DeFi(分散型金融)の現在と未来を支えるテクノロジー
日本国内では金融機関への一般的な不信感が深まっています。中国では銀行の取り付け騒ぎなどの不良債権問題は極めて深刻ですし、日本でも昨年かんぽ生命の不正契約問題が世の中を揺らしました。
不正問題のみならずマイナス金利が続く日本では、銀行に預金をしても利息がほとんどつかず、それに反して振り込み手数料や引き出し手数料が高いので、金融機関離れが若者中心に進むのは仕方ないこと。
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「DeFi」という用語を新聞等で目にすることはありませんか。
DeFiとはDecentralized Financial System(分散型金融)のことで、まだ世界標準の定義はありませんが、主にイーサリアム上で動く、分散型のあらゆる金融分野に適応する金融プロトコルアプリケーション群の総称とみなされているものです。
DeFiのサービスは、トークン化(トークナイゼーション=Tokenization)された仮想通貨を用いて提供されます。これはブロックチェーン上でスマートコントラクトを通じて行われるため、開発者や投資先が無名のスタートアップといった極めて信頼性が低い状況でも、安心して利用できるのです。
今まさしく未来に向けて、DeFiはゆっくりだけど確実に進歩しているといえます。従来の金融システムの、デジタルトランスフォーメーション(DX)による変革のシンボルとも位置付けられるDeFi。
今回はDeFiの内容を理解し、今後どうなるのかを確認してみましょう。
目次
仮想通貨への風当たり
従来の古い金融体系を根本から変える技術こそが、仮想通貨といえますが、強い拒否反応がなおも金融機関に残ることは否めません。特に自国通貨の管理を担う中央銀行(日本の場合は日本銀行)からの抵抗が非常に強いのです。なぜなら仮想通貨が一般に広く流通すれば、各国が自国通貨を持つ意味はなくなり、中央銀行の存在意義もなくなってしまうから。
もちろん政府の介入で法規制が変われば、既存の金融機関との折り合いの問題は解決するでしょうが。
仮想通貨の現状
ブロックチェーンの最初のアプリケーションであるビットコインは、2017年のはじめに11万円だった価格が、同年12月には200万円を超え、世界中が瞬く間に仮想通貨バブルに突入しました。しかしその後大手取引所などでハッキング事件が頻繁に起こったこともあり、価格は一気に暴落、バブルはあっという間に崩壊したのです。
しかしながら仮想通貨バブル崩壊イコール仮想通貨がなくなったわけではありません。いいも悪いも、一般ユーザーは仮想通貨とはほとんど無関係だったのです。バブル崩壊から2年余、仮想通貨は再び注目を集めています。そして仮想通貨の専門家たちは皆、2020年以降のビットコインの価格高騰を予想しているのです。
仮想通貨の先駆者としても有名な、セキュリティソフトウェア大手のMcAfee創業者であるジョンマカフィー氏は、ビットコインの価格が2020年までに100万ドル(およそ1億円)まで上がると予想しています。また世界最大のビットコイン所有者といわれているウィンクルボス兄弟は、2038年までに30-40倍に上昇すると言及しています。
トークンの多様化
法定通貨などを担保とし、安定した価格を実現するために設計されたステーブルコインのみならず、ブロックチェーン技術の向上で、様々なトークンが出現しました。例を挙げてみましょう。
セキュリティトークン (Security Token):
- 株式
- 債券
- デリバティブ
- 不動産
- 特許
- 著作権
- サービス利用権
といった、価値の裏付けがあるさまざまな資産を、ブロックチェーンを用いてデジタル化したもの
ノンファンジブルトークン (Non-Fungible Token=NFT):
- 代替不可能なトークンで、不動産やデジタルアート作品など「1点もの」の所有権を証明できるもの
これらトークンの標準規格として、イーサリアムから生まれたERC20やERC721が現在普及しています。その結果トークンが標準規格に準拠している場合は、分散型取引所 (Decentralized Exchange=DEX) のプログラムを改修することなしに、新しいトークンを上場できるようになってきました。
トークンの多様化と分散型取引所の相互接続性により様々な直接金融市場が実現し、DeFiが対象とする市場サービスの範囲が、大きく広がり始めています。
DeFiが目指すもの
DeFiが目指しているのは、Decentralized blockchain(=分散型ブロックチェーン)を用い、個々のプライバシーが保護された上での情報公開と、インターネットに接続されている状態であれば国に依存することなく、誰でもどこからでもアクセスできて、自由に取引できる金融プラットフォームの構築です。
プラットフォーム間で相互運用ができれば、近い将来これらのプロトコルを活用した新たなアプリケーションが生まれ、ひいては金融業界の改革が急速に推進されるわけ。
従来型金融とDeFiの比較
現行とDeFiの違いを理解して、生き残り策を講じることが既存の金融機関の最重要課題。まずあげられるのが、DeFiではブロックチェーン上のアドレスを中心に提供される構造で、口座を中心に多数の金融サービスが提供される既存型とは明らかに異なります。
2つ目はKYC (Know Your Customer=顧客確認)、スコアリング、債権回収といった従来バックエンドにあった業務が、DeFiでは直接サービスとして提供されるようになること。つまりDeFiでは金融機関に縛られることなく、ユーザーは自分のニーズにあったサービスを自由に組み合わせて利用できるようになるのです。
DeFiではまた、既存の金融機関では小さすぎて扱わなかった取引を扱えたり、今まで存在しなかった種類の資産の取り扱いが可能になるので、今まで見捨てられていた金融サービスにおける「ロングテール」サービスが、提供可能になることも考えられます。
DeFiを敵視すべきではありません。既存の金融機関では、巨大化しすぎた組織の再編にあたり、既存の組織に加えてDeFiを取り入れることで、金融ビジネスを構築し直す絶好のチャンス到来なのです。
DeFiの条件
- プロジェクトは分散型ブロックチェーン上に構築
- 金融産業のプロジェクト
- プロジェクトのコードはオープンソース
- プロジェクトには活気ある開発者コミュニティを伴う
DeFiはデータの透明性に優れ、誰でも自由に参加できるパブリックチェーンによる改革を目指しています。
DeFi注目カテゴリー
DeFiのソリューション群の中でも、今後特に注目が集まりそうなカテゴリーは次の通りです。
- DEX:完全な個人間での仮想通貨取引ができる。Republc Protocolと言われることも
代表例:KyberNetwork, 0x protocal - レンディング: 仮想通貨の貸し出しサービス
代表例:Compound、Dharma protocol - ステーブルコイン:ステーブルコインそのものではなく、ステーブルコインを発行するプロジェクトがDeFiに分類される
代表例:MarkerDAO - デリバティブ:仮想通貨での分散型デリバティブ取引を実現
代表例:dy/dx - Prediction Market:未来予測市場(ギャンブルに近い市場)
代表例:Augur - KYC (Know Your Customer=顧客確認):身分証明に利用されるサービス
DeFi監視サービスであるDeFiPulseによると、DeFiアプリが保持しているイーサ(ETH)の数量が着実に増加し、2019年11月には過去最高の270万ETH(約432億5,670万円)に達しました。
この270万ETHのうち77%にあたる210万ETH(約336億4,410万円)が、MakerDAOの保持であり、次点がスタートアップの有望株であるCompoundで、12.5%にあたる33万7800ETHを保持。DeFiスタートアップの勢いを感じますね。
DeFiコミュニティメンバー
DeFi注目カテゴリーで取り上げたものを含む、著名な金融ソリューションのほとんどが、現在DeFiコミュニティメンバーとなっています。例を挙げてみましょう。
- 0x protocol:DEXのためのオープンプロトコル
- Dharma protocol:債務を発行し、貸出、借入ができる分散型レンディングプロトコル
- Set protocol:トークンバスケットプロトコル
- Abacus protocol:トークン化された証券の発行や管理をするためのプロトコル
- Wallet connect:モバイルウォレットとデスクトップdAppsを接続するオープンプロトコル
- MakerDAO:ステーブルコインDaiを発行するための自立分散的運営組織
- dy/dx:仮装通貨での分散型デリバティブ取引の実現を目指すプロトコル
- Kyber Network:簡単に取引ができるDEXのプロトコル。
今もDeFiスタートアップが次々と参入していますので、そのサービスがどんどん広がっているのは当然ですね。
DeFiの未来図
成長しているとはいえ、DeFiにはなおも大きな伸びしろがあります。最近の調査によれば、仮想通貨の時価総額合計は、1,950億ドル(約21兆円)、アメリカ10位の銀行が管理する資産が1,500億ドル(約16兆円)ほどでした。アメリカでもユーザーのほとんどがまだ仮想通貨を保有しておらず、銀行や他の中央集権的な金融機関にお金を預け、投資先といえば株や債券の現状が明らかです。
DeFiが主流の金融サービスになるために、仮想通貨初心者でもデジタル資産を簡単に購入でき、DeFiサービスに参加できるように、以下のものを提供する必要があります。
インターフェース
まず使いやすくて直感的なインタフェースが必要。DeFiプロジェクトには、様々な分散型機能の維持が必須ではあるが、一般ユーザーが「むずかしい」と考えてしまう部分は隠してしまい、ユーザーが必要不可欠な部分だけ照会できるものがよいでしょう。
大衆向け製品・サービスの開発
DeFiを最も必要とするユーザーは、仮想通貨を頻繁に取引したいわけではありませんから、DeFiプロジェクトはP2P(ピアツーピア)取引に注力し、金融サービスから手数料をなくすことなど、仮想通貨本来の目的を提供すべきでしょう。
アメリカで指示を集めているDeFiプロジェクトでは、融資、利息、資産管理、担保付きローンといった、一般的な金融サービスを提供することで、収入や年齢、場所に関わらず、世界中のより多くの人々にその価値を理解してもらい、ユーザーの裾野を広げているのです。
ステーブルコイン
ステーブルコインは銀行口座のお金よりも高い利率を得ることができ、 担保価値の低下を心配する必要がないため、初めての仮想通貨としてステーブルコインを購入した人はその事実に驚くことでしょう。法定通貨に似たステーブルコインが、DeFiプロジェクトの入門変としての機能を果たします。
DeFiが金融ビジネスの主流に成り得ますし、それらの普及が進めば巨大市場になりますが、短期間で広めるためにはフェイスブックやグーグルと同じように誰にでも簡単に扱える必要があるのです。仮想通貨に初めて触れた人に技術者レベルが喜ぶような、複雑なDeFiサービスを紹介しても、最初から使うことを諦めてしまうかも。
生き残りのために
DeFiには当然リスクもあります。基盤とするブロックチェーン技術の信頼性は十分に検証されておらず、提唱されているスキームを日本に持ち込もうとしても法規制に抵触するものも多いのが現状です。
しかし現段階の日本で重要なのは成熟度を評価することではなく、従来との構造の違いを理解し、金融ビジネスの進むべき方向をいち早く見極めることにあるといえるでしょう。今後も引き続きウォッチが必要ですね。
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