物流テックのブレイクスルー前夜。RFIDやIoT、AIがロジスティクスを変える
配送や在庫管理、貨物保管を中心とする物流業界はご多分にもれず人手やスペース不足は深刻、さらにIT化で遅れを取っているなどの課題があります。
そしてソフトウェアだけで解決できる業界と違い、ヒト・モノ・カネ・情報全てが関わる物流業界では、大きな投資が必要となるため、新興企業が参入するには敷居が高いとされていましたが、2013年ごろから物流にITの最新技術を融合させる、物流テックのスタートアップが増えてきたのです。
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まだ物流業界のIT化は道半ばで、ホワイトスペース(ビジネスとしての余白)が多くあります。ここで一旗あげようとするスタートアップが現れるのも当然のこと。既に世界で750社以上がこの市場で挑戦を開始し、2013~17年に物流テックのスタートアップへの投資額が、グローバルベースで累計1兆円を超え、今や毎年3千億円の投資資金が流れ込む業界となりました。
物流テックの最重要なキーワードは、言うまでもなく「省人化」です。サービスは商品の受発注から在庫管理まで広範囲におよび、RFIDやIoT、AIなどの技術を活用した、物流インフラの生産性向上を牽引するスタートアップ各社の、ある面ニッチなソリューションのスピーディな技術向上ぶりには、目を見張るものがあります。
<ユニクロのRFID事例>
セルフレジはどうも使いにくい。結局、使い方が店によってよく分からないし「スタッフをお呼びください」のアラートたちすぎてこれ有人レジのがよくないかと思うことばかりだし。
しかしユニクロのセルフレジは、始まってた。 pic.twitter.com/KMbQhdAy7n
— ザ・タナカ (@thetanaka_web) July 11, 2019
大企業がメインとみなされがちな物流テックですが、今では中小企業にも広く需要が高まってきました。今回は物流テックの広がりと、物流テックのスタートアップの今後について考えてみたいと思います。
目次
物流テックの概要
物流テックの最も身近な例では、スマートフォンから注文すればいつでも食事が届くようなUBER eatsが頭に浮かびますが、非常に多様なプレイヤーが存在します。それぞれの領域には色々なタイプのステークホルダーがいるため、新しいビジネスモデルがどんどん生まれており、細分化されてきているのです。
物流テックの技術サービスは次の通り3つに分類できます。
- ロボット・ドローン
- クラウド・AI・RPA
- シェアリング(トラックドライバーや車両のシェアリング)
運送車両の自動運転や全自動のピッキング装置など、物流業務の多くが、近い将来人間からロボットに引き継がれて、自動化されるといわれています。
デスクワークでもパソコンを使ったデータ入力などが、RPAの導入によってほとんど代替されていくと予想されているのです。
物流業務のあらゆるプロセスは自動化、機械化され、人が介在することがほとんどなくなる可能性があり、この業務に携わっている人々には脅威かもしれませんが、将来さらに働き手の減少を考えたら、このような物流業務の自動化への取り組みは、もはや止めることはできないといえるでしょう。
物流情報のオープン化も、業務の自動化と同時進行しています。倉庫の在庫状況、運送可能な容量、出荷状況、運賃など、物流に関するあらゆる情報が、リアルタイムに確認できるようになることが目指されているのです。つまりオンラインのプラットフォームを利用で、誰でも物流ネットワークを活用できるようにすることが目下のゴール。さらにパブリッククラウドの活用で、今後は自社で独自の物流ネットワークを構築する必要がなくなるかもしれません。
サービス領域としては大きく4つに分類され、代表的なサービス内容は次の通りです:
- 海路・空路運送:国際輸送事業者の比較・手配と貨物追跡を可能にするサービス
- 倉庫・フルフィルメント:倉庫スペースのマーケット化や作業の自動化
- 陸路運送:配送用オペーレーション管理ツール、トラックの最適配置や追跡など
- ラストワンマイル:ドローンなどを使用した配送手段の提供や自動化、配送サービスの比較、配送のクラウドソーシングプラットフォームなど
Amazon.comの事例
2019年4月、米Amazon.comが大阪府で新たな物流拠点を本格稼働させました。この倉庫の最大の目玉は、同社独自の自動搬送システムである「Amazon Robotics」の導入です。台車状のDriveと呼ばれる自走式ロボットが、商品棚を持ち上げてフロア内を自動走行し、商品をスタッフの前まで運んでくるというもの。Driveがあれば、人が広い倉庫内を歩き回らなくても商品の出し入れができるようになります。
Amazonが日本に同システムを導入するのは、神奈川県の拠点に次いで二ヶ所目。元はロボットベンチャーの米Kiva Systems(現Amazon Robotics)が開発したシステムで、Amazonが2012年に650億円で買収し、自社で開発を進めたことにより、一躍脚光を浴びました。現在世界25ヶ所で、100万台以上が稼働中。
効率化でコストを下げるだけでなく、投資して利益を上げられるのが物流分野だと企業が気づき始め、日本企業の意識が変わり始めています。その変化を促したシンボルといえるのが、まさにこのAmazonです。
Amazonではロボットの活用などで、物流作業の技術強化に注力したので、配送サービスの能力と品質が急速に向上しました。例えば当日配送や受け取り場所の多様化など、消費者が欲しかったサービスを次々と提供したのです。Amazonが大金を注ぎ込んでKivaを買収した事実からも、同社が物流技術を競争力の要と捉えていることがわかりますね。
物流強化に突き進むAmazonに影響され、今度は荷主企業が、顧客満足度や競争力を高めるために物流への投資へ乗り出し始めています。
物流テックのスタートアップが注目されるわけ
すでに言及した通り、投資して利益をあげられると評価された物流テックには、グローバル規模で積極的に資金が集まっています。少し古いデータですが、投資件数も2010年からの7年間で46%増加しており、最近はレイターステージへの大きな投資まで行われているのです。どうして投資家は物流テックに注目しているのでしょう。
事例からその理由を探ってみましょう。
GROUND社の事例
2019年8月GROUND株式会社は、株式会社INCJ、Sony Innovation Fund(ソニー)、サファイア第一号投資事業有限責任組合、JA三井リース株式会社、IMM Investment Group Japan株式会社などから総額17.1億円の資金を調達したことを発表しました。
GROUNDは2015年に設立された、物流テックのスタートアップです。ロボティクスやAIなどの先端技術の活用で、物流オペレーションの省人化やシェアリングしていくモデルを構築し、物流業界の生産性向上を目指しています。
EC市場の急激な拡大もあり、物流業界では少量多頻度輸送や季節変化による物流量変動、また少子高齢化を背景とした労働力不足など、早急に解決すべき問題が山積みです。GROUNDはそこに着目し、物流ソリューションを提供しています。
GROUNDは今回の資金調達以前から、大和ロジスティクス株式会社、株式会社オカムラ、クオンタムリープ株式会社から出資を受けていました。
中国のロボットメーカーのHIT ROBOT GROUP(HRG)とロボットを共同開発し、インドの物流ロボットベンチャーのGreyOrange、米Soft Roboticsなどと業務提携を行うことで、グローバルネットワークをすでに築いていますので、今後は海外進出も計画。
GROUNDではハードウェア、ソフトウェア、そしてオペレーションの3つを組み合わせ、同社が掲げるIntelligent Logisticsを実現するための物流プラットフォームの構築を目指していますが、物流を知り尽し、世界レベルでのロボット技術を有し、さらには自社開発のソフトウェアがある点から、GROUNDはポテンシャルの高い物流ソリューション企業と評価されています。
同社の出資社であるSony Innovation Fund では、物流に注目している理由として次の三点をあげています:
- 社会的意義が大きい、つまり市場規模が大きい
- テクノロジー浸透度合いがまだ低い
- 市場が大きく動いている
物流のような伝統的産業におけるIT化の実現には、技術と業界ノウハウのハイブリッドがないとうまくいかないことを十分に理解している同社では、技術力が高い低いだけでなく、技術を使える人材がいるかどうかの見極めが重要であり、GROUND社にはそれがあると見極めたのです。
大化けしそうな物流に関わるには、自社の希望する要件を有し、アクションが早い物流テックのスタートアップを懐刀にすることが、投資家にとって有効な方法ということですね。
物流テックの海外事情
米調査会社のCB Insightsの報告によれば、物流サービスのユニコーン企業(非上場で企業価値10億ドル以上)が、2019年5月時点で6社あり、中国企業が4社、米企業とインド企業が1社づつでした。
その中で一番評価額が高いのが、中国のManbang Group (マンバン・グループ)。その額は60億ドル(約6,300億円)に達してoおり、出資先にはソフトバンク・ビジョン・ファンド(ソフトバンク) も含まれています。
同社が手掛けるのは、トラックドライバーと荷主をマッチングさせるサービス。自家用車のドライバーと、移動したい人を結び付ける米Uber Technologies配車アプリの貨物版といえます。
増え続ける貨物量をどうさばくかのソリューションとして、そこにITやAI技術を持ち込んで、効率化を目指したのが、マンバンのビジネスモデルの原点です。中国メディアによれば、2019年3月時点で、マンバンのサービスを使っているドライバーが、3,200万人を超えたとのこと。
マンバンでは無人運転の技術を持つ企業も買収し、自動運転トラックを使った輸送実験にも取り組みはじめていますが、そういったイノベーティブな取り組みを支えるのが、ファンドなどから調達した資金です。
それにしてもユニコーン企業の、資金調達の額のけたが違いますね。日本でもスタートアップが増えてきたとはいえ、なかなかユニコーンの規模まで育たない背景には、物流業界だけではありませんが、お金の問題も大きいと言えます。
レガシープレーヤーもスタートアップと提携開始
今まで総合的なサービスを提供していたUPS、FedEx、DHLなどの物流業界の大手企業では、自社が行ってきた事業の継続的成長のため、物流テックのスタートアップに対して、積極的に提携、投資さらには買収などを行っています。
自社で作れないなら、技術を買ってしまえというのは、同じアメリカのAmazon方式ですね。
今後の可能性
スタートアップに希望を与える物流テックの盛り上がりですが、スタートアップが生き残っていくには困難とも言えるのです。
例えばこの業界では免許などの規制が厳しい場合があるため、実は参入障壁は非常に高いことが。特に海路や空路運送領域においてはそれが顕著といえるでしょう。逆にラストワンマイル領域ではコンペが多いため、競争に勝ち残らなければ未来はありません。
しかし年々増えているとはいえ、まだ日本での物流テックのスタートアップの数は少ないので、参入余地はまだあると思われます。さらに既存の配送業者向けの業務最適化などもまだ遅れているので、この分野に挑戦するスタートアップの登場が期待されます。
たとえ日本でスタートアップ として物流テックのビジネスがうまくいっても、潤沢な資金調達を成し遂げない限り、海外では簡単に生き残れないことを最後に付け加えておきます。
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