AIによって、海賊版は駆逐される?

AIによって、海賊版は駆逐される?

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漫画雑誌の象徴といわれた集英社発行の週刊少年ジャンプの発行部数が、最盛期の653万部から最近200万部を切りました。そのライバル誌の講談社週刊少年マガジンも、400万部超から現在は100万部を割る状況です。

少子化や人気作の相次ぐ連載終了、正規電子版コンテンツの充実など、発行部数の減少には様々な原因がありますが、増え続ける「ネット上の海賊版」の影響が大きいことは否めません。

海賊版という言葉はインターネットが登場する前からありますが、インターネット上の海賊版つまり海賊版サイトとしては、2018年に月間の延べ閲覧回数が1億回を上回る違法アップロード漫画と広告だらけの「漫画村」のような巨大サイトが現れ、出版業界はもちろん通信業者や政府までも巻き込んだ大きな社会問題となりました。

一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構の推計によると、その被害額は国内の出版業界だけでも約4,300億円に達していると言われています。現在では海賊版サイトの存在に加えて、不正な動画の投稿などの著作権侵害も深刻です。

海賊版を見つけたら早急に潰すという従来の対応では、限界が見えてきました。そこで期待されて登場したのが、AIを活用するソリューションです。

違法コンテンツを効率的に発見し削除申請するサービスにより、いたちごっこの撲滅に向けての取り組みが始まったのです。

今回はAIが果たして海賊版を退治できるのかを確認してみたいと思います。

海賊版とは

もともとの定義は著作権に関する国際条約の、ベルヌ条約万国著作権条約などで保護されている著作物を、著作権者や原出版社の許諾なしに他の条約加盟国で複製、あるいは出版された印刷物のことで、図書の場合は著作権侵害本とも呼ばれています。

もちろん海賊版の対象は図書だけではなく、CD、ブルーレイ、ソフトウェアなども含まれますし、国内での無断複製、出版のことも海賊版と呼びます。

しかし海賊版と言われて現代人の多くが思い浮かべるものは、著作者の許諾を受けることなく著作物をコピーして、インターネット上で公開、共有する海賊版サイトのことです。漫画、アニメ、動画はもちろんのこと、音楽ダウンロード配信も含まれます。

インターネット技術の急速な進歩とともに大掛かりな組織がらみでなくても、一介のインターネット利用者がほんの軽い気持ちで海賊版の提供を簡単に始められる土壌が今ではできあがっているのです。

海賊版に手を出してしまう理由

インターネット利用者が違法データと知りながらも海賊版に手を出しても、罪に問われることはありません。特に静物画である漫画は自分で楽しむだけが目的ならば、海賊版をダウンロードしても今の所は合法です。

海賊版データのダウンロードした事実が発覚して罪に問われるのは、違法アップロードされた本来有償の録音(音声)や録画ファイルを、違法アップロードだと知りながらダウンロードする場合です。しかし違法にアップロードされた映像・音楽だとしても、ダウンロードせずにストリーミングで見聞きしている分は違法ではないのです。

同じものが無料で利用できておとがめなしなら、手を出してしまう利用者が多くても仕方ないのかもしれません。

日本政府の苦悩

2018年に日本政府の知的財産戦略本部では、特に悪質な

  • 漫画村
  • Anitube
  • Miomio

の3つのサイトへの接続を、通信会社が遮断しても違法ではないと表明しました。

さらにブロッキング(接続遮断)の早期法制化にむけての有識者会議を行いましたが、法律家や通信事業者を中心に「ブロッキングは憲法の保障する通信の秘密を侵す恐れが強い」と異論が起こり、結局法制化は時期尚早と判断され、断念されたのです。

しかし出版業界から海賊版対策を求める声は依然として強いため、日本政府では広告出稿の抑制を促すなど、ブロッキング以外の方法による海賊版への総合対策を策定しました。

総合対策の詳細は次の通りです

  • 出版社横断型による事業者間協力の構築(正規サイトのプロモーション)
  • 海賊版サイトを検索できるサイト(リーチサイト)の規制
  • 漫画のダウンロードの禁止を目的とした著作権法改正
  • 海賊版サイト運営者の収益である広告の出稿抑制のため、広告団体との協議推進

この著作権法改正に向けては日本政府は通常国会に改正法案を提出する方針です。事業者間協力を促し、利便性の高い正規版サイトの構築と広告出稿の抑制こそが、現実的な海賊版対策となると考えているようです。

人海戦術では海賊版に立ち向かえないが、その放置もできない

人海戦術では海賊版に立ち向かえないが、その放置もできない

出版業界が政府にSOSを出したのは無理もありません。海賊版退治がもはや出版社やテレビ局の手に負えなくなってしまったからです。多くの企業では監視に人手を割く余裕がなく、読者からの連絡で違法投稿に気づくことも多い有様です。

海賊版サイトを発見し速やかに摘発しても、数週間後には別の場所にアップされるといった状況が続き、その手口は年々巧妙化しています。

さらには投稿アプリの普及により、海賊版のみならずインターネット利用者個人が配信する動画の監視も必要となり、お金の面でもマンパワーの面でも、もはや対応が不可能な状態なのです。

現在日本語で読める海賊版漫画サイトは100以上存在し、なおも増え続けています。他人の著作物を横取りする海賊版の著作権者等に対する権利侵害をこのまま放置し続けたならば、日本のお家芸の代表ともいえるコンテンツビジネスの産業基盤が崩壊し、今後良質なコンテンツを生み出し続けることができなくかもしれません。

AIの取り組みが始まった

AIの取り組みが始まった

イー・ガーディアン

インターネット上のリアルタイム投稿監視業務で、月間1000万件以上の実績を持つイー・ガーディアンは、動画に含まれる音声データをリアルタイムに解析し、海賊版などの違法コンテンツを発見するサービスの開発に着手しました。音声認識AI開発の第一人者であるHmcommとタッグを組み、2019年内のロールアウトを目指して技術開発を急ピッチで進めています。

イー・ガーディアンでは今後は文字や画像だけでなく、人間が話す内容も監視対象となると確信して開発を進めているようです。日本語は他の言語と比べ同音異義語が多く、主語を省くことが一般的なので、音は同じでも発言者や文脈次第で悪質かどうかの判断は揺らいでしまうものですが、同社では現在1,000人規模で監視作業に対応し、動画から映像と音声を切り出し、個別に解析するAIを活用して監視の効率を高める計画です。

弁護士ドットコム

法律相談サイトを運営する弁護士ドットコムでは、違法コンテンツの円滑な削除サービスに着目しました。2019年5月に提供を開始した「弁護士ドットコムRights」サービスでは、米国のデジタルミレニアム著作権法(DMCA)に準拠した削除申請ツールを提供します。

Youtubeなどの動画サイトは同法に基づき、著作権者による削除申請を受け付けていますが、手続きが煩雑なため申請数が伸びず、違法動画の増えるペースに全く追いつけていないのが現状なのです。

その状況を鑑みた弁護士ドットコムでは社内弁護士の知見を生かして、専用の削除申請ツールを開発しました。それはインターネット上の違法コンテンツを調査メンバーが抽出し、出版社などの著作権者がその内容を確認すれば簡単に削除申請できるというもの。

現在インターネット利用者が「漫画 無料」と検索すると、出版会社の公式サイトではなく海賊版が上位に表示されることもありますが、削除申請がツールを使って簡単にできるようになれば、検索上位から海賊版を排除できるかもしれないため、海賊版退治の大いなる前進になると、多くの出版会社では削除申請ツールに大きな期待を寄せています。

しばらくは人間の目視に頼る部分が多くなるようですが、同社では近い将来に機械学習などAI技術を活用し、より短時間で検索できるようにする予定です。

プラットフォーマーの対応は

GAFAなどプラットフォーマー各社でも、海賊版サイトに対する独自対策を行なっています。米Facebookではフェイクニュースや差別をあおる文章、暴力的な画像などの不適切な投稿を防ぐためにAIを活用しています。また米グーグルでは2018年に同社の規約に反する悪質なインターネット広告をAIの利用により23億件削除しました。

米マイクロソフトでは以前から海賊版に対する取り締まりに注力しています。同社が2006年にeBayと共同で行なった、著作権侵害と思われるソフトウェアのオークションの取り締まりで、その件数は年間およそ5万件に上るものでした。当時はソフトウェアのメディアに関するものでしたが、現在は海賊版サイトに軸足を移し、AIなどの技術を使った対策を行なっています。

いたちごっこは続く

オリジナルの漫画村は2018年に消滅しましたが、今年になって漫画村が復活したという情報がSNSに流れ始めて言います。一部ではその情報を悪用した詐欺まがいのDMも配信されたようです。

今年ほぼ同時期に2つの漫画村的違法サイトが立ち上がっていた事がわかりました。この2つのサイトがまた閉鎖されたとしても、同様な違法サイトが現れ続けることは想像に難くないでしょう。

今後の見通し

次世代の高速通信規格「5G」の商用化を背景に、漫画同様に動画の投稿が増えるのは確実と考えられますので、海賊版を排除する技術に対するニーズはさらに高まることは間違いありません。

海賊版は潰すべきではなく、企業は正々堂々とビジネスで競争して勝つべきであり、法的措置や閉鎖させる対応には意味がなく、それどころか逆効果という考えを表明している有識者もおられるようですが、ロジックより良質の正規コンテンツの企業を確実に守るのが先決です。

早期の海賊版退治に今後AIはなくてはならないツールとなりますので、日本政府でもAIの活用を積極的に支援することでしょう。その上で海賊版を生業とする業者がどう対抗してくるのでしょうか。

日本政府は海外のオンラインカジノや仮想通貨交換所、ダークウェブ上での違法薬物や偽造身分証、ネット上での臓器や人身売買など、海賊版よりもさらに悪質で社会的影響が大きな違法行為への対抗策をも早急に講じる必要があることを最後に言及したいと思います。

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