を誘う技術のことです。つまりITなどの技術を活用して睡眠状態を知ること。以前は医療や研究機関でのみ活用されていましたが、最近ではスマートフォンなどのデバイスを活用することで、個人でも簡単にスリープテックを活用し、自分の睡眠状態を理解できるようになりました。現在は入眠環境を整えたり、より良い眠りをサポートするスリープテックの各種デバイスが出てきています。

スリープテックが注目を集める理由として、次の2つが考えられます:

  • 市場規模の大きさ(現代社会ではほとんどの人が自分の睡眠に不満がある)
  • 潜在的な成長力が高い(健康志向の高い人が急増)

その世界市場規模は、2020年中に約800億ドル(約9兆785円)に達すると予測されています。日本国内に限った市場規模でも1兆2359億円とされ、潜在市場規模では何と3~5兆円にもなるというのです。これだけの巨大市場ですから、世界中の企業が開発に力を入れるのは当然といえます。

スリープテックの歴史はアメリカから

スリープテックが使われ始めたのは、最近の話ではありません。最初にスリープテックという用語が使われたのは、2016年に前述のランド研究所が睡眠について発表を行った時とされます。この発表によって睡眠の重要性が認識され、ほぼ同時期には睡眠の質を向上させるために様々なデバイスが世に送り出されることになり、スリープテック企業が多いのは今もアメリカです。

スリープテックがもたらすもの

スリープテックがもたらすもの

質の高い睡眠には次の働きがあることが、近年の医学研究から明らかに。

  • 認知症リスクを低下させる
  • メンタルヘルスを保持
  • 記憶の定着率を高める
  • 免疫力を高める
  • 体調を適正に保つ(体重や血圧など)

この中で最も注目されているのが、アルツハイマー型認知症の原因物質であるアミロイドβ(脳の老廃物の一つ)と睡眠の関係です。米ワシントン大学などの研究によると、就寝時間中眠りが深く睡眠の質が高い人は、アミロイドβの脳内蓄積の割合が低く、睡眠の質が低い人では高いことがわかりました。

また脳というものは神経細胞と、それに栄養を補給するグリア細胞に満たされているのですが、睡眠中にグリア細胞が収縮し、アミロイドβなどの脳の老廃物を排せつする作用が見つかっています。睡眠の質が低いとアミロイドβの排出が阻害されることも明らかです。

つまり睡眠の質を知ることで、認知症リスクが高い人を発見できるとも言えるのではないでしょうか。睡眠の質が改善できれば、認知症の予防につながる可能性があるということなのです。

睡眠はメンタルヘルスと、記憶の定着にも重要な役割を果たしています。夢を見ることができるとされるレム睡眠中には、不快な感情的記憶が和らぐ働きがあることが確認されています。記憶が適切に整理され、感情がコントロールできることがメンタルヘルスの維持に必須であることは、2011年に米カリフォルニア大学バークレー校と東京医科歯科大学の共同研究の報告から明らかです。

企業の挑戦

新規事業の主要市場として、好条件が揃っているスリープテック市場に、大企業からスタートアップまで、また様々な業界の企業が進出をしています。いくつか事例を紹介しましょう。

蘭フィリップス(医療機器メーカー)

フィリップスでは新たなスリープテック開発のために、2018年5月に蘭ナイトバランスを買収しました。ナイトバランスが就寝時の姿勢をサポートし、質の高い睡眠を実現するといった技術のフロンティアだったからです。

その後スリープテック製品第一弾として、2019年11月にSmartSleepというヘッドギアタイプのデバイスを発表。ヘッドギアに搭載されたセンサーでユーザーの睡眠状態を解析し、データ化した眠りの状態(深さや質)を、専用のアプリで確認するというものです。加えて骨伝導を利用したオーディオを搭載しており、音により深くて良質な眠りを実現しようしています。

米BOSE(音響メーカー)

BOSEでは睡眠時専用イヤホン製品である、BOSE NOISE-MASKING SLEEPBUDSを発売し、スリープテック市場に進出しています。

このイヤホンの本体のメモリーには、BOSEが独自開発した特殊音源のsleeptrackが複数収録されています。これにはいびきや人の話し声、周りの騒音などの睡眠の妨げになる音を聞こえにくくする技術であるノイズマスキングが使用されており、イヤホンをつけることで就寝時に邪魔になる音を、既存の耳栓よりも自然に消すことができるというものです。

米Sleep Number(寝具メーカー)

スタートアップのSleep Numberは、個々に最適な睡眠を実現するスマートベッドを開発しています。このベッドにはバイオメトリクス睡眠測定機能がついていて、寝返りなどのユーザーの動きに合わせてベッドの硬さを変えたり、圧力を変更する事ができるのです。さらに睡眠中のベッドの動きから睡眠の質を解析し、アプリで確認する機能付きな点も優れています。

日本のスリープテック事情

日経BP社が2019年から総務省、経済産業省の後援を得て、スリープテックEXPOを初開催しました。航空、通信、寝具、ITなど様々な業界から10団体が出展し、さらに日本が誇る睡眠研究のエキスパートによるセッションが9つ。展示会としてはまだ小規模でしたが、今後急速に進化するとされるスリープテックの未来を予感させるイベントであったことは間違いありません。

今回はスリープテックEXPOの出展者のうちの、2社を紹介したいと思います。

ニューロスペース

睡眠改善の実績とデータ分析の知見で存在感を高めているニューロスペースは、睡眠習慣デザインプログラムと、スリープテック事業の共創、共同開発を生業とするスリープテックのスタートアップです。2019年時点で従業員の良質な睡眠を支援する法人向け睡眠改善プログラムが、70社(ユーザー数1万人以上)に導入されました。

共同開発では2018年9月にANAホールディングス、2019年3月にKDDI、フランスベッドと協業しています。ANAとは時差ぼけ調整アプリの共同開発、またKDDI、フランスベッドとはKDDIのIoTサービスであるauHOME/withHomeと連携した睡眠アプリのREAL SLEEPを展開しています。その後東京電力や東急不動産とも協業を発表し、今後も日本におけるスリープテックを牽引していく勢いです。

O (オー)

睡眠・体内時計のスタートアップであるO。そのソリューションである体内時計に着目し、従業員の一括健康管理ツールのO:SLEEPでは、生産性の低いチームやメンタルリスクを改善し、不眠からうつになり休職になるリスクから従業員を守り、また休職による損失を防ぐことで企業を守ることを使命としています。

2019年5月には豪No.1のマットレス企業であるKoala Sleep Japanと提携しました。具体的な協業内容としては、O:SLEEP利用者の睡眠時間や質をスコアリングし、その点数が高い方にコアラマットレスを無償で提供するという、法人向け睡眠手当制度の提供を開始するというもの。コアラマットレスというご褒美を目の前に吊るし、睡眠習慣の改善と分析のモチベーションを維持させようとする取り組み、発想が新しいですね。

スリープテックの未来

想定できないほどのびしろが大きいスリープテック市場。現在は睡眠中の心拍や呼吸、脳波を測定し、AIで解析することで最適な睡眠を提供するのが主なソリューションといえます。

より正確に睡眠状態を測り、そのデータから良質な睡眠を取れるようにするためには、睡眠中だけではなく日常生活で脳波を測定することも重要です。今後はベッド上だけではなく、活動している場面でも使えるスリープテックデバイスが求められるので、新しいプレーヤーが間違いなく出現します。

繰り返しになりますが、睡眠は仕事のパフォーマンスに大きく影響します。そのため今後は睡眠のムラを解消し、常に良質な睡眠を実現できるようなスリープテックの登場を待ちたいですね。

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