インド発「OYO」は、日本の不動産・ホテル業にどんな激震を起こすのか。

インド発「OYO」は、日本の不動産・ホテル業にどんな激震を起こすのか。

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2019年3月29日インド発のホテルベンチャーOYOが敷金・礼金・仲介手数料なしで即入居が可能な賃貸サービスのOYO Lifeで日本の不動産業に参入しサービスを開始しました。

OYOはインドネシア、中国そしてイギリスなど世界8カ国でホテル事業を展開しています。日本ではヤフーと共同でOYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN(商標:OYO Life)をOYO66.1%、ヤフー33.9%出資で設立しました。

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2015年にソフトバンクがOYOのホテル予約サイト事業であるOYO Roomsに1億ドル(100億円強)出資し、OYOはさらに2019年にソフト・バンク・ビジョン・ファンド(いわゆる10兆円ファンド)から10億ドル(1100億円強)の資金を調達しています。驚異的な成長率を誇るOYOの評価額は5,000億円を超え、現在はユニコーン企業の一社です。

OYOの資金力もさることながら、注目すべきはその驚くべき技術力の高さです。OYOはシステムを全て内製化しており、従業員約8,500人のうちデータサイエンティスト、人工知能などのIT技術者が700人超を占めています。

OYO Roomsでは経理、予約、清掃管理などホテル運営に必要な機能をスマートフォンアプリとして提供し、ホテルオーナーがスマホ1台で経営できる環境を作っているのも特徴です。

OYO Roomsでインド国内350都市で10万以上の客室を展開。中国でも171都市、8.7万以上の客室を展開するなど、OYOは「勝ち組」ホテルベンチャーであるため、日本でもまずはホテル事業から始めるのではと予想されていましたが、実際にはこれまでとは大きく異なるアプローチを、不動産業界に仕掛けることとなりました。

OYO Roomsのホテル運用で培った技術力で、空室などの機会損失を最小限に抑えて利益の最大化を図ることが、OYO Lifeの成功するためのポイントとなりそうです。

OYO Lifeの特徴

OYO Lifeの特徴

OYO Lifeの何が新しいのでしょうか、その特徴をあげてみましょう。

  • 敷金・礼金・仲介手数料ゼロ:18ヶ月以内なら料金がお得に。例えば10万円の物件の場合、3ヶ月なら41万円、6ヶ月の利用なら33万円お得(OYO Lifeのウェブサイトより)
  • 家電・家具付きの部屋:初期費用が抑えられる
  • スマートフォンで賃貸物件契約(1ヶ月単位の契約となる)から退去が可能:所要時間は最短30分で契約完了
  • 3日間の「住み試し」が可能

住む期間として31日以上90日までのショートステイ、91日以上のロングステイが選べ、1年半までの賃貸ならお得な料金で住むことができます。30日未満のプランがないのは、日本の旅館業に接触しかねないからとのことです。

特筆すべきなのは、ショートステイなら翌日から生活を始めることができる点でしょう。加えてユニークなのは3日間の「住み試し」があること。

従来の賃貸物件であれば、空っぽの部屋を訪問して数十分程度の見学、確認(内見)するだけで申込をするかどうかを決める必要がありました。当然のことながら、住んでみてから賃貸契約をするか決めるなど、これまでできませんでしたが、OYO Lifeの「住み試し」を利用することで、実際に住んでみてから契約するかどうかを検討できるのです。

OYO Lifeには3つの部屋タイプがあり、

  • マンションタイプ(10万~15万円)
  • 戸建タイプ( 25万~45万円 )
  • シェアハウスタイプ( 4万~6万円)

から希望の部屋タイプを選択できます。

月々の家賃の他に支払いが必要なのは、入居時だけにかかる清掃費(概ね1万円程度)と、水道・光熱費などの公共料金、Wi-Fi料金など全て入って月々1万円程度の共益費の2つです。

入居者には家事代行、カーシェア、コワーキングスペース利用、家具家電レンタルといったシェアリングサービスが1カ月間無料で使える特典「OYO PASSPORT」が提供されます。この特典は賃貸物件を変えるたびに繰り返し受けられるものです。

頻繁に住まいを変えたい顧客に対し、その生活スタイルを維持するために住み替え時の手間を省くサービスといえるでしょう。

現在のところ家具・インテリア・家電のCLASや、DeNAのカーシェアAnyca、シェアオフィスKEY STATIONなど7社の参加ですが、今後は200以上の提携パートナーのシェアリングサービスを使えるようにする予定です。

すでに六本木や麻布十番などを中心に、サービス開始前に貸し出し準備中の物件を含めて都内に1008室を確保しました。SNSなどで情報を知った1万3205人が事前登録し、サービス開始と同時に470室で入居契約が締結されたとのことです。

また物件オーナーには家賃保証として、入居の有無にかかわらずOYOが賃料を支払うとしています。

OYO Lifeのデメリットは

ショートステイを基準にビジネスモデルを立てているので、91日以上のロングステイとなると、契約の種類が変わるため、スマホだけの手続きでは済まなくなり、時間もかかります。

初期費用がゼロとはいえ、現在の物件は東京の中でもプレミアム地域だけですので、毎月の家賃は平均して割高です。今の所の物件ターゲットは足立区、江戸川区、練馬区、板橋区を除く東京19区であることからも、この先も割安な物件は出にくいことが考えられます。

長期間住む家を探す人は従来の賃貸形式の方が得になることが多いので、OYO Lifeでの賃貸は適していません。

日本の不動産業界にもITの風が

日本の不動産業界にもITの風が

日本の不動産業界ではアナログ対応の業務が依然として山のようにあります。賃貸で部屋を借りる従来の方法は、

  1. 不動産屋の店頭の告知などで物件を探し
  2. 不動産屋を訪れ物件を内見し
  3. 賃貸を決めたら保証人を立て
  4. 様々な書類にサインし
  5. 敷金や礼金を払う

などの、複雑で時間のかかる手続きが必要です。このプロセスでは最短でも1ヶ月はかかります。

しかしながら不動産業界にもようやくIT化の波が押し寄せており、最近は「不動産テック」という単語をメディアで見かける機会が多くなりました。わざわざ不動産会社まで出向くことなく、パソコンやスマートフォンでどこにいても条件に合った物件を探すことが、若者中心に常識になりつつあります。

不動産会社も顧客の要望に添った物件の情報を、タブレットなどのスマートデバイスから瞬時に検索できるようになりましたし、賃貸物件のオーナーはパソコン上で収支をひと目で管理することが可能になり、利益計画のシミュレーションが簡単にできるようになりました。

OYOが不動産事業のOYO Lifeを日本で開始したことは、不動産業界にとって想定外でした。OYOだけではなく海外の不動産テックは、既にグローバル展開されているものも多く、今後海外から日本の不動産業界に参入してくるサービスが増えていくことが考えられます。

確かに以前に比べてIT化によりそのビジネスプロセスが進歩している日本の不動産業界ですが、現状の不動産テックレベルで満足をしていると、生き残れないことになるかもしれません。

OYO Lifeではリアル店舗での物件紹介を行なう不動産パートナーとも連携し、不動産仲介ネットワークのOYO Partner不動産の業務を開始しました。従来の不動産ネットワークと異なり、加盟料、システム利用料、保証金、ロイヤリティ、広告負担料はなし。

さらに仲介手数料は1件当たり1か月4,000円、宅地建物取引士の保有者は法人でも個人でも取引可能とするなど、シンプルなスキームで有資格者であれば始めやすい内容です。従来の不動産会社は既存のビジネスと並行して、OYO Lifeや今後進出してくる他の海外不動産テックとの協業を、速やかに始めるべきでしょう。

やはりホテル業界にも参入

やはりホテル業界にも参入

OYO Lifeの本番稼働から数日後の2019年4月4日に、世界第6位で急成長を遂げているOYOの日本でのホテル事業の参入と、ソフトバンクとソフトバンク・ビジョン・ファンドとの合弁会社であるOYO Hotels Japan 合同会社の設立を発表しました。

OYO Hotels JapanはOYO Lifeでカバーできない顧客、つまり日本で暮らすのではなく、日本国内を旅行するすべての人々に対し、快適な宿泊施設を手軽な価格での提供することを目的としています。

日本がアジアで人気のある観光地として急成長していること、さらには2019年のラグビーW杯開催と、2020年東京オリンピック&パラリンピック開催が予定されていることから、OYOではこのホテル事業の開始を大きなチャンスと捉えています。

OYOの創業者であるRitesh Agarwal氏は

人工知能の機械学習を活用したホテルマネジメントシステムや、予測分析に基づくダイナミックプライシング、収益管理システムなどOYOのさまざまな技術をホテル経営者に提供することで、経営者が顧客対応に集中し、収益性の改善などにつなげられるよう貢献していく

と語り、多くのホテル経営者にOYO Hotels Jpaan のビジネスへの参画を求めています。

OYO Life は日本で成功するか

OYO Life は日本で成功するか

賃貸事業そのものでは薄利多売になることが予想されますので、サービスの質や使いやすさ、パートナーが提供するシェアリングサービスの魅力などで高い稼働率を維持することがOYO Lifeには必要です。すでにお話しした通り事業展開する地域も、入退去する人数が多いと見込める都市のプレミアム地域に限られそうです。

市場のニーズに合わせた判断から日本ではホテル事業より先に、不動産事業に乗り出したOYOですが、果たしてOYO Lifeが受け入れられるでしょうか。

日本でもシェアリングサービスは盛り上がりを見せていますが、黒字化に成功している事業は一部のみです。2018年の総務省の調査によると、シェアリングサービスの認知度は最も高い民泊でさえ、31.5%に留まっているのが現実です。

30日以上1年半未満の賃貸期間に特化するという他にないビジネスモデル。OYO Lifeが日本で受け入れられるかどうかで、他の海外不動産テックの日本進出スピードが決まるのではないでしょうか。引き続き注目していきましょう。

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