マーケティングオートメーション、そこまで機能が必要か?(欧米と日本ニーズの違い)
デジタルマーケティングの爆発的な普及により、日本でもマーケティングオートメーション(Marketing Automation =MA) が導入されるようになってきました。
でも日本人には馴染みのない機能も多いので、何をどこまで使うのがよいか、わからない場合もあります。今回は日本でのMAの有効利用を考えていきたいと思います。
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目次
MAとは何か
MAを簡単に説明すると、獲得した見込み客(リード)情報を一元管理し、営業部門の方針と需要に合わせて精査し、営業部門にポテンシャルの高いリードデータを提供するプロセスを自動化したものです。
企業におけるマーケティング活動では、とかくマニュアル処理で繰り返し実施する業務が多く、しかもキャンペーンで獲得したリードデータの鮮度はすぐに落ちるので、いかに早くまとめて営業部門に渡せるかがマーケティングの課題でしたが、MAの導入で複雑な処理や大量の作業を自動化し、仕事の効率を高めることができます。
MAは獲得した見込み客(リード)の情報を一元管理し、主にデジタルチャネル (email, SNS, websiteなど)におけるマーケティング活動の自動化、可視化するソフトウェア製品自体であることも多いですが、今回MAのソフトウェア製品を指す場合にはMAツールと表します。
CRMとの違い
CRM (Customer Relationship Management) は顧客との関係を構築し管理することで、顧客満足度や顧客ロイヤリティの向上を目的として開発されたツールです。MAと比べると機能も得意領域も異なります。
具体的にはMAは複数チャネルに渡るリードの行動のトラッキングを得意としていますが、CRMは顧客の購入履歴や、顧客とのコンタクト履歴の管理などを得意としています。つまりどちらが優れているということはなく、補完し合う関係にあります。MAとCRMの連携で、マーケティングと営業をつなぐ最強のツールが完成します。
マーケティング部門にとって、MAをCRMと連携させる利点は、営業部門との情報共有だけではなく、マーケティング担当者がROIを把握できるようになりますし、リードごとに適切なコミュニケーションができるようになるのです。
日本企業と欧米でのマーケティングの位置付け
欧米のマーケティングは戦略家
欧米企業ではマーケティング部門は非常に広いエリアをカバーする組織です。広告宣伝、消費者や競合他社のリサーチ、プロモーションの立案に始まり、他部門との協業で新製品の開発や価格設定、効果的な販売戦略の立案やブランド戦略で市場における総合的な価値を高める施策を打つことまでマーケティングの仕事です。欧米でのマーケティングは戦略家といってよいでしょう。
ほとんど全ての欧米企業では、マーケティング部門のトップであるCMO(Chief Marketing Officer)という役職を設けています。CMOは営業トップと並列に位置付けられていることが多く、マーケティング活動の一切の責任を負う役職です。CEOをはじめとする企業の役員もマーケティングの意味を理解していますし、マーケティングがわからない人が欧米企業のトップにはなれません。
日本では?
日本企業のトップを含む幹部の多くは、いまだにマーケティングの意義をよく理解していないといわれています。ですからマーケティングは日本のビジネスモデルにおいて、中枢的機能を果たしておらず、企業の意思決定おいて蚊帳の外のことがまだ多いのです。マーケティングへの認識が改善されてきているといえ、無論CMOという役職を設ける日本企業はいまだに少数です。
伝統的な日本のビジネスは「ものづくり」です。ですから製造業が早くから育ちました。「ものづくり」の中心になるのは製品を作る技術者たちであり、良いものを作れば顧客の方から近づいてきて、必ず売れるという理論の元、企業内では1技術者、2営業、3その他という位置付けでした。多くの企業ではマーケティング部門は設けられておらず、あっても営業組織の下だったり、管理部門に属していたりは位置付けは低いものでした。
マーケティング(部門)が不要だった日本
日本企業では広報部門は昔から設置されていましたが、マーケティング組織が設けられるようになってきたのは、つい最近のことです。新規顧客の開拓や既存顧客からの追加受注については、営業担当者各自の人脈を駆使して商談の場を取り付け、顧客のトップを「落とす」ことで獲得してきました。つまり営業担当者に依存した取り組みでもありました。
そして展示会への出展や、プライベートイベントを担当するのも営業組織でした。特に大手企業では営業の各部門の商材やターゲットにより、必要に応じてマーケティング的な業務を行ったので、新規リードデータは各部署が個別に管理しており、一元管理をする組織はありませんでしたが、他部署と情報共有をする必要もなかったのです。
しかしその営業依存で縦割りの業務プロセスも、インターネットの普及で限界が近づきました。顧客はインターネットを通して必要な情報を得られるようになり、わざわざベンダーを呼んでの情報収集の必要がなくなりました。それに加えて多くの企業では物事を決定するプロセスを従来のトップダウンから、ボトムアップで進めることが一般的になりましたので、どんなに顧客のトップに取り入っても成果が上がらなくなったのです。
MAの主な機能
MAツールはEloquaやMarketoといった海外製品が日本でも先駆けてプロモーションしていましたが、今では日本発の製品も複数あります。一般的なMAツールに備わっている主な機能は次の通りです:
- リード管理: 様々なマーケティング活動で得られたリードの情報の管理
- キャンペーン管理: 施策と実施タイミングの計画を支援
- スコアリング: リードの過去の行動履歴やステータスを点数化し、受注に至る確率(確度)の高さを可視化
- メールマーケティング:各リードに最適な内容のメールを作成し、最適なタイミングで自動配信
- ランディングページ作成: ランディングページや問い合わせフォームを簡単に作成
- アクセス解析: ホームページを訪問したリードのアクセス解析
- Web行動解析: リードがホームページのどこをどの位の時間見たかを可視化し分析
- SNSマーケティング: SNS上でのマーケティング活動を支援
- SFA/CRM連携: 営業組織とのリードデータをリアルタイムに共有
海外製のMAツールは、特にステレオタイプな欧米企業が必要とする機能を取り込んでいるので、欧米企業はほぼ100%の機能を利用しているようです。
欧米におけるMAの今
欧米では2000年に世界最初のMAであるEloquaが発表されてから、数多くのMAベンダーが登場し、MAを採用する企業も増え、営業にポテンシャルの高いリードが安定供給される仕組みが確立しています。その周辺ビジネスも数多く登場しMAの導入を生業とする会社、データ分析とレポート専門会社、インサイドセールスのアウトソーシング会社などがエコシステムを形成しています。
欧米ではMA導入が、企業のデフォルトになった感があります。欧米などマーケティング先進国のほとんどの企業では、MAの導入を検討、あるいはどのベンダーのMAを採用するかというフェーズはすでに終わり、今では既存のMAで具体的に何をするか、何とどのように連携させてどこまで可視化するのかというフェーズを迎えています。
日本の状況
ようやくマーケティング組織を設けるようになってきた日本でも、2015年時点で日本では外資系企業の日本法人を含む1500社超の企業で、何らかのMAツールを導入しています。
効率的なマーケティング活動にはリードデータの一元管理が必要ですが、大半の会社ではそれをエクセルの巨大シートにまとめるか、MAツールを導入するかの検討フェーズです。もっともそれ以前の話として、マーケティング費用は展示会の参加に回したりウェブサイトの運用に使うことが第一で、使いこなせるかわからないMAツールにお金を出すかどうかで、足踏みしている会社もあります。
日本でMAの運用を失敗しない秘訣
まず日本企業がMAツールの運用で失敗しないためにはどうしたらよいでしょう。
リードデータの一元管理を行うため、複数部署で別々に保持していた(必ずしも管理ができていたわけではない)既存のデータをアップロードしたらデータの信頼性を高めるにも、ダブりを潰しておきたいですね。特に日本では欧米と違い、転職する人が以前より急速に増えたとはいえ、一つの会社に長く勤める人が未だ多いです。
長く在職していれば異動が何度もあり、さらに出向して別の会社所属になることもあります。部署ごとに別々に名刺交換してそれをデータ化していたら、リードは一人なのに名刺交換した回数分、別々にデータが存在している可能性が高いです。あるいはもう無効な転職前の会社と現会社と別々のリードデータが存在していることもあります。
まずは同一人物のデータを抽出して現在有効なものだけを残したいと考えます。欧米は表記の仕方に幅がないので、例えば会社名で抽出したら、ほとんど漏れは出ないでしょう。しかし日本語では漢字、カタカナ、ひらがな、横文字表記の、少なくとも4種類の記述方法があり、さらには株式会社の有無、あっても(株)略語だったりです。特に海外企業は日本企業が求める抽出がそこまで複雑だと考えて、MAツールを開発していません。
MAツールさえ買えばなんとかなる、という甘い気持ちを捨て置くべきです。
欧米の真似をするだけではNG
リードそれぞれの興味を探り興味のある情報を、とても目を引く美しいレイアウトのメール(html形式)に添付して2週間から1ヶ月の間に数回にわたり配信して、最終的にリードに自社の製品やサービスに興味を持たせる手法はナーチャリングといいます。
欧米ではこの方法が顧客にも浸透しているため、確度の高いリードを抽出する有効な方法ですし、どのMAツールでもナーチャリングの機能はとても優れています。
しかし日本の状況は違います。伝統的なセキュリティ管理の観点から、日本ではhtml形式のメールを受け取れない設定にしている企業が未だ多いのです。そういう企業へのメールはテキスト形式になりますので、インパクトのあるメールというわけにはいきませんし、すでに2回目のナーチャリングのメールで、配信停止にされることが多いのです。配信停止にされてしまっては、そのリードは以後どんなメールでも受け取らないので、リード側からしても機会損失になってしまいます。
誤解しないでいただきたいのは、ナーチャリングそのものが無意味であるということではなく、その方法を日本流といいますが、自社のリードに受け入れてもらうものにすればよいのです。
欧米の成功事例をそっくりそのまま再現するのではなく、マーケティング戦略を立てた上で、MAで生み出す成果をあらかじめ定めそのためにすべきことを明確にし、それぞれに優先順位をつけて、必要な機能の使い方だけ理解すれば良いのです。もし導入したMAツールの標準機能でできなければ、追加開発も視野にいれるべきです。
まとめ
MAはマーケティング・営業活動をサポートします。そして、多くのBtoB企業の課題である、人員リソース不足を解決してくれます。しかし流行に乗って、ただなんとなく導入すると痛い目にあいます。
MAを導入する前に、会社のビジネス目標に即したマーケティング戦略を立て、MAですべきこととその成果について明確にすることで、マーケティング活動そして営業活動の効率化を実現しましょう。
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