チャットボットは日本のマーケティング活動に役に立っているのか
目次
チャットボットとは何か
はじめにチャットボット (Chatbot) の定義を確認しましょう。チャットボットとは「対話(chat)」する「ロボット(bot)」という2つの言葉を組み合わせたもので、ユーザーと企業をつなぐコミュニケーションツールです。人が入力するテキストや音声に対して、チャットボット が自動的に回答を行うことが、従来人が対応していた問い合わせ対応や注文対応作業の代行となります。
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チャットボットは1966年に登場したELIZA(イライザ)から始まりました。イライザは人間が入力するテキストに対して自動で回答を行うことができる、簡易的なチャットボットでした。
1990年代末頃からアメリカでは一般消費者間(C2C)でのチャットが普及しました。そしてインターネット上で提供する、カスタマーサポートなどBtoC でのチャットの適用が始まり、その後B2Cでのチャットボッド適用に進化していきました。
その後マイクロソフトのMS Office97のエクセルに、Office アシスタントと呼ばれるチャットボットが搭載されました。日本ではカイルという名前のアニメーションのイルカでした。覚えていますか?
そして2011年に登場したのがiPhone 4sに搭載されたSiriです。Siriは人が入力する音声に対して回答をするチャットボットです。SiriはiPhone上のアプリとも連携するので、「明日のスケジュールを教えて」と問いかけると、カレンダーアプリに入力済みの予定を即座に音声とテキストで回答できたので、全世界のユーザはついにチャットボットを認識し始めました。
アメリカでチャットボットがブレイクした理由
2016年は世界各国でIoT、VR、AIなどの先端技術が一般にも普及が始まり、大きな進展が見られた年でした。まるで歩調を合わせたかのように、同年アメリカでチャットボットがブームが到来しました。
これにはFacebook、Google、マイクロソフトの各社がイベントにおいて、チャットボットに対するサービスや製品を発表したことも大きく影響しました。
- マイクロソフト:Build2016 : Microsoft Bot Framework
- Facebook: Messenger Platform at F8
- Google: I/O: Building the next evolution of Google
2017年はAmazon、GoogleなどがAIスピーカーを販売開始しました。AIスピーカーは音声入力に対して、アプリケーションやハードと連携したアウトプットを出しますので、その仕組みはチャットボットを介したツールといえます。
チャットボットはホームページにも実装ができ、またFacebookメッセンジャーなどのメッセージングアプリにも簡単に実装することができたので、世界に先がけてアメリカでチャットボットの利用が増えていきました。
ビジネスにチャットボットを利用するメリット
ここ最近チャットボットが注目され、多くの場面で用いられるようになってきたのには、ビジネスシーンでAIの活用が広がってきたことが関係しています。またクラウド技術の発達で大量データを安価に収集し、解析できるようになったことも影響しています。
チャットボットをビジネスで利用することで、得られるメリット例をあげてみましょう。
カスタマーサポート業務や受付業務での、時間および経費削減
人が個別対応をしていたサポート業務では、頻繁に聞かれるかまたは想定される質問についてチャットボットが回答を提供すれば、人の時間は重要かつ難解なサポートへの対応にフォーカスできます。あるいは受付にPCを設置し、そこに設置したチャットボットが来客対応をすれば、受付の人件費が削減できます。
ユーザーとのコミュニケーションが増える
ユーザーはチャットボットから必要な回答を即座に受け取れ、しかも相手が生身の人間ででないという気軽さから、質問しやすくなります。つまりチャットボットで今すぐに回答を得たいというユーザーの要望に応えたり、問い合わせするほどではないとユーザーが考えていた質問を引き出したりできるわけです。その結果ユーザーとの頻繁なコミュニケーションが見込めます。
検索疲れを回避
ホームページには様々な情報が豊富にありますが本当に欲しい情報にヒットせず、ユーザーの不満に繋がることが多々ありますが、チャットボットの活用により、情報収集の方法に大きな変化が起きます。それは検索から質問への変化です。検索スキルがないユーザーでも、自分の質問に即した情報収集が可能になるので、スクロールして情報を探す必要がなく検索疲れを抑制することができるので、顧客満足に繋がります。
こうしてインターネットの爆発的な普及に今一歩乗り切れなかった企業でも、チャットボットであれば比較的導入しやすく、効果も期待できる魅力的なツールなのです。
やはり担当者は必要
新しいシステムを導入する時にはいつでも、担当者は完璧を目指そうをしてしまいますが、チャットボットにそれを求めても、時間だけかかり完璧に至りません。導入したらすべてお任せできて、担当者は不要というような、過剰な期待は失敗の元です。どこまでをツールが対応して、どこからが人の対応かといった明確なルールがないと、チャットボットは有効活用するに至りません。
つまり全てが自動化できると考えず担当者の設置は継続し、ユーザーに面倒と思われる導線設計はしないことが成功への秘訣です。
マーケティング手法の革命
製品に強い興味を覚えたので個人情報を共有しても、直ちに情報を得たいといったユーザーへのリーチは難しくありませんが、問題は大多数のユーザーは最初「弱い興味」しか持っていないことです。
強い興味があるユーザーにターゲットを絞ってプロモーションを展開する企業も多いのですが、その他のユーザーを放置するのも惜しいものですが、チャットボットならこういった弱い興味の人々から反応を引き出して、強い興味へと変化させる力があるのです。
個人情報を入力しなくても、チャットボットに質問は可能ですし、相手が人でないのはユーザーにしても気楽なので、軽く聞いてみようという気になるのです。チャットボットはそういった人々を囲い込むのに向いています。
またチャットボットはユーザーの情報からパーソナライズして、各ユーザーに最適な情報を最適な表現で提供します。ユーザーがどの選択肢をクリックしたのかなどの、ユーザー個々の行動データがチャットボットでは取得できるので、マーケティング活動に利用できますし、その結果弱い興味の人から強い興味の人へ変身させることも。チャットボットはインバウンドマーケティングツールの革命といえるでしょう。
日本の状況は
世界的に見て2016年はチャットボット元年です。しかし当時の日本ではチャットボットを一部のサービスに対してのみ、試験的に導入するにしばらく留まっていましたが、LINE等の普及でチャットがC2Cで一般的になったので、チャット機能を利用する素地が出来ました。2017年になって企業での本番導入も始まったので、ようやく注目されるようになりました。
チャットボットの市場規模、日本では
現在世界のチャットボット市場は年率でおよそ24.3%と急速に成長しており、2025年にはおよそ1400億円に達すると予想されています。
一方日本のチャットボット市場規模は2018年度では24億円、2022年には132億円にまで成長する見込みであることが、日本の調査会社により発表されています。
日本での成功事例
日本でもチャットボットを本番稼働している企業があります。今回は大手企業2社を紹介しましょう。
メルシャンワイン(キリン株式会社)(国内綜合飲料事業)
ワインに特化したWebサイト「ワインすき!」では、ワインに関する知識やワインに合うレシピなどを公開しています。サイト内にはレシピの記事やワインの知識の記事がそれぞれ300以上あり、ユーザーが自分の手で必要な記事を探し出すのが極めて困難でした。
同サイト内に設定されたチャットボットの「オフィシャルアシスタント おしえて!みのりさん」を利用すれば、簡単な質問に答えるだけで、自分に合った記事を提案してくれます。利用者のニーズを探し出し、最適な提案をすることで満足度を向上する役割はもちろん、どのような質問が多いかといった情報を蓄積することでワインの販売戦略にも活用できます。
「オフィシャルアシスタント おしえて!みのりさん」の導入から1週間で会員数を1,000人以上増やすことができたとのことでしたが、2018年12月でその役割を終えました。
H.I.S (旅行代理店)
H.I.SではFacebookと自社のサポートページ内で、チャットボット「おおじろう」を提供しており、ユーザーとのQ&A対応の役割を担っています。また「おおじろう」は営業の役割も務めており、学習した知識を活かしてユーザーが求めていると判断した旅行の情報を提案することで、売上にも貢献しています。
「おおじろう」が対応できない内容には、オペレーターにスムーズに接続するシステムがあるので、ユーザーはストレスを感じることなく利用できます。ユーザーサポート部門で人員を削減し、売上アップのための接客も行い、対応が難しい部分は人が補完するといった、人とチャットボットが共存し生産性向上にも有益です。
今後日本で進むチャットボットの活用場所
チャットボットが自然な会話ができるレベルに達すれば、日本でもB2Cでのチャットボット活用がさらに進むでしょう。チャットボットなら24時間対応が可能で、ユーザーそれぞれに合った対応ができるので、アメリカのようにカスタマーサポート等で広がり、ユーザーと企業の間に新たな関係が構築されるかもしれません。
明るい展望
日本でもチャットボットの活用範囲が今後さらに広がる理由には、次の背景があります。
- 2020年には日本の生産人口が、ピークの1995年より1400万人も減るため、できることは自動化して少ない人員で仕事を回す必要がある
- 日本政府主導の「働き方改革」の開始で、企業には一層の労働生産性の向上が求められる
- LINEやFacebookなどの大手が次々とチャットボット開発プラットフォームを提供するため、導入しやすくなる
- チャットボットの社内利用も進み、顧客対応同様に経費削減が期待される
多くの日本企業では労働生産性を伸ばして収益を確保しようと、チャットボットの導入に向かいますので、チャットボットの普及が進むことは間違いありません。
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