燃料電池自動車は「カーシェア」と相性がよい。
2014年にトヨタ自動車が発表したMIRAIは、世界初の燃料電池自動車(Fuel Cell Electric Vehicle =FCEV) 。水素を燃料にしているので、環境にも優しいと評判は上々でしたが、それから5年目の今MIRAIの累計販売台数(全世界対象)が約5,000台にとどまっているのは残念です。外車並みの価格と水素ステーションの数が増えないゆえの現況といえます。
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しかしこのFCEVをカーシェアに活用しようという動きが、東京都の号令で現実になりつつあるのです。
目次
FCEVとは
FCEVは水素を燃料とする自動車で、水素と酸素を化学反応させて電気を取り出し、それを自動車の動力として利用します。FCEVが走行時に排出するものは実質的に何と水だけ。つまりFCEVは排気ガスや二酸化炭素などの有害物質を排出しないので、環境保護の観点から優れものといえます。
EVと比べてみると
電気自動車(EV)には技術の迅速なコモディティ化、コスト、熱効率という点で大きなアドバンテージがありますが、FCEVの圧倒的な強みは、実時間3分程度という燃料補給時間の短さです。その他大量の燃料貯蔵が容易で大量輸送に向く点、水素を発生させる一次エネルギー(自然のままで変換加工されてないエネルギー)の有効利用にまで期待できるというのも特徴です。
FCEVの強みを生かせるような基盤技術やインフラが整えば、EVとの住み分けができる可能性は大いにあります。
水素ステーションが増えていないのが最大のネック
FCEVにとって水素ステーションとは、ガソリン車のガソリンステーションです。これがなければFCEVは燃料補給ができません。
燃料電池実用化推進協議会の調べでは、2019年8月現在全国の商用水素ステーションの数は、31都道府県で120ヵ所程度。そのうち1/4以上はトラックに水素供給システムを搭載した移動式ステーションです。どういうことかといえば、同じトラックが複数のスポットを巡り、スポットごとを1ヵ所とカウントしているにすぎないため、全国にあるガソリンスタンド総数の29,000超に比べたら、実際の水素ステーションの数は微々たるものです。
しかも24時間、年中無休のところはほとんどなく、標準的な営業時間はお役所なみ。さらに「設備点検」で突然臨時休業になることも少なくないのが現状です。
また水素製造から走行までのトータルしてみたエネルギー効率が低いことが、FCEVの普及に大ブレーキをかけています。石油やガスを一次エネルギーとして水素を作る場合では、最近効率の上がったエンジン車にも負けかねないのです。
ようやく動きが
日本政府では2014年から水素エネルギーの開発に取り組んでおり、水素を活用した社会システムを構築するため、FCEVの普及に向けた水素供給インフラの整備支援を推進する方針を発表しています。
東京2020(オリンピック・パラリンピック)に向けて、東京を中心に100台以上のFCバス導入が予定されており、東京都が水素社会のトップランナーであることを世界にアピールしようと目論んでいるようです。
解決が急がれる水素ステーション不足の解消に向け、自動車業界、エネルギー業界、政府系金融機関の3者が共同で取り組むことになりました。2018年2月にトヨタ自動車、Honda、JXTGエネルギー、岩谷産業、政策投資銀行など11社が水素ステーション整備の推進を主タスクとする日本水素ステーションネットワーク合同会社、別称ジェイハイム (JHyM)を設立したのです。
ジェイハイムでは、2022年までに水素ステーションの数を全国160ヵ所とすること、都市部にしかない水素ステーションを全都道府県に広く増やしていくことが目標とされています。
2019年現在参画企業は23社となり2020年開設予定を含めると、2018年から33の水素ステーションが新たに生まれましたが、あと3年でどこまで増やせるが今後FCEVの運命を決めることでしょう。
カーシェア活用で期待できること
自動車検査登録情報協会によれば、2018年度末時点での日本のFCEVの保有状況は、全国で乗用車2,440台、バス8台、トラック1台の計2,449台。EV保有総数の93,145台に比べ、大きく水をあけられています。そしてFCEV保有者の大半が行政、法人で、いまのところ個人がFCEVのオーナーになるのは富裕層かよほどのカーマニア以外では非現実的のようです。
普段の生活は公共交通機関を利用し自動車に乗るのは土日だけなので、駐車場代など維持費もかかる自動車の保有を敬遠する個人ドライバーの数が年々減少しています。一方で必要なときだけレンタカーやカーシェアを利用する人が増えています。特にカーシェアは短時間でも利用できるので、レンタカーより需要が高まっているのです。
今個人ユーザーを増やすのは難しくても、FCEVをカーシェアに活用できれば、自動車メーカーでは販売台数を増やすことができるし、カーシェアでFCEVを利用したユーザーがファンになってくれたら、FCEVのブランドイメージが向上させられるというものです。
東京都とオリックス自動車が動いた
東京都環境局が実施する「レンタカー・カーシェアリングにおけるZEV(ゼロエミッションビークル=EV, FCEVを指す)導入促進事業」で、オリックス自動車がFCEVの事業実施者として決定したことを受けて、東京都とオリックス自動車が2020年1月から、都内でFCEVを活用したカーシェア事業を開始することになりました。東京都は都内の新車販売に占めるZEVの割合を、現在の約2%から30年までに50%へ引き上げる目標を掲げています。
当事業は都民が手軽な料金でZEVを利用できる機会を作り、ZEVの普及を促進することが目的としています。カーシェアリングやレンタカー事業を通じて東京都と事業者が協業し、都民にサービスを提供するもので、東京都が運営費を一部負担することが決まっています。
オリックス自動車のオリックスカーシェアではMIRAIをカーシェア車両として、2020年1月より都内に36台配備し運用すると発表しています。言うまでもありませんが、MIRAIの導入はカーシェア業界初です。このカーシェア事業でのMIRAIの利用料金は
- 15分150円
- 6時間2,800円
- 12時間4,200円
- 24時間5,400円
距離料金は1kmあたり15円。同タイプのガソリン車のカーシェアは時間料金で15分当たり通常200円なのでMIRAIの方が50円安くなる見込み。この価格は2021年3月まで継続される予定です。
HondaもFCEVのカーシェアで前に出た
HondaはカーシェアサービスEveryGo(エブリゴー)のステーションを神奈川県横浜市のTsunashima SSTに設置し、同社の燃料電池自動車である、Clarity Fuel Cell(クラリティ Fuel Cell)を2019年6月から導入しました。
従来の燃料電池自動車では床下に配置されていた、燃料電池スタックや周辺のシステムを小型化し、ボンネット内に駆動モーターユニットとともに集約するという世界初の技術を誇るクラリティFuel Cellは、大人5人が乗れる広々とした居住空間を実現しています。
EveryGoはウェブサイトから会員登録することができます(月会費無料)。クラリティFUEL CELLのカーシェア料金は15分400円-、 8時間 5,780円-。
EVがカーシェアでもライバル?
2019年6月に パーク24は自社が展開するカーシェアサービスのタイムズカーシェアに、EVを本格導入すると発表しました。その中で2020年1月までに100台を首都圏中心に配備する予定。自動車業界の環境負荷低減に向けた動きに合わせ、将来のEV時代の到来に備える取り組みです。
ちなみにタイムズカーシェアは、京都市が行ってきた有料FCEVカーシェア事業を引き継ぐ形で2017年からFCEVでのカーシェア事業もしています。
パーク24が導入するEVは日産自動車のLeaf (リーフ)。2019年8月から導入を始め、10月までに30台、20年1月までに100台体制にする予定で、首都圏から始めて全国に展開していく計画です。
EVをカーシェアで活用する場合、充電時間に要する時間やコスト面などの課題があります。そこでパーク24はEVを配備する拠点に充電器を設置するほか、充電カードを活用し各地の有料充電器を使って充電できるようにし、また電池残量に応じて予約可能時間を変動させるなど、ユーザーが安心して利用できるように配備する予定です。また一部の車両ではWi-Fi環境を整備するなどEVならではのサービスも検討中です。
自動車メーカーのFCEV動向
1990年代初頭に早くもFCEVの試作車を発表し、「これからはFCEVの時代だ」と社長自ら宣言しダイムラーが、突如FCEVの開発の放棄(延期)に動いたのです。その後にフォード、日産・ルノー連合でも、FCEV開発に関する合弁事業を解消し、FCEVの商用化を凍結したのです。
諦めないトヨタ
FCEVから手を引く自動車メーカーが増える中、トヨタ自動車では2019年3月より国内初のの燃料電池バス(FCバス)SORAの販売を開始し、さらに8月にはITS機能を活用した新モデルを発売しました。SORAには災害時に電源として利用できる「トヨタフューエルセルシステム(TFCS)」や、全ての人がより自由に移動できるために考えられたユニバーサルデザインと機能を採用されています。
そしてトヨタが誇るMIRAIの次期型モデルを、2020年に発表する方針を固めています。この次期モデルはグローバルで年間3万台以上、うち日本でも年間1万数千台と大幅拡大を目指すものです。
FCEVこそ究極のエコカーであるというトヨタの方針はブレず、2020年代の本格普及を見据えて邁進する構えなのです。
FCEVはカーシェア市場で生き残れるか
インフラ周りがガソリン車と致命的に大きな差があるFCEVは、個人ユーザーを増やす取り組みよりも、まずカーシェアでFCEVの知名度を上げることにフォーカスすべきでしょう。環境対策に一言申すFCEVファンが増えてきたら、状況が変わる可能性大でしょう。
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