ポイント還元に現金値引き以上の価値はない。[2019年11月]

ポイント還元に現金値引き以上の価値はない。[2019年11月]

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日本の消費税はついに10%になりました。今回は酒を除く飲食料品と、新聞の消費税には軽減税率制度が導入され、さらにはキャッシュレス決済であればポイント還元されるしくみも整い、過去の消費税増税時に起こった、国民の買い控え時期を少しでも短縮しようと日本政府も慎重です。

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日本では好きな人が多い「ポイント還元」。

「ポイント還元」は消費税10%時代で人気ある制度であり続けるのでしょうか。

今回の消費税増税は一様ではない

今回の消費税増税は一様ではない

まず軽減税率制度では、酒を除く飲食料品と、新聞の消費税を8%に据え置かれます。ただし同じ食料品でもテイクアウトや宅配等は8%、外食やイートインは10%と、異なる税率が適用されるため、テイクアウトとイートインの両方のサービスを提供するファストフード業界や、イートインコーナーを設けるコンビニなどでは対応準備に追われていましたが、多少のもたつきはあったといえ、数日間システムダウンするなどの、致命的なトラブルはどちらの店でも回避できたようです。

5%から8%に上がった時代と比べてみると

消費税率を8%に引き上げた2014年には、8兆円を超す負担増となりました。今回の消費税増税では軽減税率の導入などを実施しているため、一般家庭での家計全体では年平均4.5万円、トータルでも2.5兆円ほどの負担で済む見込みです。日本政府が過去から学習した結果といえますね。

駆け込み需要も限定的

現在中東リスクで原油価格が上昇、今後は景気が悪化する可能性が高いので、今回消費税増税に伴う駆け込み需要はあまり盛り上がりませんでした。

消費税8%での最後の3連休だった9月21~23日、高額商品を扱う百貨店では前年比20~30%増の売り上げとなったところもありましたが、住宅はTOKYO2020(東京オリンピック・パラリンピック)後に不動産価格が下落することを想定して買い控えている人たちが相当数いたので、あまり動かず、自動車は老後2,000万円問題が報道された6月以降に多くの人が節約志向に転じたため、需要が落ち込みました。

日用品は増税後に購入したほうが、キャッシュレス決済でポイント還元されることが決まっていたので、その制度をうまく利用すれば、増税後の方がむしろ得になるという心理が働いていたのか、爆発的な売り上げに至らず。

キャッシュレス決済ならポイント還元が

キャッシュレス決済ならポイント還元が

10月1日から新たなポイント還元制度が始まりました。クレジットカード、電子マネーあるいはスマホ決済で代金を支払うと、中小の小売店や飲食店は代金の2%か5%のポイント還元が実施されるというもので、2020年6月まで実施されるというもの。

このポイント還元事業の対象となるのは、資本金が5000万円以下などの条件を満たした中小企業で、なおかつ事業に参画する手続きを済ませた店舗で、政府の補助を受けられます。10月1日時点で約50万店が登録しています。

キャッシュレス決済なら何でもポイント還元されるのではなく、ポイント還元の対象は決済事業者に任されているので注意が必要です。

政府の目論見は

日本政府では2025年までにキャッシュレス決済比率を40%まで高めることを目指していますが、現金主義が根強い日本にあっては、政府のテコ入れがあっても、他アジアでのキャッシュレス決済比率には到底追いつけるものではありませんでした。

そこで今回の消費税増税で、日本政府はポイント還元という差別化で、キャッシュレス決済を一気にメジャーにするという、大きな舵きりをしたのです。

キャッシュレス決済がブレイク開始

キャッシュレス決済がブレーク開始

10月1日電子マネーやスマホ決済の大手では、揃って新たなポイント還元サービスを始めましたが、キャッシュレス決済がすでに急拡大しています。

ファミリーマートでは10/1~6でのキャッシュレス決済の件数が、前年同期から60%増えるなど、コンビニ各社で順調な滑り出しです。またJRの電子マネーのSuicaのウェブサイトの9月の登録数は、前月の14倍をマークしました。

Suica

対象のお店でJRE POINT WEBサイトに登録したSuicaで買い物をすれば、2%のポイントが還元され、またJRE CARD優待店やJREMALLで、JRE CARD払いで還元率が5.5%になる。

PASMO

ポイント還元を受けるためには、専用サイトにアクセスして事前登録が必要。対象店舗でPASMOで支払いをすれば、2%または5%のポイント還元が。

PayPay

まず11月30日まで第一弾「まちかどペイペイ」を実施。還元制度の5%に加え、PayPayがさらに5%を上乗せして、計10%のポイント還元が受けられる。ただし「まちかどペイペイ」のキャンペーンポスターが貼ってない店舗では、追加の5%の付与はないので注意。

LINE Pay

5%のポイント還元に加え、月10万円以上の決済でポイント付与率が2.0%になる「グリーン」のマイカラーだと最大で計7%還元になる。

楽天ペイ

従来のポイント還元に加えて、11月1日まで『セブン-イレブン』で楽天ペイを使おう!導入記念キャンペーンを開催。セブン・イレブンで楽天ペイを利用して711円(税込み)以上支払うと、楽天スーパーポイント150ポイントが付与される。

ポイント還元は得なのか

ポイント還元は得なのか

10%ポイント還元と現金値引きで1割引ではどちらが得なのでしょうか。ポイントを金銭と見なして、同じ値引率(還元率)で比較してみると、実は現金値引きの方が得です。

例を挙げてみましょうか。家電量販店のA社では10%ポイント還元。Aの競合であるB社は10%現金値引きとします。10万円のテレビを買うと、どちらの店でもまず10万円払います。

ところが買った後、

  • A社では10万円の10%、つまり1万円分のポイントが付きます
  • B社は現金で1万円の提供があります。

A社でもらえる1万円分のポイントは、原則A社でしか使えず、現金に換えられないので、ポイントで得た1万円はいずれA社で使うことになりますよね。

つまりA社で使うお金は「自分が払ったお金10万円+お店がくれた1万円」なので、トータルすれば11万円です。その内の1万円分はお店がくれたポイントなので、全部で11万円使った内の1万円がタダになるわけですから、割引率は

1万円÷11万円で約9.1%

これに対してB社では10万円支払った後に現金で1万円くれるので、

1万円÷10万円が割引率となり10%

つまりどちらも1万円お得にはなりますが、B社では10万円しか使わなくてよいのに対して、A社では11万円の買い物をするのです。

割引率で見ればどちらが得かは一目瞭然ですよね。

損得の問題だけではない

安くなる方にお客は集まると思いがちですが、そうともいいきれない事実があります。あるスーパーマーケットで行なったID付きPOSデータを用いた分析によれば、1%の値引きで3.3%の販売増加をもたらしましたが、1%のポイント還元は12%の販売増加になったことがわかりました。つまりポイント還元では、現金値引きの3.6倍の販促効果があったというわけです。

現金値引きの方が得なのはわかっていても、ポイント還元の方が好きな人が多く、もっと突き詰めてみれば、ポイント好きな人には保有効果という傾向にあるのです。

保有効果とは自分が持っているものには、高い評価をしがちになること。10万円の買い物をして1万円を現金で返してもらえたら、お金を受け取ったその時はうれしいですが、いったんそのお金を財布に入れてしまえば、他のお金と一緒になってしまうので、いつの間にか使ってしまい、1万円の現金値引きがあったことさえ忘れてしまいがちですよね。

ポイント還元の場合は、ポイント残高を確認すると預金通帳を見るのと同じような気分になり、貯まっていくポイント数を眺めながら、心の中で決めた目標数までポイント数が増えるのは、ワクワクするもの。そしてそれを楽しみにしている人は多いはずです。つまり得をするだけのためにポイントを貯めているわけではないといえますね。

余分な買い物をしがちなポイント還元

その品物が気に入ったので買う、そして買うならどこでどの方法で買えば一番安いのかを確認することが、本来重要です。ところがポイント還元があれば、そのおまけ欲しさに余分な買い物をしてしまうことも。このおまけであるはずのポイント還元が、品物を選択する時の基準となってしまうになってしまうことを、行動経済学では選好の逆転と呼びます。まさにポイント還元をやっているお店の戦略通りの行動を繰り返してしまうことって、身に覚えありますよね。

値下げで対応するファストフードも

日本ケンタッキー・フライド・チキン(KFC)では、オリジナルチキンの価格を、テイクアウト、イートインを問わず、税込み250円に据え置くことを発表。それぞれの本体価格(税抜き)はテイクアウトが231円、イートインが227円になるので、イートインは実質的に値下げをすることになりました。

これはKFCが一商品あたりの利益を削っても、わかりやすい価格にしたほうがメリットが大きいと判断した結果です。同じ商品でありながら、イートインとテイクアウトで価格が異なるのは、客の判断を迷わるし、テイクアウトと言って購入しながら、店内で食べてしまう客の対応で、客と揉めるのも面倒ですからね。牛丼の松屋フーズも、店内で食べる場合とテイクアウトを同一価格に決めました。

KFCは昨期増収増益、松屋は6期連続で増収ということで、業績が好調の両社だからこそ、実質値引きにつながるような戦略が取れたともいえますし、マーケティング戦略の一環として見ても、わかりやすい価格設定が、業績好調にもつながることを見越しているのでしょう。

競争力を維持する方法

競争力を維持する方法は2つあります。値上げしたから、値下げしたということに起因していません。

1つ目は、ロゴやパッケージをリニューアルしてイメージの刷新をしたり、「今だけの限定XX個」など差別化要素を付加するなどの、新しいトレンドを取り入れ、商品のマイナーチェンジをすることが挙げられます。

2つ目は商品ラインナップの拡張です。例えばカルビーのポテトチップは様々な味や、ご当地もののサブブランドを展開しています。パッケージのリニューアルと同時に、味などのバリエーションを増やして、消費者が飽きない工夫をすることが大事です。

この2つの方法を取り入れつつ、ポイント還元で色を付けることで消費者を楽しませながらこの消費税増税を浸透させるのも、企業の大事な戦略になりますね。

ポイント還元の今後

ポイント還元の今後

順調な滑り出しを見せているポイント還元制度ですが、中小店舗側からはポイント還元を行なっている周知が進まないために、導入効果が見られないという苦情が相次ぎ、また消費者からは対象店舗ごとの還元率などの表示が正しくないという指摘が出ています。

そこで消費税10%の開始から4日後の10月4日に、経産省では様々な課題に対する解決を示した、キャッシュレス・ポイント還元事業に関する今後の対応を発表しました。

実質の還元率は計5通りと複雑。しかしキャッシュレス決済に対応できなければ廃業しなければならないと、決死の覚悟で取り組む店舗も多いので、店舗側が安心して対応できるように、日本政府の支援は引き続き必要です。

ベルマークの昔から、得をしないとしてもポイント集めが好きな日本人。ポイント還元の成功が新たな社会システム構築の鍵となると考えられますので、注目していきたいですね。

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