ニューノーマル到来。ECはライブコマースが席巻する。過去、日本で定着しなかったのはなぜ
2020年夏、有効なワクチンが確立していない現在、新型コロナウイルスは収束することなく世界に蔓延し続けています。日本でも再度感染者が増え続けているのは周知のことです。
たとえコロナ感染者が減少したとしても、今後我々の日常生活に新たな常識を作り、行動していくことが求められます。そして今まで行われてきた企業の営業活動にも、制約が加えられるのは仕方ないことですが、急激な変化の中どのように企業活動を進めればよいか、悩める日本企業の経営者も多い。
【合わせて読む】
●TikTokのブレークから見る、動画SNSの近い将来。
●有名ユーチューバーの笑いと涙。本当に小学生が目指すべき仕事か
●D2Cが販売を変える〜新たな慣習を創る時
With コロナ/アフターコロナでは生活様式の変化が求められ、従来型の販促・購買行動の常識をくつがえした「ニューノーマル」という言葉がうまれ、企業各社はその対応に日々追われています。
目次
実は三度目のニューノーマル
ニューノーマル (New Normal) の定義は、社会的に大きな影響を及ぼすことが世の中に変化をもたらし、新しい常識や常態を生み出すことです。中国では2014年に「新常態」(中国語: 新常态)と称されたことで知られました。
ニューノーマルで新しく常識となる内容は、以前は常識でなかったことです。急激な変化がこれまでの常識を無効にし、それに変わり新しい常識として共有されるのが、ニューノーマルとなります。
ニューノーマルはこのたびのコロナ禍で、新たに生まれたわけではありません。過去にも2度ニューノーマルが登場しました。
第一のニューノーマル:
アメリカでITバブル後の2003年に、ベンチャーキャピタリストのロジャーマクナミーが初めてニューノーマルという用語を使用(ネット社会の到来による変化によるもの)
第二のニューノーマル:
ビジネスや経済学の分野において、リーマンショックを含む2007年から2008年にかけての大景気後退の後での世界金融危機のタイミング(行き過ぎた資本主義に対する反省から)どちらも変化した世の中で生き残るために必要な課題と、その解決策を示すものでした。そして今コロナ禍により、3度目のニューノーマルが求められているのです。
日本では定着が難しいといわれてきた自宅勤務がほぼ全ての企業で実施された後、一部でオフィス解約の動きも見られています。あるいは会議、教育、コンサート、劇場などのエンターテインメント産業では、オンライン対応が必須に。アフターコロナでも、我々の日常生活では引き続きニューノーマルが常識になると考えられます。
ニューノーマルを促す変化した消費者との関係
三度目のニューノーマルでは、事業者と消費者との関係も変えました。ソーシャルディスタンスを順守することが、感染防止に大きく寄与すると言われるため、次の変化が見られたのは周知のことです。
- 接客の抑制。店員は手袋、マスク、フェイスシールドなどを積極的に活用
- 試食販売や実演販売など、濃厚接触のリスクが高い手法は中止
- スマホ決済などキャッシュレス決済の推奨
- 実店舗の休業や、営業時間の短縮
そこで多くの消費者はAmazonや楽天などに代表されるECサイトを利用して、時間制限なくさまざまな商品やサービスを購入するようになりました。
飲食店ではテイクアウトやビジネスチャンスを求め、あるいはUber Eatsや出前館などの宅配デリバリー業者やタクシー会社と協業し、デリバリーで収入を得るといった動きも。
対面でのプロモーションができない今、自社の商品やサービスの魅力を、文字や映像などで伝えるノウハウを持たない企業は、もはや生き残れない可能性が大です。
ライブコマースとは
ECのニューノーマルの代表格がライブコマース。ライブコマースとは、ライブ動画を見ながら商品を購入する方法です。一方通行のテレビショッピングと異なり、視聴者は出品者・販売者に対してリアルタイムで質問やコメントをしながら買い物ができるライブコマースが台頭してきた背景に、2つの要因が考えられます。
1 ライブ動画が流行っている
2020年6月にサザンオールスターズが、日本のライブ配信メディア 8つ
- ABEMA
- GYAO!
- 新体感ライブCONNECT
- PIA LIVE STREAM
- U-NEXT
- LINE LIVE
- ローソンチケット「O-チケ」
- ファンクラブのサザンオールスターズ応援団
を通した、無観客コンサートの配信ライブで18万人集め、その売上は6億5,000万円に上ったというニュースは記憶に新しいですね。その成功を見たYoutube、Instagram、Facebookなど海外大手でも日本対応のライブ配信機能を追加し、動画を配信できる環境自体が、急速に整えられてきました。
2 ライブ独特の臨場感と身近さが受け入れられている
ライブ動画の臨場感、緊張感を好むユーザーが若者中心に増えています。しかもライブでコメントをすれば、折り返し返事がもらえたり、自分の名前を呼んでもらえることもあり、リアルタイムのコミュニケーションが楽しめるのも、通常のECサイトにはない魅力。シナリオ通りにライブが進まないライブコマースが、新しい楽しみ方をユーザーに与えているのです。
ライブコマースの先駆者中国
中国ではすでにライブコマースが受け入れています。そのマネタイズの動きも極めて活発で、2017年にスタートした中国のライブコマースの市場規模が、すでに1.5兆円に到達する見込みです。
中国のライブコマースのプラットフォームは20-30ほどありますが、その中でアリババの淘宝直播(タオバオライブ)、テンセントの資本が入るKuaishou(快手)、そしてバイトダンスのDOUYIN(中国版TikTok)がビック3。
618セールのレコード
独身の日セール(11月11日)と並ぶ、中国ECイベントの618セールでは、コロナ禍で落ち込んだ消費が、どの程度挽回できるのかが注目されましたが、驚くべき数字が発表されました。
アリババグループでは、618セール期間の受注額が6,982億元(約10兆6000億円)。もちろん消費の復活を推進したい中国政府の支援もありましたが、これは2019年の独身の日セールの、2.6倍という好成績でした。その他のEC企業でも例外なく好成績を収めた理由には、ライブコマースの盛況が挙げられます。
コロナ禍での変化
中国のライブコマースに、コロナ感染が3つの変化を与えました。
1 ライブ配信者の増加
もともとEC先進国でもあった中国。都市部がコロナ感染のためロックダウンとなり、実店舗で購入していた生活必需品も、ネット購入へのシフトを余儀なくされましたが、臨場感あるライブコマースなら、実店舗の雰囲気も残しながら買い物ができるとあって爆発的に普及。その結果ライブコマースをやっていない人を、中国で見つけるのは極めて困難となりました。
2 技術革新
ライブ中に時間限定で使用できるクーポンを出したり、「みんなでカウントダウンしよう、3.2.1!売り出し開始!」とイベントのように盛り上げられるのは、ライブコマースのメリット。ユーザーが急速に増えたことで、各社競うように先端技術を導入したので、より盛り上がるライブが可能となりました。
3 マーケティングでの積極活用
ライブ中にプロモートしている商品のリンクを貼り、そこにアクセスがあれば効果測定も見える化できるため、マーケティング部門もコンバージョンレートに則った予算が組みやすい。ライブコマースがマーケティングツールとして認識されたということで、さらに盛り上がりを見せているのです。
中国ライブコマースの新たな取り組み:日本から生中継
中国のライブコマースは、日本でも活動を始めています。日本からライブ中継を通じ日本の化粧品や日用品などを、中国の消費者に直接売り込むというもの。訪日中国人客が激減し、日中間でのビジネスを行なっていた企業の仕事が軒並みストップしたので、コロナ禍の中国で火が付いた、ライブコマースを活用した販売手法に商機を見いだそうとしているのです。
例を挙げてみましょう。ライブ配信を開始した2人の日本人女性が、自撮り棒を持って流行の発信地である、原宿の表参道や、竹下通りを散策し、その模様を中国の動画投稿アプリ「快手(クアイショウ)」でライブ中継を行い、その後配信した動画に関連した商品を、数時間ライブコマースで売り込むのです。
中国にいる視聴者は好みの商品があれば、快手の画面上にあるカートのアイコンを押せば注文完了。商品について質問があれば、チャット機能でリアルタイムで聞けます。日本での観光と買い物が、バーチャルで同時に行えるというので人気上昇中です。
日本の商品は品質が高いので、信頼して購入できるとして中国の消費者に人気があるので、日本から中国へのライブコマース市場は、2020年中に約2兆円に達するのではという見方もあります。
また日本人による紹介ライブの方が、中国視聴者の反応が良いのも興味深い。中国のネット通販はニセ物も多いので、日本人が商品を選んで紹介していることが、安心感を生んでいるのだそうです。
日本では定着しにくかった理由
日本でも増加傾向にあるライブコマースですが、今まで爆発的に広まらなかったのには理由がありました。商品が売れない出品者・配信者の割合が大きかったのです。売れない人が多い理由は、日本の視聴者とコミュニケーションを取るのが概して難しいからで、要は話し下手が多いということ。ライブ配信で商品の説明をしても、愚直に専門的な話に終始してしまい、視聴者が本当に知りたい情報ではなかったりするパターンが多かったのです。
ライブコマースでは、配信者のファンだからともかく買ってみようという購買行動が起きることも大いに考えられるのですが、特定のファンがいないうちは、配信者の看板だけでは販売につながらない。
しかし日本の商品やサービスは、間違いなく評価が高いので、実際に使ってみてその便利さを実感する人も少なくありません。ファンが増える配信をすることができさえすれば、売り上げに貢献できるはずです。
中国で蓄積された運営ノウハウを、今後日本企業でも早急に会得することが、ライブコマースの普及に重要と考えられます。加えてライブコマースのプラットフォームを提供する企業と配信者の連携や、プラットフォームとしての付加価値の向上、さらに売れる人を育てる環境を作り出すことが、成功には必要なことでしょう。
今年は大量のデータ通信ができる5Gのサービス開始となることも、ライブコマースの追い風になりそうです。
With コロナ・アフターコロナで実店舗はどうなるか
今まで日本企業で正式採用が考えにくかったリモートワークや、ハンコ紙文化主導のワークプロセスでさえ、コロナ禍で状況が大きく変わりました。この流れの中、購買活動の主流がライブコマースに変わることがあっても不思議ではないでしょう。
万一ライブコマースの利用者数が、実店舗のそれを逆転したとしても、実店舗がゼロになることは現段階ではありえませんが、今後実店舗に求められるものは、その時その場でしか手に入らない特別な商品やサービスの購買、対面で実際に言葉を交わして信頼感や安心感を得る満足感などが考えられますが、先端技術の進化に伴い実店舗の存在価値がますます問われることになるでしょうね。
【合わせて読む】
●TikTokのブレークから見る、動画SNSの近い将来。
●有名ユーチューバーの笑いと涙。本当に小学生が目指すべき仕事か
●D2Cが販売を変える〜新たな慣習を創る時