6G競争で一歩前に出るには、5Gくらいで浮かれない方がいい
第5世代移動通信システムの略称である5G。現在我々のスマホで用いられているLTEやLTE-Advancedは4G(第4世代移動通信システム)なので、5Gはその先の通信技術です。4Gの1,000倍の高速・大容量、レイテンシー1mm秒以下の超低遅延、従来の10倍以上のデバイスとの同時・多接続を実現し、社会のスマート化を牽引していくインフラ技術なのです。
日本の5Gのサービス開始は来年2020年から予定されていますが、2019年4月には韓国とアメリカが競って開始、そしてスイス、イギリスが相次いで5Gのサービスを開始しました。
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そして2019年11月にはついに中国が。中国の国有通信事業者3社が国内50ヶ所で5Gのサービスを開始し、事前登録した契約者数は1,000万人を超えており、世界最大規模の5Gネットワークになるとみられています。
ところが日本ではまだ5Gのサービスも始まっていないというのに、すでに6Gの研究開発が各国で始まっているのです。
ノーベル賞受賞者や首相なども輩出している、フィンランドのオウル大学が発表した初の6G白書である「KEY DRIVERS AND RESEARCH CHALLENGES FOR 6G UBIQUITOUS WIRELESS INTELLIGENCE」によると、6Gの世界では1テラバイトを瞬時に扱うようなコンピューターが一般化し、スマホのようなデバイスで、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)が誰でも普通に使えるようになり、さらにはそれら全てまとめて実現するXR(Extended reality)まで登場し、現実とバーチャルの境界が今以上に薄くなることが考えられ、2030年ごろには6Gが登場するとされています。
かつて技術大国のひとつであった日本。5G競争では完全に他国の遅れを取りましたが、6Gで世界の先頭グループに入ろうという動きが、民間企業主導で始まっているのです。6Gの今後について考えてみたいと思います。
目次
日本で5Gのプレサービスが(ようやく)開始
日本で開催されたラグビーワールドカップ2019に間に合うように、5Gのプレサービスの開始を予告していたNTTドコモが、公約通り2019年9月に5Gとして割り当てられた周波数帯および商用装置を用いた「5Gプレサービス」を日本で初めて開始しました。
このプレサービスでは2020年春に開始する公式の5G商用サービスと同じネットワーク装置や同じ周波数帯を利用するので本番と同環境を体験できるため、日本での実質的な5Gのスタートと位置付けられました。
しかしながら韓国に遅れること約7ヶ月。
6Gの定義
6Gは5Gに続く次世代通信規格で、ビヨンド5G(Beyond 5G) と呼ばれることも。5Gの登場でデータのダウンロード速度はより一層高速化しましたが、5Gではわずか数年後で、モノを処理する力が限界に達してしまいそうなのです。
今後市場に登場してくるさまざまな分野のIoT製品によって、IoTがより一層複雑になったり、データ需要が大幅に増加すると、ネットワークへの負担が増大する可能性が大きいので、早急に6G実現に向けて動き始める必要があり、世界中の研究機関やネットワークベンダーが6Gを実現させるための技術開発が始められました。
6Gに関する多くの考えはまだ憶測の域を超えていませんが、6Gのほとんどが5Gの10-100倍に向上し、最高伝送速度は1Tbps。これは映画を1秒でダウンロードできる速さです。6Gでのネット遅延は0.1msで、これは人間にほぼ感知されないレベル。そして通信に必要なモジュールがあらゆるものに溶け込むため、バックグラウンドでの通信を意識することなく情報処理が行われるようになることが想定され、これまで一般的には利用できなかったサービスの実現も期待できるようになります。
例えば、米マイクロソフトが開発中の、遠隔地にいる人を3D映像として別の場所に移動させる技術である、Holoportaionの実装が現実のものになる日が近いということです。この技術で必要とする通信量が膨大で4Gでは実現不可能なため、5Gに期待が集まりますが、更にきめの細かい3D映像で実現するには、5Gでもうまくいきません。6Gが実現すると16Kの3D映像も高速で通信できるため、直接対面して話す場合の解像度に近づけられるのです。
このようなコミュニケーションツールだけではなく、6Gはオンラインゲームで高解像度の3D映像をリアルタイムで送信できるので、SF映画のようにネット上のもう一つの仮想世界を体験できるものになるので、ゲーマーに待ち望まれています。
16Kに代表される高解像度の映像が高速低遅延で、触感情報とともに通信することが可能になれば、医療分野における遠隔治療・診察等への活用など、6G活用の可能性が大きく広がることが考えられるのです。
日本政府も動いた
日本政府が5Gの普及を加速させるため、関連設備を前倒しで整備する携帯事業者やケーブルテレビ局などに対し、2020年度から法人税や固定資産税を減税する方向で検討を始めたことが報道され、総務省では5Gの周波数を、2020年春頃には5Gのサービスを静引に開始する予定のNTTドコモ、KDDI (au)、ソフトバンク、2020年から専用回線を本番稼働させる楽天の携帯大手4社に割り当てました。そして2024年度末には万単位の基地局が全国に整備される見込みと、5Gのニュースが花盛りです。
日本ではいまだに5G推進レベルのままという危機感がありましたが、日本政府が2019年12月中旬にまとめる経済対策の中に、「ポスト5G」基金設立が含まれていることが明らかになりました。それは5Gの次世代に当たるポスト5G(6Gに至るもの)の技術開発を進めるため、国内企業の研究開発の助成する総額2,200億円の基金です。
この基金は2020年度から国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に設けられる予定で、3~5年をめどに半導体やITなど通信関連の企業のほか、技術が応用される自動車や産業機械メーカーなどとも協力し、日本の技術を結集する国家プロジェクトとして、最先端の半導体や通信システムの開発を加速させるねらいです。
総務省は自動運転車や電力の無線伝送といった新技術の開発を推進することで、電波関連の産業規模を2040年に現在の3倍の112兆円に拡大を目指すと発表しています。日本でもようやく中国やアメリカと先陣争いすることに本腰を入れ始めました。
NTTが頑張る
日本における6Gの研究開発で、先頭を走るのがNTTです。NTTでは性格の異なる2つの技術分野で、世界に先駆けて無線による100Gbpsデータ伝送実験を成功させました。
1つ目の技術は、OAM(Orbital Angular Momentum:起動角運動量)多重伝送技術を用いたもの。
2018年5月に世界初となる100Gbps伝送実験(距離10m)が、屋内(電波暗室)環境で成功。同年12月に開催された国際会議「IEEE GLOBECOM2018」では、信号処理の改良によって、さらに120Gbps伝送に成功したことが発表されました。
2つ目はまだ利用技術が確立されていない、300GHz以上の周波数資源の開拓を目指して開発が進められていたもの
で、2018年6月にNTTが東京工業大学と共同で行った実験で、300GHz帯での100Gbpsデータ伝送に成功しました。
そして2019年5月には理論的な通信容量の上限である「シャノン限界」を達成するとともに、実現可能な符号化方式の開発を発表。さらに同年6月に、「IOWN(アイオン)」と呼ぶネットワーク構想も発表しました。これで世界標準になることを目指し、有力企業に参加を呼びかけています。標準技術となるかどうかは参加表明する企業数や顔ぶれが大きく左右するものと見られています。
NTTの取り組みは止まりません。2019年10月に、ソニー、米インテルと6Gの技術開発のためのパートナーシップ締結を発表しました。6G通信を担う光で動作する新しい原理の半導体開発で協力、さらには1度の充電で1年間使うことのできるスマートフォンの開発も計画に含まれるのです。
NTTではインテルやソニーと組むことで、半導体チップの量産化に向けた技術開発の加速を期待しています。この3社はまた、2020年春までにアメリカに6G事業を推進する業界団体を設立し、中国も含めた世界の有力企業の参加を受け付ける予定です。
各国の動向
各国の6Gに関しての動きについても確認してみましょう。
中国
中国政府は早い段階から「6Gの研究開発に最も積極的なのは中国だ」とし、2020年までに6Gの研究開発を始めるという計画を発表。それを受け中国の通信機器大手である華為(ファーウェイ)が2019年8月にカナダのオタワに6Gの研究組織を設立しています。
2019年11月には中国科学技術部が、国家発展改革委員会、教育部、工業・情報化部、中国科学院、自然科学基金委員会とともに、6G技術研究開発活動始動式を開催し、同時に国家6G技術研究開発推進作業チーム及び全体専門家チームの発足が宣言されました。
アメリカ
トランプ米大統領は2019年4月のイベントで6Gに言及し、一気に次世代戦略に踏み出す動きを予感させます。トランプ大統領は同年2月にも自らツイッターで、「さらに6Gもなるべく早く実現したいので、アメリカ企業は6Gの取り組みをも強化しなければならない」と述べていました。アメリカが中国勢に押され気味の5G時代を早々に終わらせ、6Gで主導権を奪回するシナリオを描くのは当然なのかもしれません。
トランプ大統領のこの発言に前後して、FCC (Federal Communications Commission=連邦通信委員会)は将来6Gに利用される可能性があるテラヘルツ波と呼ばれる周波数帯を、研究向けに開放することを決定し、利用規則を発表しました。これにより研究者らはテラヘルツ波を正式に使うことができるようになったので、6Gの幕開けとなる一歩を踏み出しています。
トランプ大統領の大号令だけでなく、専門家からも6G時代を見据えた正式な国家戦略を求める声が上がっているようです。
韓国
韓国の大企業では6G研究開発を推進しています。その代表格であるサムソン電子では今年の上半期に次世代通信研究センターを新設しました。また、LG電子も韓国科学技術院(KAIST)と共に、6G研究センターを開設。SKテレコムはサムスン電子と、KTはソウル大学のニューメディア通信共同研究所と業務提携を締結し、5Gに続く世界初の6G実装を目指しています。
予測が難しい6Gの今後
日本も含む多くの国が研究開発に着手している6Gですが、その多くの考えがいまだ憶測レベルのため、2020年からの10年間の見通しがあまりに不透明で、予測が非常に難しい状況です。
解決が必要な課題も多くあります。例えば6Gにおける電磁波の人体への影響。5Gでは人体への影響は認められなかったのですが、6Gではより高い周波数帯域が使われることになるため、まずはその影響が充分に検証されなければなりません。
とはいってもし6Gの時代は必ず到来しますので、日本が6Gの勝ち組に入るには、民間企業での積極的な研究開発、業界、国を超えたコラボレーション、そして日本政府による支援の継続が必要です。
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