ワーケーションを日本政府が推進(そもそも休暇中に働くってどうなの?)
2020年7月、コロナ禍で落ち込んでいる観光需要の回復に向けて、日本政府は観光戦略実行推進会議(議長・菅義偉官房長官)を開催しました。その場で菅氏が、「新しい旅行や働き方のスタイルとして、政府としてもワーケーション普及に取り組んでいきたい」と明言。
このところ聞くようになったワーケーション。果たして日本で本当に受け入れられるのでしょうか。
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目次
ワーケーションとは
ワーケーション(Workation)は英語のワーク(work)と、バケーション(vacation)を合わせた造語です。ワーケーションはオフィスや自宅を離れ、リゾートや温泉などで休暇を過ごしながら働くこと。家族と一緒に旅行に出かけて、滞在中の合間に仕事をすることもできるといもの。
旅先で休暇を楽しみながら仕事するというスタイルは、アメリカで生まれたものといわれています。2015年のウォール・ストリート・ジャーナルの記事の中で、「休暇と仕事の一体化を、上司に申請する人が増えつつある」として、早くもワーケーションの概念について説明されていました。
アメリカでは日本同様に概して有給休暇取得率が低く、休暇中でもオフィスに連絡を入れる人が多いことが、ワーケーションが生まれる要因で、IT業界を中心にワーケーションを取得する人が増えているようです。
ワーケーションのメリット
自由な場所で好きな時間に仕事ができるだけでなく、休暇を兼ねているので家族サービスや自分自身のリフレッシュも同時にできるというのが、ワーケーションの最大のメリットでしょう。またワーケーションという名目で長期休暇がとりやすくなるという点も一般的に言われるメリットです。
ブリージャーとの違い
休み方の新たな別の方法として、ブリージャー(Bleisure)があります。こちらは出張に観光やレジャーの日程を追加するという出張スタイルのことで、世界的にワーケーションより先に広まった方法です。日本でも外資系企業の日本法人の従業員が、まずブリージャーを実行するようになり、その影響を受けて今は日本企業でも、申請する人が増えていますね。
日本政府がワーケーションを今推進するわけ
冒頭で言及した観光戦略実行推進会議では、2020年1月までは、どうやってインバウンドに多くお金を落としてもらうかを主な目的とし、「2020年4,000万人の実現に向けた観光政策について」という議論が行われてきたのです。
しかし新型コロナ感染の拡大で、4月にはついに緊急事態宣言が発令され、海外旅行どころか、国内旅行の自粛も余儀されました。その結果インバウンド4,000万人計画は白紙となり、議論の方向性が変化せざるを得なくなったのは当然といえます。
6月に開かれた会合ではコロナ禍での路線変更により、「日本の観光の再生」が新たなテーマになりました。その後7月開催の会合で、観光庁が「休暇の分散、ワーケーションの推進に向けた取り組み」について、環境省が「国立・国定公園、温泉地でのワーケーションの推進」という資料を提出。以下環境省の資料の抜粋です:
「新型コロナウイルスの流行以降、感染リスクの低いキャンプ場等の自然志向の高まりとテレワークの定着が進み、ワーケーションの機運が高まっている」
「ワーケーション推進に伴うロングステイとエコツアーの利用促進により、withコロナ時代の地域経済の下支えや平日の観光地の活性化を目指す」
コロナ禍で観光産業は大きな打撃を受けており、倒産する旅行会社、閉館する旅館が出始めています。観光産業の支援のため、早急なアクションが必要になったのは言うまでもありません。
それに屋外のアクティブティであれば、3密になりにくいため、コロナ禍でも推進しやすいかなと、誰もが考えるところなので、「国立・国定公園、、、」という発言になったのでしょうか。
ワーケーション推進事業のために2020年度補正予算で、501の団体に対して22億円が補助金として支給されることになりました。
すでにワーケーションに取り組む和歌山県
和歌山県は2017年から、全国の自治体に先駆け、ワーケーションの取り組みを開始しています。首都圏、京阪神から空路でいずれも1時間という好立地に加え、世界に誇る観光資源を誇る和歌山県は、災害に強いネットワークを整備し、ワーケーションツアーのモデルを提案し、主に首都圏の企業を招きました。
特に事例の多い白浜町では、2019年までに104社910名が体験し、85サービス55事業者が登録、これまでに13社がサテライトオフィスを設け、1社が何と東京から本社を移転しています。
また和歌山市加太では、住民が力を入れており、同地区では加太地域活性化協議会、加太まちづくり会社、観光協会、住民有志らが独自にワーケーションや移住の受け入れを進め、この取り組みは加太モデルとして知られるようになりました。
和歌山県の先導で、2019年にワーケーション自治体協議会(WAJ)が発足し2020年7月時点には91団体(1道9県81市町村)が参加しています。
ワーケーション定着の壁
リラックスできるリーゾートなどで、時々仕事をするというのは、幸せにちがいありません。しかも日本政府の後押しがあれば、現実化も遠くなさそうな気もしますが、果たして日本に定着することができるのでしょうか。壁になりうる点を考えてみましょう。
1.実はテレワーク実施率は低く、有給休暇の取得率も低いまま
緊急事態宣言が出た直後、企業規模にかかわらず多くの企業がテレワーク実施に、前準備もおぼつかぬままで踏み切ったことが報道されました。特にIT環境の整備が十分にできていないために、テレワーク推奨と言いつつ、ノートPCが従業員に提供できなかったり、稟議書のハンコのため、結局出社が必要になる従業員も多かったのです。ですから緊急事態宣言が解除になったら、従来通りの通勤がほぼ復活した企業が多いのです。
7月に実施された東京商工リサーチの調査(対象1万4,356社)では、在宅勤務を現在も実施中は31.0%、実施したが現在は取りやめたが26.7%、実は一度も実施していないという回答が何と42.2%という驚きの結果も。
日本人の有給休暇の取得率の低さも、相変わらずです。厚労省が行った2018年就労条件総合調査結果では、サラリーマンの年次有給休暇日数の平均は18.2日で、そのうち取得した日数は9.3日で、取得率は51.1%。また、夏季休暇の制度がある企業は44.5%ということ。
この結果からわかるのは、相変わらず有給休暇は取りにく、まとまった休みとなればなおさら難しいということです。しかもリモートワークが定着していないのが日本の現状なのに、旅先でのテレワークって、ありなのでしょうか。
しかし2019年4月1日に有休取得の義務化されたので、長期休暇を取りやすくするための方法の1つして、ワーケーションは有効なのかもしれませんが。
2.企業業績の悪化、雇用環境の悪化による賃金低下
コロナ禍が長期化するため、企業業績の悪化、雇用環境の悪化が止まりません。企業業績を下方修正した上場企業が、7月の時点で1,000社に達しました。日産自動車では、2020年3月期の6,712億円に続き、2021年3月期でも6,700億円の巨額赤字との見込みを発表。帝国データバンクの8月の発表によれば、コロナ倒産は全国で400件を突破したとのこと。
これだけ企業業績が悪い中、同じ待遇で勤められることも難しいのです。厚労省の7月の発表によれば、会社員の実質賃金が3か月連続マイナス、5月は前年同月比で2.1%減。
しかも給料が減るならまだましで、解雇や雇い止めが、すでに4万人超に達しているのです。明日の仕事確保の見通しがないような、状況に置かれている人々が増えているといえます。
しかし仕事がありそうなところが、たまたまリゾートだったということなら、この状況を逆手にとって、ワーケーションで仕事が増えるという可能性はありますが。
3.ワーケーションの費用負担と働く人の意識
所属企業でワーケーションを導入したとしても、先立つものがない場合には、ワーケーションを行うことは不可能です。旅行会社大手のJTBが、前述の観光戦略実行推進会議に提出した資料によれば、家族3人で5泊6日のワーケーション消費額は約65万円。
世帯収入が3ヶ月連続マイナスになっている家庭はもちろん、そうでなくてもこれだけ出費するなら旅行に専念したい。リゾートへ行ってまでZoomで上司の顔を見なければいけないなんて、絶対に拒否ではないでしょうか。
無論会社が全額は無理でも、半分でも費用負担してくれたら別でしょうけれど。
4.ワーケーションできる職種は限られる
旅先であってもなくても、そもそもリモートワーク100%で仕事が完結できるのは、日本では一部の限られた職種の人だけかもしれませんね。テレワークを推奨している企業でも、管理部門の従業員は緊急事態宣言中でも、出社しなければ仕事にならない人がほとんどでしたし、今はテレワークをメインにしている人でも、週1~2日は出社している人が多いのです。
公共交通関係者、スーパーの従業員、宅配業者においては、現場を離れてできる仕事があるかという疑問が。
しかしながら管理部門でもeSignatureなどの導入で、ハンコと紙文化をやめられたら状況は変わりますし、またUber Eatsの宅配のように、どこにいっても同じように働ける環境が整っていれば、ワーケーションが可能な職種が広がりそうです。
5.ネットワーク整備率の低さ
環境省ではワーケーション導入支援の一環では、国立・国定公園、キャンプ場、旅館、ホテル等を対象に、Wifi環境整備のための助成金を支給する運びです。
日本のWifi普及率は首都圏内や都市部では高くなってきましたが、地方の、特に「空気の良い」山間部などは、携帯電話の電波すら届かないところも多いので、Wifiどころではありません。
和歌山県のように、最近は高原リゾートの近くなどに自治体のバックアップを得てWi-Fi環境が整備されたサテライトオフィスや、コワーキングスペースが登場しているが、状況を改善するには、国と地方自治体に頑張ってもらうしかないですね。
6.コロナ感染の再拡大があれば、完全アウトかも
そもそも感染が再拡大していコロナ禍が終息しないことには見通しは暗そうです。ワーケーションによる感染拡大の恐れも否めないからです。
観光関連業者ではない、観光地周辺に住む人たちの拒絶反応も、まだ大きいです。県外ナンバーの車を見つけると、いたずらされるということが以前頻繁に起こりましたが、地元の人の心情は今も穏やかではないでしょう。この壁は打開策を考えるのがまだ難しいです。
今後ワーケーションをどう見る
考えてみると、日本でワーケーションをすぐに普及させるのは、かなり難しそうですが、最後にひとつ明るいニュースを。日本トレンドリサーチが2020年8月に実施したワーケーションについてのアンケートによれば、約4割の人が普及していくと回答。これは普及する希望はありますね。
日本政府の具体的なテコ入れで、ワーケーションか可能な拠点がが拡がっていけたら、将来インバウンドが戻ってきたときに、外国人のワーケーターに、日本の観光リゾートが人気の受入れ地域となる可能性も広がると考えられます。
コロナ禍がちょっと落ち着いたら、始めてみたいと思いませんか。