D2Cが販売を変える〜新たな慣習を創る時
D2C (Direct to Consumer) ビジネスの成長により消費者の購買プロセスが大きく変わり、従来の販売プロセスが衰退しつつあります。今回はD2Cが市場にどのような変化を及ぼすのかを確認していきたいと思います。
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目次
D2Cの定義
D2Cを簡単に説明すると、自らが企画し製造した商品を、いかなる中間業者をも介すことなく、従来型の店舗を持たず、ネット経由で販売するビジネスモデルです。
すでに聞き覚えのあるB2B(Business to Business) サービスとは、企業が企業に向けてのサービスで、B2C(Business to Consumer)サービスは、企業が一般ユーザー向けのサービスで、どちらも「誰と誰の取引か」という取引形態を表していますが、それらに当てはまらないビジネスモデルがD2Cなのです。
無論D2C も取引形態を示す言葉ですが、消費者との取引方法と商品の配送方法を明確に表しています。D2Cの冒頭にあるD (Direct) は、流通業者などの他社を介さずに、商品を製造する企業自らが、直接消費者に商品を売る業態を表しています。
ユーザーエクスペリエンス
ユーザーエクスペリエンス(User Experience = UX)とは、商品、システム、サービスなどの利用を通じて、そのユーザーが得る経験のことなのですが、Webサービスにおけるフロント部分を意味し、消費者に情報を表示する画面廻りの作りや見やすさをも表しています。
UXは製品やサービスの利用に関わるあらゆる要素を含んだ概念であり、使いやすさや使い勝手などの要素に加えて、使い心地、感動、印象なども重視されます。
D2Cで成功するにはUX、データ、チャネルが重要とされます。ネット販売をメインのチャネルとすることで、リアルだけでは取れなかったデータを得られます。そしてその結果を継続して新たな商品開発に生かすことが大切なのです。
Webとリアルがシームレスに繋がり、全方位的に消費者へ情報のアウトプット・インプットを行う今、D2CにはUXが切り離せません。
D2CとSPAとの違い
SPA (Speciality store retailer of Private label Apparel)は1986年に当時GAPの会長であったDonald Fisher氏により定義されました。それは製造元が流通業者や仲介業者などの中間業者を通さずに消費者に商品を直接提供するビジネスプロセスで、日本でSPAで成功した企業はユニクロが知られています。
SPAはデパートや小売店などの店舗ありきのビジネスモデルですが、D2CはSPAでいうところの店舗がない点が異なる点です。ですから店舗を運営する際にかかる費用をも削減し、その結果高品質の商品を更にリーズナブルな価格で販売することを可能にします。D2CはEC版SPA、オンラインSPAと呼ばれることもあります。
D2Cのアメリカ事情
まずアメリカでD2Cが広まった理由の一つに、その広大な面積がありました。平均的なアメリカの町では、都会のように徒歩圏内に商店がたくさんあるわけもなく、買い物に行くには時間とお金がかかるため、頻繁に行くことはありませんでした。
しかしインターネットショッピングの登場で、24時間365日いつでも買い物ができ、しかも商品が自宅に届くようになったことが、人々に驚きや感動を与え、心地よさをも与えたため、消費者の購買意欲が高まりました。そしてEC市場が急速に拡大していくのに、時間はかかりませんでした。
アメリカで商品やサービスを必要とする場合に、ネット経由での購買が一般的になったためにショッピングモールや小売店が閉店を余儀なくされています。またD2Cブームに乗り切れていないファストファション大手企業では店舗数を大幅に削減しています。創業3〜8年程度のD2Cが超急成⻑している傍で、伝統的な企業が倒産しているアメリカでは、⼩売業界のさまざまな分野で業界再編が進んでいます。
日本ではどのくらい普及しているか
日本でもD2C のスタートアップ企業が続々と登場しています。中でもアパレルや食品の分野が先行しています。そのうちの2社を例に挙げてみました。
Minimal
「最小限で作るチョコレート」をコンセプトとするチョコレートメーカーのMinimalでは、SNSの利用で消費者に向けたメッセージを発信しており、ECサイトの作り込みやパッケージからもブランディングを大切にしています。
(https://mini-mal.tokyo/)
teshioni
クリエータと、1500が登録する縫製のクラウドソーシングサービスのヌッテが協業して、ウェアを販売するECサイトです。FOUFOUブランドで知られています。データを活用してムダのないモノ作りを実現しています。
(https://www.teshioni.com/hpgen/HPB/categories/19105.html)
D2Cで成功する企業、失敗する企業
成功する企業
高品質な商品を作ってブランディングにフォーカスしても、必ずしもD2Cで成功しません。製品力、UXそして関連データを完全連動させ、その結果を継続的に新製品に生かしていく必要があります。成功しているD2Cに共通するのは次の点です。
- 商材は1種類又は少数(少数精鋭)
- ロウンチは型破りなデビュー方法で(人の目を引けること)
- 実はITのエキスパートでもある
- スピード感がある
大手企業にとってこれらの要件のすぐにクリアするのは至難の技です。一方でスタートアップ企業にとって、さほど難しいことではありません。この点からもD2Cで成功する企業には、スタートアップが多いというわけです。
失敗する企業
D2Cの失敗には、次の要因があると考えられます。
商品力の欠如
市場のニーズに合っているかといった調査分析を十分にしないまま、商品ありきでD2Cに参入するのは、最初から結果が見えています。担当者にしてみれば「誰がこんな商品を買うのか?」という疑問を持ちながら仕事せざるを得ないので、成功するはずがありません。
他力本願
方針や戦略もないままでウェブサイトの構築を外注に丸投げしても、売れないECサイトがリリースされるだけです。
D2Cはこれからどうなるか
D2Cはバズワードのひとつという意見もあります。果たしてすぐに消えてしまうものなのでしょうか。
無店舗取引から店舗取引に戻る?
躍進しているD2Cビジネスですが、ここ数年さらに新しいトレンドも生まれています。それはリアル店舗の設置です。Amazonのリアル店舗であるAmazon Goがスタートしていることは記憶に新しいですが、D2C企業もリアル店舗を設置するようになりました。
D2Cブランドのリアル店舗は、従来の店舗とは位置付けが異なります。消費者とのコンタクトポイントの役割がメインで、店頭では販売せず商品確認を行うだけで、購入はオンラインで行うプロセスが多いのです。もし店頭で売ることになれば、従来の小売店同様に在庫を抱えることになってしまいます。
そしてD2Cには消費者の好みに合わせてカスタマイズする商品も多く、そのバリエーションが増えていくことからも、オンラインでの購入を促すことが合理的だと考えられています。
ここでリアル店舗の例をご紹介しましょう。
米Bonobosでは、リアル店舗のことを「Guide Shop」と呼んでいます。Guide Shopに行く際は、まずサイトで入店予約をする必要があります。予約時間の基本は30分で、じっくり相談したい場合は60分が推奨です。
Guide Shopに行くと、店員であるBonobos Guideが出迎えてくれます。消費者がサイトで登録した情報、過去にサイトで購入した洋服などのデータをタブレットで見ながら、Bonobos Guideがオススメの商品を消費者と一緒に探してくれます。
従来の店舗では、以前どんなものを買っているなどは関係なく、目の前の商品を勧められますが、D2Cのリアル店舗では、オンラインと同様に消費者ごとのデータを参考にしながら商品を選べますし、さらにデータを蓄積していけます。
既存の大手企業が大きなシェアを占める業界に、エッジの効いた自社製品で参入し、SNSを最大活用して風穴を開け、ブランドを築くのがD2Cです。リアル店舗でも一線を画しているわけなのです。
老舗ブランドのリアクションは
D2Cの成長に対して老舗ブランドの中でも、反撃に出てきた企業がいます。スポーツ用品大手のNIKEは、2018年11月にニューヨークに、デジタルと融合した新たな旗艦店の「Nike House of Innovation 000」をオープンしました。
こちらは6階建ての68,000平方フィートの売り場面積を有する大型店舗です。NIKEの商品に直接触れたり、試着してから購入したいと考える消費者にとって、この店舗の出現は大いに歓迎されました。
店舗に展示しているマネキン全てにはQRコードがついており、それをスキャンすることで商品がピックアップでき、消費者はその場ですぐに試着することができます。この店舗では専門家に依頼してアドバイスを受けたり、自分用にシューズのカスタマイズを依頼することも可能です。
アプリで在庫のストックも確認できますし、欲しいアイテムはアプリを使って購入できますので、レジに並ぶ必要はありません。同社によると開店後10日ほどで、すでに60万人がこの店に訪れました。業績も順調と伝えられています。
NIKEの成功事例から明らかなのは、既存の販売方法にこだわらずD2Cの良い点を取り入れることで、従来型企業にも生き残る道が開けるということです。
日本のD2Cの今後は
製造メーカーが良質な商品を作り消費者に届けることは、日本では当たり前のように昔から取り組んできたことです。日本はものづくりの国というイメージが根強くあります。
日本にはこのままでは失われつつある、伝統的な職人の技術が多くあります。年々少なくなる人数で多種の商品を作り、それを卸業者を通して販売していたのでは、作り手に入ってくる金額の割には商品単価も上がります。ボランティア精神だけでは伝統は守れないのです。
そこで商品をしぼりこんで、製造者が直接消費者に売るというD2Cを取り入れたら、品質を保ちながら中間マージンがない分コストを抑えることができますので、日本の伝統技術を守る鍵となるかもしれません。
D2Cの成長は今後の日本にとって大きなプラスになるに違いありません。D2Cを用いた日本発のモノ作りスタートアップが続々と名乗りを挙げて、世界を驚かせる日は案外近いかもしれません。
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